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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
153/187

SS 女神

注意:以前投稿したものと同じ内容です。

話の流れ的に最後に入れた方が良さそうだったので、移動しました。



 真っ白な部屋の中、薄緑のローブを着た 一人の女性が座っている。


 薄い黄色の長い髪を床に流し、目は伏せられている。その顔は神々しいまでに整っている。


 だが彼女には本当の姿はない。見る者によって変化するのだ。


 人族が見れば、人族に。


 魔族が見れば、その姿はまるで魔族のように見えるだろう。


 彼女は女神。魔神を封印したとされる女神。


 そして魔神もまた、見る者によって変化するとされている。





 女神は思い出していた。


 長年続いた魔王と勇者の歴史 その最後の一人の勇者の顔を。


 悲し気に目を瞑る彼女は、1つ呟く。


『彼には悪い事をした』


 その思いが呼び水となり その原因となった魔神との駆け引きを思い出していく・・・









 魔神を封印した時、妙な呪いを魔族と人族に掛けたことは知っていた。

 もちろん、最初の頃は 魔族と人族が戦うのを抑えていた。

 しかし 自らの力の衰えを感じ出した頃に一度 魔神に封印を解かれかけたのだ。

 あの時は危なかった。

 せっかく大陸を上下に分けてまで会わせないようにしていた魔族と人族に神託を下し、

 大陸を繋ぎあわせた後、魔族・人族の勇士達と力を合わせてなんとか封印しなおしたのだ。


 魔神は封印と同時に呪いによって勇者と魔王の関係が始まったと思っているようだが、意外と歴史は短い。

 それでも 寿命の短い人族や、いくら長いといえども人族の10倍ほどしか生きない魔族にとっては

 途方もなく長い歴史だろうが・・・。


 幸運なことに、魔神は 女神の力が衰えたために封印が解けかけたとは思っていなかったようだ。

 あの者は『勇者と魔王の戦いの余波も役に立つものだ』と言っていたし。


 そこで女神は 策を講じた。

 もう再び大陸を上下に分ける力も残っていない。このままでは魔族と人族は また戦いだすだろう。

 封印直後に呪いをかけられ、魔に抵抗の弱い人族の勇士が 魔族の勇士を刺したあの時のように・・・  

 ならばせめて魔神に、勇者と魔王の戦いに興味を持たせ、

 封印解除の注意をそらそうと考えたのだ。

 もちろん、勇者と魔王の命で封印されているのに変わりはない。

 しかし だからこそ魔神はこの戦いに興味を示すだろうし、

 全力で魔神が封印を解こうとすれば、衰えた力では抑えることは出来ないだろう。


 ・・・これがただの世界の延命だとしても、やるしかない。


 *



 覚悟を決めた女神は、封印された魔神の元へ行く。

 そして女神のような やわらかな笑みを浮かべ、魔神にささやいた。


「魔王と勇者、どちらが勝つか ゲームをしましょう?」


 ゲームの内容は簡単。

 自分が気に入った力を持った者を掛け合わせて 剛の者を作ってお互い戦わせる。

 魔神は魔族、女神は人族の中から配合を決めて掛け合わせた。

 まさに神様の配合ゲーム。

 魔神の呪いのため 民族の中で一番強いものが魔王や勇者になると決まっていた事も幸いした。

 魔神は封印された後、まさに死ぬほど退屈だったため すぐに このゲームに夢中になった。

 女神も負けないように必死になった。負けて、魔神が興味を失わないように。

 賭けは最初行われたが、魔神がすぐに賭けに飽きたため 行われなくなった。


 配合の神託は 魔族と人族両方とも女神が行った。

 大陸が長い間分断されていた為に両方で女神の呼び名が変わっており 同一の存在とは思われなかった。

 一体何が幸いするか分からないものだ、と女神は笑った。

 そうして純粋に勇者と魔王の戦いが 続けられていった。


 こうして最後に生まれたのが あの勇者だった。


 *


 最後に生まれた勇者。彼は少し特別だった。


 これは彼の勇者が生まれる数年前。

 ここ何代かの魔王が負け続け続けていた魔神は 原因を考え込んでいた。


「私のこの魔王、なぜ皆負けるのだ。力も勢力も魔力も負けてはおらぬのに。

 女神に頼み込んで 勇者が魔王の本拠地に乗り込む方法にしてみてもダメだった。ということは・・・」


 魔神は一つの可能性にたどり着く。

 魔王を強くするためにいろいろな確率をいじって配合を試して ようやく作り上げたこの能力。


「これを勇者に与えてみよう。魔族ならばある程度融通は利くが、魔に弱い人族の事。

 一体どうなるだろうな。女神の驚く顔が楽しみだ!」


 そうして勇者が生まれた時、女神が気づかぬよう 細心の注意を払ってソレを溶け込ませた。

 これがきっかけとなり今回の結果をもたらしたのだ。




-------------------------------------------------------------------------------


 この世界では、誰でも一つ 能力を授かる。 

 剣の能力なら、他の者より剣に秀でる。

 治癒の能力なら、他の者より治癒力が上がる。

 この能力がある者は、持っていない者に比べて格段に強い力をあつかえた。


 そんな世界に生まれた ある少年は、まだ幼かった。

 だが、幼いながらも武術に魔法に才能を発揮し、体力もどんどんつけていった。

 大きな町に住んでいたが、大人たちは少年を『この街に勇者が生まれた』ともてはやしていた。

 しかし7歳の頃 不思議な事が起こる。


 ある日、ガキ大将が売ってきた剣勝負を受けた。

 そのガキ大将には他の子とは違い、相手を威嚇するような剣さばきを持っていた。

 小手先の技術がガキ大将よりも豊富だったため 軽くいなして勝った勝負だったが。


「お前には負けたよ」


 そう言ったガキ大将が 次の日から剣を振れなくなった。



 負けて落ち込んだとかそういう事ではない。

 剣を持つ事も出来る、振ることも出来る。

 しかし少年に負けてから、持ち前の威嚇するような剣さばきが すっかり無くなっていたのだ。

 それにショックを受けたガキ大将は、剣を捨てた。


 そして少年の方はと言うと、前からスピードと反射神経はよかったものの、威嚇するような攻撃的な剣さばきは無かった。

 なのに。

 今、素振りをするその姿からは、威嚇をする獣のような威圧感が漂っていたのだった。


 そんな事が何度かあり、いつしか町の大人達は噂を始める。


「あの子は勇者なんかじゃなく、人間に化けた魔族なんじゃないか」

「勝負に負けた人間から、能力を奪い取っているのではないか」


 そういう能力を持つ魔王がいた事実も噂に発車をかけ、9歳の頃には町に居られなくなった。


 *


 家族3人でその後移り住んだ町でも 同じようなことが起こる。

 自分に勝負を挑み、負けを認めた者の能力が持ち主を離れ 自分に宿っているのだ。


 いつしか少年は、勝負を受けなくなっていた。

 負け犬と罵られても 勝負から逃げ、一人で稽古をするようになっていた。

 それでも商人や旅人から噂は伝わってくる。元々居た土地が大きな町だったため それも早かった。

 噂が追いついてくるたびに家族は逃げまどい、住居を変える。


 最後に移ったのは、噂も届かない山奥の小さな村だった。

 そこでは心根のやさしい人も多く、よそ者の家族を暖かく迎え入れてくれた。

 穏やかに話す両親と村長。そして、


「うちの一人娘の、遊び相手になってくれないか?」


 村長は少年にも、暖かな言葉をかけてくれた。



 村長の娘と 少年の年が近かったせいもあるだろう。

 ちいさなちいさな村には 村長の娘しか子供が居なかった為 すぐに一緒に遊ぶようになり、魔法の練習もするようになった。


 村長の娘は治癒術が得意だった。少年は見よう見まねで練習をしていた。

 少年は治癒術が苦手だったが 何度失敗しても諦めなかった。村長の娘も根気よく教えた。

 たまに、村長の娘が勝負を持ちかけてくることがあった。


「どちらが早く傷を治すのか、競争しましょ」


 それは勝負というには可愛らしいものだったが。

 しかし少年は、のらりくらりとそれをかわし続けた。

 いつしか娘も勝負をしたいとは言いださなくなった。

 そして1年経ち、12歳になった時、少年は気づく。


 勝負をしていないはずなのに 村長の娘の治癒の能力が 自分に移っていることに。


 *


 最初は、いつも通りに治癒術を練習しようとしただけだった。

 剣の自主練でついた傷。そこに治癒術をかける。

 すると、いつもより光が強く 怪我も一瞬で治ってしまった。

 まるで 村長の娘がかけた術のように・・・


 最初はよろこんだ。ついに練習の成果が出たのかと。

 しかし ふと考える。今までもこんな急に出来るようになった事があったよね・・・。

 それに気づいた少年は混乱した。


 まさかそんな!あの子の能力を奪ってしまった?!


 すぐに村長の家に駆けつけると、治癒術が今まで通りに使えないと言って 娘が泣いていた。

 なぜだ!なぜ勝負も何も受けていないのに才能を奪っている!?

 そして最悪の考えが頭に浮かぶ。

 受け入れきれなかった少年は絶叫を上げ、そのまま村を飛び出した。




「そうだよ。君の才能を奪う力は進化しているんだ。

 以前は勝負で負けを認めた者の才能を奪うだけだったが、

 今はもう、一定の時間 一緒に居た者の力を奪えるようになっているのさ。

 魔族同士ならば魔に抵抗力があるから この力をコントロールできるが、

 人族だとこうも面白い結果になるとは!面白い!実にいい暇つぶしだ!!!」


 封印の中で、少年をずっと観察していた魔神が笑う。

 魔神が授けた能力は、まさにこれだった。

 初めは魔王が勇者の力を奪えないかと考えた力。

 女神が神託を下すときに 何かしたのだろう、魔族同士でしか発動しなかった時には悔しい思いをしたが。


「だが、人族同士の場合も検討しておくべきだったな、女神よ。」


 魔神は 薄く微笑んだ。




 *




 女神は怒っていた。

 魔神が勝手なことをした事に。

 その可能性に気づかなかった自分に。

 あまつさえ、ここまで能力が大きくなるまで気づかなかった事に。


「私に出来るのは、これ以上力が強くなるのを抑える事のみ。」


 抑えなければ、最後には 人とすれ違っただけで能力を奪ってしまうだろう。

 女神は悲しみをたたえた顔のまま 眠り込んだ少年の額にそっとキスをする。

 その瞬間、少年を白い光が包み込む。そのまま光の膜に覆われた。


「完全に能力の進化を抑えられませんでしたが、格段に緩やかにはなったでしょう。

 しかし、今持っている奪う能力の強さは変わりません。

 こうなった以上 早くに旅立ち、人と関わりを持たず、一人で魔王に挑むしかないのですね・・・」


 そして、そのままそっと消える。


 女神が消えた後、少年は目を覚ました。

 村を飛び出した後、近くの洞窟に逃げ込んで眠ってしまったらしい。


 悲しくかった。

 辛かった。

 もう村には戻れないと思った。


 しかし夢の中で美しい女性が出てきて、能力の進化を抑えたと教えてくれた。

 この先どうすればいいかのヒントももらえた。


「強くなって・・・一人で魔王を倒す・・・!」


 魔王を倒せば 能力が無くなったあの子も、きっと安心して生きて行ける。

 そのあと自分がどうなるのかは分からない。

 ただ 人の害になるだけだと思っていた自分に目的が出来たのが、うれしかった。


 そうして、少年は旅だった。

 誰にも告げずに、1人。

 こうして少年は、定められた勇者としての道を歩き始めた。




 *




 女神は笑顔で魔神と対峙していた。

 怒り狂って訪れると思っていた魔神は、予想外の光景に動揺する。


「なぜ笑顔なんだ。怒っていないのか?」

「いいえ? それよりも久しぶりに賭けをしません? 以前のように、勇者と魔王の勝負の結果で。

 あなたが勝ったら あなたの封印を解こうと思っているのですが」


 驚く魔神。しかしすぐに表情をひきしめた。女神は続ける。


「ただし私が勝ったら・・・あの子の能力を取り出してください。

 あなたが渡したのでしょ? ならば取り出せるはずです。」



 魔神は聞く。


「私が不正をしたと言って、能力を取り出すように言いくるめないのかい?」



 女神は笑う。


「そんな事、私が頼んだだけで行う様な方ではないでしょう?

 奪う能力を取り出したとして、他の厄介な能力を入れられても困ります。

 賭けなら、あなたも言うことを聞いてくれるでしょう?」



 魔神は笑い、「確かに」とつぶやいた。


「さすが 長い付き合いだ。すべて見抜かれているとはな。分かった、賭けに乗ろう。」




----------------------------------------------------------------------


 つい思い出に浸ってしまい、女神はため息をつく。


「まさか、勝負の結果が付く前に魔王と勇者が相打ちとは。

 そのおかげであの子も能力の苦しみから解放されたとはいえ・・・まだ・・・」



 女神はゆっくりと目を瞑った。

 彼を、見守るために。



 

 すべては彼女の甘さが招いた結果。

 彼女は、すべての結末を 見届けなければならない。

 それがどのような最後でも。


 それが彼女の、自分への・・・。

 そして勇者として神々の遊びの犠牲になった、少年への・・・。

次回メモ:次章


いつも読んでいただき、ありがとうございあmす!!!

一応これで、天海編終了です!

おかしい、話の流れ考えた段階だったら3話で終わると思ったんだ・・・どこで膨れたんだコレ・・・村長老とかアイの名前とか「なの」の語尾とか、無かったはずなのに・・・膨 れ た !


しばらく間あくかもしれません!

すぐかもしれません!

( `・∀・´)ノヨロシク

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