アイの気持ち
『なぁ、なんでアイはさっき飛んでったんだ?』
俺は回復魔法を混ぜてハープを弾きつつ、若葉に聞いてみる。
風の爺さんの言葉を聞いて飛んでったように感じたけど、俺には理由が分からなかった。
〔「氷の奴と本人の希望により、儂は辞退したんじゃ」ですか? そりゃあ・・・〕
「当然、「本人の希望により」って所とちゃう?!」
『なんで?』
横でアイの頭を氷魔法で冷やしていたユーカが会話に入ってきた。
氷の大精霊の頭を氷で冷やすって、治療法としてはどうなんだろう。
「そりゃ、自分の好きな人が他の人の好意を蹴って、自分を選んでくれたからとちゃう?」
〔この場合の「本人の希望により」というのは、『アイさんを選ぶ』という意味は含まれていないのでは?〕
「え、なんで?」
〔風の大精霊様のお誘いは拒否しましたが、楽器屋さんがどの大精霊様を選ぶかは、誰も知りませんわよね?〕
「そこはアレやん。最初に一目ぼれされたって言ってたし」
「「氷の奴と」って所で、自分の好意をバラされたと思ったからじゃないですか!?」
女子同士が楽し気に話す中、いきなり黒蹴参戦。
「いやにーちゃん、そこは既に言ってるやろう。ウチも今の彼氏に言うたし」
「いや普通は由佳みたいに初対面で「一目惚れしました」とか言わないからね?」
〔言ったんですかユーカさん!?〕
ちなみに本人はまだバレてないと思ってるみたいだけど、おっさんにはすっかりバレている。
ってか、おっさんが「一目惚れされた」って言ってたから、アイがおっさんに「好きなの!」とか言ったのかと思ったんだけど。
皆の話的に、本人は隠してるつもりだったんだな。
笑いながら俺達の話に加わったおっさんによると、アイが惚れた部分は、「楽器を作る腕前」だそうだ。
確かにあの透明な枝を見事な楽器に仕上げるなんて、そうそう居ないだろう。風の爺さんもそう言ってたし。
だから2人共、楽器の材料調達に協力してるんだな。
「そうだぜ兄ーちゃん。ちなみに最初の練習用ハープに使用していたのは、風の世界樹の枝だな」
マジか!!!(3回目)
*
数時間後。アイがやっと起きた。
「うぅぅ・・・頭がまだ痛い気がするの・・・」
『ソンアコトナイヨ』
「チャント頭ヒヤシタヨ」
「ハヤク試験シマショウヨ」
俺と黒蹴とユーカの3人に介抱されてる事にちょっと驚いた顔をしたが、すぐに頭を押さえて呻きだす。
若葉が心配した。
〔ほ、本当にきちんと治しましたの?〕
『ナ、治シタヨ』
「ウン、うちチャント冷ヤシタヨ」
「ハヤク試験シマショウヨ」
〔ならどうして、皆さん棒読みなんですか?〕
『え、き、気のせい?』
「気のせいちゃうかな?」
「ハヤク試験シマショウヨ」
「おぬし等・・・」
風の爺さんが、絶句していた。
あ、爺さん回復魔法かけんなよ!
せっかくちょっと弱らせてたのに!!!
結局すっかり元気爽快になってしまったアイが、(また樹にぶつかって倒れないうちに)さっそく試験をしてくれる事になった。
「昨日の夜に試練してれば、今頃おまえら魔界だったのになの」
なんかブツブツ言いつつ楽器屋のおっさんをチラッチラ見てるのが気になるけども。
俺達をさっさと送り込んで、おっさんと早くいちゃいちゃしたいのか?
けど昨日ってさ。
一日歩いて来た冒険者を夜も寝かさずに戦わせてすぐに魔界に送り込むって、かなり酷いと思うんだ?
「しょうがないから、サッサと終わらせておねんねさせてやるなの!!!」
アイが叫びつつ両手を大きく振り下ろすと。
俺達を白い、冷たい粉が覆い隠した。
それが晴れた瞬間、目の前には。
俺達が1人ずつ、増えていた。
すごい! 俺の分身、若葉もちゃんと持ってるぞ!
次回メモ:試練
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!
霧がよかったので短めですん。