天海からお送りします
さて、ここは氷の世界樹のそばにある、石碑のある湖。
すっかりオレンジ色になり始めた日の光を反射してる。もうすぐ夕方だもんな。
アイが湖に手を浸け魔力を込めると、湖の一部が凍ってメリメリと割れた。底が露わになる。
「道を作ったの。行くといいの!!」
すげえぜアイ!さすが氷の大精霊!
「でも道が、ニルフ達のいる湖畔の逆方向から始まってるんだよなぁ」
「このおっちょこちょいさえなければ、威厳のある大精霊と呼ばれるんじゃろうに・・・」
「うるさいなの2人共!!!」
楽器屋のおっさんと風の爺さんに良いように遊ばれてんな、氷の大精霊。
ぜひ2人にイジられまくって、威厳のある大精霊とやらになっていくがいい。
俺は心の中だけでそう呟いて、湖畔をまわって氷で水がさえぎられた道を進み、入り口を目指した。
実際に言って聞こえたら、怖いもんね!
入り口から氷で囲まれた道を進む。
湖は進むほど深くなってたようだ。見上げるかぎりの高い氷が、俺達の両端に佇んでる。
ギザっとした表面の大きな壁が両端にダーン! ってあってメッチャ圧力感がすごい。
みんな無言で早足になってる。
・・・声出しても、割れないよね? これ。倒れ込んで来たら死ぬ自信あるぞ!
しばらく進むと、大きな広場状になった所があった。
先頭を歩いていたピンキーが頷いて、一番真後ろの銀も頷き返す。
最初に入ったピンキーの手のサインがGOだったので俺達もゆっくり入った。
空はすっかり、夕日色に染まっていた。
中は、氷で出来た広場だった。
まるでそこだけ真冬の湖。
地面は土では無く、薄く張った氷で満たされていた。
ちょっと足を踏み出すだけで、ツルツル滑る。
「あー!!!」
黒蹴がコケた。
そのまま氷の広場の中央辺りに向かって滑って行く。
と思ったら俺の足つかみやがった あいつ!
急いで俺に手を伸ばすピンキー! の横でユーカがコケた!?
ユーカ掴んで踏ん張るピンキー!
その横をすり抜ける俺達!!!
『ギャー!!!』
「ニルフさん踏ん張ってくださいよ!」
『無茶いうな!』
〔ちょっと2人共まえ、前!!!」
若葉の叫びに前見ると、目の前にはポッカリとデカい穴が口を開けて俺達を待って・・・。
『イーヤー落ちるの嫌ぁああああ!』
「たすけ! 落ちたら死ぬ! 落ちたら死にますって!」
〔靴! 靴で飛んでくださいよ2人共!?〕
その手があったか!!!
と思ったら背中に引っ張られる感覚があって、フッと体が滑るのが止まった。
少し浮いてる気がして後ろを振り向くと、銀が俺達の首根っこ掴んで浮いてた。
≪天駆ける靴≫で。
反動で、黒蹴のポケットからポロリと飴玉が飛び出した。
それはそのまま滑るように穴の方に転がって・・・そのまま消えて行った。
「穴に向かう斜面か」
『・・・』
「・・・ゴクリ」
銀の言葉に言葉を失う。
銀が掴むの遅れてたら、俺達も今頃は穴の中。いや、空中に投げ出されてたのか。
ブルリと身震いした、その時。
背後から、ものすごいデカい音!!!
ビックリして振り返ると、湖畔への道を作ってた氷が解ける所だった。
そして、道と広場の間にはすぐさま厚い氷が張っていく!
ちょっと待ってこれって、俺達は帰り道を失ったって事!?
「後戻りはできない、って事だね」
ピンキーがザクザク音をさせながら、こっちに歩いて来た。なんで滑らないの?
よく見ると、地面からちょっと浮いてた。
天駆ける靴から出た雷が、ザクザクと氷の表面を砕く。
ユーカは? と思ったら、ピンキーに おんぶされてた。
なるほどその手があったか!
「さて、後戻りも出来なくなった事だし。皆、進む心構えは出来ているね」
ピンキーが場をまとめてる。
俺と黒蹴は、穴 (魔界への入り口)を覗き込んでる。
ちなみに2人とも、落ちないように銀に首根っこを掴まれたままだ。
なんか・・・前見た時は『穴があるなー』くらいしか分からなかったけど、こうして覗き込むと・・・。
「下、真っ暗だけど海ですよね」
『竜巻が穴の周りにあるんだけども』
「これ落ちたら死なへん?」
いつの間にかユーカも混ざってた。
銀しか聞いて無さそうだな、ピンキーの話。
〔・・・月明かりがあるとはいえ、真っ暗な中、竜巻の間をすり抜けて魔界に入るのは危険ではありません?〕
俺の懐から、若葉がピンキーに質問を投げかけた。
どうやら若葉はピンキーの話をちゃんと聞いてたっぽいな。ピンキーもすぐに返事を返す。
「うん。だからテントを氷の上に立てて、一晩野宿しようかなって。しっかり杭を打ち込めば穴に滑っていくことは無いだろうし。
・・・寝てる間に転がって行かないでよ? 2人共」
「はーい、分かってますって」
『はーい、なんで俺達だけ?』
「一番心配な2人だからだよ。ただ、気になるのが、どうしてアイはこの時間に出発さs」
ピンキーが何か言いかけたとき、バッシャアアと大きな水の音!
またかよ!!? ほんと、何ていうかさ?
『ピンキーがしゃべると、邪魔ばっかり入るよな!』
「ホントにね。銀、場所分かる!?」
「・・・広場を形作る氷壁の奥。太陽の沈む方向」
銀の言葉に太陽を探すと、その方向から もう一度バッシャア! と音がして、大きく水が吹き上がる!
その水柱が収まったと思ったら。
デカい龍と目が合った。
透明だ。うねってる。透明だ。顔こわい。
『うーわー』
「気の抜ける声出さない! ユーカこっちへ! 銀、2人抱えて何とかなる!?」
「無理ちゃうかな? ほら、あれ見てみ?」
ピンキーの背中にしがみつきつつ。
変にのんびりした言葉と共に、ユーカが真上を指さした。
その先には、空に登ったさっきの龍。
そいつは大-きく口を広げたと思ったら。
そのまま落下してきた。俺達に向かって。
その時、
「逃げろ!」
って銀の声が一瞬聞こえたけど。
駄目だと思うんだ。
だって、龍の口の大きさ、この広場より大きいんだもん。
*
気づけば、龍の中にいた。
いや、正確には・・・龍の口の中だ!
「みんな無事!?」
ピンキーが驚きつつも点呼を取ってる。
周りが透明だから、一瞬宙に浮いてるのかと思った。
「龍に頭突きされた衝撃で浮いてるのかと思いました!」
「頭突きされてたら今頃つぶれてるやろ!」
黒蹴兄妹も無事の様だ!
〔大丈夫ですか?〕
「怪我は?」
若葉も銀も無事だ!
仲間達もしっかり全員そろっている!
てか銀、まだ俺と黒蹴つかんだままなんだな。ピンキーもユーカおんぶしたままだし。
俺は首根っこ掴まれたまま、龍の外を眺めてみる。
龍自体が透明だから、口の中は月明かりで結構明るいし、外もしっかり見える。
曲がったガラス通したみたいに、景色はグニョンって曲がってるけどね。
若〔龍は・・・止まってるみたいですね〕
ニ『だな。俺達を口に入れた後、地面に寝転がってるって感じ?』
銀「どうするピンキー」
ピ「脱出・・・しない方が良さそうだね」
銀「了解」
黒「どうしてですか?」
ユ「アイの作った龍とか?」
ユーカの言葉を聞いた 黒蹴が叫んだ!
「なるほど!!!」
ビッィイイン・・・。
声の振動が 龍の体を かけめぐる!!!
龍は 大きく飛び上がり
穴にむかって 突撃した!!!
っておい!
穴の直径より龍の頭の方が明らかにデカいだろう!!!
ピ「大変だ! この広場より大きい頭の龍が穴に突っ込んだら、俺達ごと粉々になるかも!!!?」
黒「うそ!? 死にたくないです!!!」
ユ「にーちゃんがデカい声で叫ぶからやろぉおおお!?」
黒「こうなるなんて思わなかったんだよ!!!」
ユ「声デカいねん にーちゃん! あほーーーー!!!」
黒「アホって言う方がアホなんだってーーー!!!」
ピ「喧嘩してる場合じゃないよ2人共!? うわっ!」
銀「ぶつかるぞ、捕まれ!」
「「〔『ぎゃー!!!』〕」」
ぶつかる!!!!
酷い振動が体を襲い、衝撃で四肢がバラバラに・・・バラバラに?
『なってない・・・な?』
〔助かりまし・・・たんですの?〕
周りの景色が白い葉から、霧、深い青へと移り変わっていく。
見覚えのある空の色だ。
どう見ても龍が入れないと思ったのに、穴は龍を吸い込むように全てのみ込んだっぽい。
ほっと息を吐いたのもつかの間で、景色はすぐに、灰色の風の吹き暴れる竜巻へと変わっていった。
たすかった~!!!
「なるほど!これで魔界まで降りろって事なんだね!」
ピンキーが叫んだ瞬間、龍が砕け散った。
落ちる!
--*天海・氷の世界樹の根元*-------------
楽器屋のおっさん → お
氷の大精霊・アイ→氷
風の大精霊・じいさん→風
の3人でお送りします
お「そういえばあの魔界に行くって穴。
天海と海面、ここからじゃかなり距離があるだろ? 兄ーちゃんら、大丈夫か?」
氷「ぬかりはないの! ・・・うーん・・・それ!」
お「おぉ、デカい氷の龍!!! あれで送るんだな!」
氷「え? 違うのよ?」
お「は?」
氷「あの人達の中に、風を固めて足場に出来るって人がいるのよ。
アイ、風の大精霊にしっかり聞いてたのよ♪」
風「そうじゃそうじゃ。確か若葉という若い巫女が、そのような魔法に目覚めたんじゃよ」
お「・・・なあ、若葉って、あのハープの神様と同じ名前なんだが・・・?」
氷「・・・ぁ、なの」
風「・・・ぉう、なのじゃ」
お「・・・。
ところでその、アイ、ってなんだ? 氷の大精霊」
3人は、旅立った若者達の無事を心の底で祈りつつ、夕日を背におしゃべりに花を咲かせた・・・。
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皆それぞれ、天駆ける靴で落下のスピードを緩めている。
銀だけが俺を掴んだまま靴で飛び、俺がハープで魔力を回復させていった。
だが。
どんどん小さくなる竜巻の直径と強くなっていく風のダメージに、1人、また1人と意識を失って落下していく。
俺は必死に風魔法で皆に回復をかけるけども。
大きくうねった竜巻に体を大きく打ち付けて、目の前が真っ暗になって・・・。
そのまま。
・・・。
。
次回メモ:女神
いつも読んでいただき、ありがとうごあいます!!!
次回投稿の女神は以前 先走って投稿しちゃったのを投稿しなおすので、明日投稿になりますが内容は同じですスンマセン・・・。