機嫌をなおせ!
氷の大精霊の機嫌が直らないので、樹から降りてくるまでおっさんの今までの冒険を聞くことにした。
一応、冒険者としての先輩だし。
「兄ーちゃんは俺の事、楽器屋として以外では扱いが適当だな」
『ソンナコトナイデスヨ センパイー』
「オウソウカ ハッハッハ」
〔2人共棒読みですわね〕
そういえばこのおっさん。
若葉は世界樹島では会った事がないらしい。
何度もここ(氷の世界樹)に来てるって言ってたから、世界樹島の常連なのかと思ったんだけどな。
一体どうやって地上と天海を行き来してたんだろう。
『わかった!!! 隠れて世界樹島に出入りし』
「いや無理だろ」
おっさんに即答された。かなしい。
〔本当でしたら世界樹島に上陸するには許可が必要なんですのよ。
一介の冒険者さんでしたら、普通は降りないほどの、許可が〕
「はい! 神様!!! わたくしは世界樹を経由しないで来ているんですぞ!」
〔なるほど、そうでしたか〕
『おっさん、キャラ崩れてんぞ』
「世界樹島に行かなくても来れるんですか?! 楽器屋さんはどうやってここまで来てるんですか?」
「っていうかウチらめっちゃ世界樹島行ってるけど、後で罰せられへんよね!?」
「何か、俺達の知らない抜け道があるという事ですよね!?」
なんかおっさんがもみくちゃにされ始めた。
おっさんを中心にした団子みたいになってる。
ちょっと離れて様子を見るか。
〔巫女としても気になりますわ。ニルフさん〕
『え、やだあそこに混ざるの』
「うわー助けてくれーーー神様ーーー」
おっさんの悲鳴が聞こえる。
俺はそれをただ見つめている。
見かねた銀がスッと、団子の中に入って行った。
*
てことで。
解放されたおっさんによると、最初の一回のみ。初めて天海に行った時だけ、世界樹島を経由して向かったらしい。
服に付いた汚れを叩き落としつつ教えてくれた。
襟元も締め上げられたようにヨレヨレになってるし。誰がやったんだ。
ちなみにおっさんに詰め寄った3人は今、銀に怒られてる。
立って叱られる2人の中で、何故かピンキーは、正座させられてた。
俺は横目でチラリとそれを見て、すぐにおっさんに目を戻した。
『一回目だけ世界樹島に行ったって事は許可は下りたんだな』
「いや、東の大陸の端っこから泳いでいった」
『無許可!?』
〔そこですか!?〕
『じゃあ二回目からは?』
「ああ、それはな」
ふいにおっさんがフッと横に目線をずらした。
つい目で追う。と。
「儂が送ってるんじゃぞい」
『あぁぁぁああああ!?』
目の前一杯に真っ白なモジャモジャが!!!
足元の雲が盛り上がって襲い掛かってきた!?
と思ったら、風の大精霊の爺さんが、雲の間からひょっこり現れただけだった。
風の大精霊はつぶらな瞳の1mくらいの白い髪と髭のおじいちゃんな見た目なんだけど。
急に雲の間から出てきたから滅茶苦茶驚いた。
髭もじゃ皺ジジィの顔に驚きすぎて つい指さして叫んじゃったよ。
「これ、人を指さすんじゃないぞい」
『イテェエエエエ!!!』
ふわっと俺の足元に飛んできた爺さん、そのままグキっと左の人差し指をさかさまにねじられた。
関節の逆を向く指。
しかもこっちの手、指さしてない方なのに!
『ぐぉぉぉぉ、なんでこっちの指・・・』
俺が左手を押さえて呻くと、おっさんとじいさんが声を合わせて。
「「そりゃ右手はハープ弾くからだ(じゃ)ろう!」」
さも当たり前みたいにいうなよぉぉお! てか普通両手使うだろ!
〔だ、大丈夫ですかニルフさん〕
『うぅぅ・・・ハープ弾いて治す・・・』
ハープを足で挟み、残った右手で演奏して怪我を治していると、爺さんに付いて来た風の小精霊達が爺さんの周りを嬉しそうに回り始めた。
その中に、見慣れた薄黄緑の2人が混ざっ・・・
あ、あれシー君とフーちゃんだ。
*
俺の怪我が治ったのを見計らって、おっさんは続きを話し始めた。
「実はな、伝説のハープ使いの話は、風の大精霊から聞いたんだ。
いつか風に好かれる人が現れた時に、このハープを作ってやってほしいってな」
『風の爺さん・・・』
おっさんはとても優しい瞳で俺のハープを見つめ、しみじみと語る。
「俺の作ったハープ、最高だろ?」って感じで語ってるけど、これ作ったのほぼ俺だぞ。
「兄ーちゃんらの話も、風の大精霊からたまに聞くぞ。海龍を手なづけたとか、街を1つ救ったとか。なんだか凄い冒険をしているらしいな」
『いや、大半は俺達の冒険じゃないと思うけど』
「そうか? 案外皆、自分の功績には疎いものだぞ?」
風の爺さんよ、おっさんに伝えたその冒険の大半は勇者君がやったやつじゃない?
おっさんは ひとしきり笑った後。急に真面目な顔になった。
「次は俺が聞いていいか?」
『どうしたんだおっさん、珍しい』
「その腕輪なんだが、俺の持ってるのと「同じ」ものだよな?
なんでお前らのや俺のは、色が虹色なんだ?」
『えっとこれは・・・』
おっさんから振られたのは、思った以上に真面目な話だった。
けど俺は、答えを知らなかった。
どっかで聞いた気はするけど思い出せないから、きっと聞き流したんだろうな!
おっさんを見ると、期待の籠った眼差しで俺を見ていた。
風の爺さんから俺達の何を聞いているのか知らないけど「俺の知らない事、お前らなら知っているんだろ?」と、目が語っている。
このおっさんに「知らない」って言うのはなんか悪い気がするけど。
知らないって言っちゃってもいいかな。
いいよね。
『ごめん俺知ら』
「宝石の色の事ですか?」
俺が「知らない」って言おうとした瞬間。
横からピンキーが颯爽と現れた。
ピンチの瞬間に現れるヒーローみたいだ!
「俺達も詳しい事は分からないんですが、勇者と同時期に≪登録≫した事により、こうなったようです。
てっきり、宝石が透明(地上の世界樹全てを《登録》した証)になった方が皆、そうなったと思っていたんですが」
「いや、違うな。俺の宝石が虹色に輝いてすぐに、以前天海に来たことのある奴に会いに行ったんだが、そいつのは透明なままだった」
「そうですか・・・。残念ですが、俺達にも分からないですね」
「そうか。悪かったな」
「いえ」
お、ピンキーがうまく誤魔化した。
と思ったら、ピンキー自身も腕輪を見つめながら考え事を始めた。
『あれ? どうしてピンキーも考えてるんだ?』
〔独り言ですかニルフさん? そうですねぇ・・・。勇者君さんと無関係の一介の楽器屋の方の宝石が、虹色になっている事と関係があるのでは?〕
『なんでそれで考えるんだ?』
〔あら、ニルフさんは知りませんか?
昔話に、「勇者の仲間の宝石が虹色に輝いた」という箇所がありますわよね?
ピンキーさんは、そことの矛盾を考え込んでいるのでは?〕
あれ、そんな話あったっけ。本気で俺だけ聞き逃した?
考え込むおっさん、考え込むピンキー。2人とは違う理由で考え込む俺。
風の爺さんが笑い出した。
「ほっほっほ、それは儂から説明しようかの。
大精霊が一番気にかけている者の宝石が、力を得て虹色に輝くのじゃよ。
この男の場合は楽器作りの天才じゃから、ワシのお気に入りにするつもりじゃったんじゃがのぅ」
『風の爺さんは楽器が好きなのか?』
「そうじゃよ。風と音、音楽は相性がよいからの。
じゃが、氷のやつと本人の希望により、儂は辞退したんじゃ」
「え、い・・・今なんて・・・なの?」
腕組みしてそっぽを向いていた氷の世界樹がチラっとこっちをみた。
「氷の奴と本人の希望により、儂は辞退したんじゃ」
「~~~~!!!!!」
真っ赤になって飛んでった。
おーい、俺達の試験はー?
あ。透明な枝に頭ぶつけて落っこちた。
すごく痛そうな音が響いた。
皆が急いでアイに駆け寄る中。
後ろの方から「大精霊が気に掛ける相手に、何か条件はあるのですか!?」というピンキーの声が聞こえてきた。
さすがだピンキー。
そして質問に対する風の爺さんの答えは、「自身の属性は関係なく、どの大精霊でも気に入られれば虹色になる」だった。
楽器屋のおっさんの、感嘆するような声も聞こえる。
爺さんもおっさんも慣れてるっぽい。
ところで、なんでアイは爺さんの言葉で飛んで行ったんだろうな。
次回メモ:女子
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!