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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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もっかい天海へ

 さて今日は珍しく、皆が早朝からバタバタしている。

 今廊下をかけて行ったのは、多分ケモラーさんだ。軽い足音と一緒に細いひも状のものが擦れる音がしたからな。

 何度もドアの前を通る音と、たまに荷物を落っことす音。

 俺も、早く準備始めないとな。


 寝間着のまま使い慣れたリュックに荷物を詰めていると、自室のドアが叩かれた。

 開けると、大きな荷物をいくつも持った兵士さんだった。

 高く積み過ぎていて顔が見えないけど、腕が鎧だからたぶん兵士さん。


「持って参りましたよ」

『あ!ありがとうございます!』


 くぐもった声の主から、俺の名前が書かれた包みを笑顔で受け取ってベッドに座り、ワサワサと開けた。

 そこには・・・。


〔何かと思ったら、新しい装備コートだったんですのね〕

『おうよ!』


 ベッドに立てかけた若葉に答えつつ、俺は以前より綺麗になった外套を広げた。

 この外套、天海で偽若葉 (っていうか若葉に乗り移った初代紅葉さん)に大鎌で切られてボロッボロになったのを数日前に食堂で繕ってたら、通りかかった王様が「フォ!?」とか言ってたんだけど。

 その後すぐに王宮魔導士さんが来て、持ってった。

 修復しますねって言って。


『今までも怪我して結構ボロボロにはなってたんだけど、あの鎌での一撃がひどかったらしくてな。服に掛けてた魔法が駄目になってたから、直接王宮魔導士さんが修理するとかなんとか言ってた』

〔普段から自分で繕っていたんですのね。わたくし、そこにビックリなんですが〕

『俺結構そういうのは得意なんだぜ!』

〔ふふっ、今度わたくしの服も作ってくれませんか?〕

『おうよ!腰に吊るす布がいい?それとも背中に背負うやつ?あ、やっぱり抱っこ布?』

〔違いますわよ!?〕


 修復された服は、多少肩や胴に布を足してはいるが、以前と同じデザインだ。でも、俺が今までに縫い合わせた後が無くなっている。


〔あら、新しく作り直してくれたようですわね〕


 動きやすいから、前と同じものにしてくれたんだな。

 せっかく新しい装備をもらったんだ。ついでに寝間着も着替えるか。

 早速ズボンを脱ぐ。と、


〔きゃぁぁ! ちょっと、ニルフさん!〕


 若葉に怒られた。生着替えが嫌だったらしい。


〔ドアを閉めてからにしなさい!〕


 違った。






 *






 皆で良く集まる大部屋に、旅装束を着こんだ俺達天海組と、王はじめ東の城でお世話になった人々、そして


「グスッ。いってらっしゃい、ご主人様」


 レモンちゃん達 地上に残る組が集まっていた。

 ピンキーの右手を両手で包み込んだまま、レモンちゃんは泣いていた。

 良く泣くよねレモンちゃん。


「絶対に、生きて戻ってきてくださいねぇ」

「あらあら。ご主人様、レモンは私に任せてください」

「某が皆を守り抜く」

「うあぁぁん泣かないでレモンちゃん」

「なんでキラ子も泣いてんのよぉおお」

「魔界ニ着イタラ呼ベヨ、銀!」

「戦う準備は整えておきます」


 女の子達の励ましの言葉や心配する言葉、たまに涙に塗れた声がかけられる。

 目線は完全にピンキーと銀に向いているけど。

 レモンちゃんとキラ子ちゃんは何故か泣きながら抱き合っている。

 初めて会った時からは考えられないほどに仲良しになってるな。

 それを横目で見てる俺。

 そして俺と黒蹴とユーカの前には。


「やはりワシも一緒に・・・」

「王、いい加減にして下さい。貴方達はこの城の子供達と言っても過言ではありません。必ず、戻ってきてください」


 レモンちゃんと同じポーズで泣き崩れる東の王が居た。

 抱き着かれた格好の大臣は、ものすごいシッブイ顔。

 いつも王に色々言ってる大臣も、流石に君主は突き飛ばせないんだな。顔を後ろに反らせて必死の抵抗をしてるけど。


『東の王様も大臣も、心配してくれてるんだなぁ(棒)』

〔ちょっとニルフさん、言葉が棒読みになってますわよ〕


 あ、大臣に回転投げされた王が飛んでった。

 スゲーとんだな。5mくらい。

 目を丸くする近衛兵達。

 水を打ったように静まり返る大部屋。

 やっちまった、でも満足って顔をしつつ助け起こしに行く大臣。

 ただそんな中で。


「何かいい実験素材があれば何が何でも持って帰ってくださいね!」


 王宮魔導士さんだけはいつも通りだった。





 *


 



「じゃあ、いってくるよ皆!」


 ピンキーの挨拶に続いて皆が口々に声を上げ、俺達は転移した。

 場所は・・・そう、天海。

 地上の昔話にあった「海の穴から魔界に行ける」っていうのは、この前 各国の兵士達が船で隊を組んで行ったけど色々邪魔が入ってたどり着けなかった。

 っていうかすんげー竜巻が、穴があるっぽい所にブゥワーしてて入れなかった。

 俺と銀は王達にその隊に参加するようにって言われて付いていって、直接それを見てきたんだけど。

 ありゃ無理だなって思った。

 逆回転の風魔法ぶつけりゃあ何とかなるっていうレベルじゃなかったなーあれ。


 んで、それを王やピンキー達に伝えた。

 王には天海に行く前に。ピンキーには天海で合流した後に。

 それで、この前みんなで天海から東の城に転移した時に≪魔界へ行く方法の会議≫が開かれたんだけど。

 なんか2~3秒、ピンキーと王宮魔導士さんがコショコショってしゃべったなーと思ったら。


「解決策が見つかったから、天海に行こうか!」


 笑顔でピンキーが宣言した。

 そしてそのまま転移して、今俺は天海に立っています。

 場所は、初めて天海に来た、あの不思議な薄い虹色の木の下。

 今も上を見上げると、陽光を反射してガラスのようにキラキラ輝いている。

 ここ、夜にはどんな色になるんだろうな。

 月明かりを反射して、黄色く、薄青く輝くのかもしれない。

 あ、木の上に あの時の半透明な人影くんがいた。

 上を見上げてひらひら手を振っていると遠くから、背中に声がかけられた。


「さー、行くよニルフー!」

『おー、ピンキーがあんな遠くに』

〔早くいかないと置いていかれますわよ・・・〕


 それは困る。

 走って皆を追いかけた。





『ぜぇ、ぜぇ・・・』

「何も走ってこなくても」

「ゆっくりでもよかってんで? 置いてくけど」

『ひどいぜ2人共・・・』


 必死で追いかけたのに黒蹴とユーカがひどかった。

 大きな傘を葉の茂る地面に突き立てて、その陰に座ってコップを口に運んでいる。

 

「まあまあ3人共。はい、ニルフもジュース。天海は太陽が近いからね。脱水にならないように飲んで」


 ピンキーに渡されたコップを受け取り、飲み干した。

 甘くておいしい。

 ユーカが伸びをして寝転んだ。

 どうやらここで休憩する予定だったから、俺に「走らなくてもいい」とか言ってたんだな?

 たぶん。


 ・・・そうだ。

 俺はふと浮かんだ疑問をそのまま口に出した。休憩ついでに聞いておこうっていう軽い考えだ。


『なぁピンキー。ちょっと聞きたいんだけど』

「なんだいニルフ。おかわり?」

『んや違う。天海からどうやって魔界に行くのかなーって』

「「「〔今更!?〕」」」


 もんのすっごい驚かれた。

 なに俺、変な事言ったっけ?


「マジか、ニルフ今まで疑問に思わんかったんかニルフ」

「ニルフさん、さすがに僕も城に居るときに聞きましたよソレ」

〔ちゃんと説明してくれてましたわよ?〕


 3人にクドクドめっちゃ言われた。

 え、え、マジか。言われてたのか。いつだ、覚えてねぇや。


〔ほら、あの食堂でカレーライスを食べてた時に〕

『あーうん、アレネー』


 ピンキーの国の食べ物の再現のやつ食べてたときね。辛くてヒーヒー言ってたのは覚えてる。うん。

 頷く俺の何が面白かったのか肩をブルッブル震わせる銀。

 その横でピンキーが目元の涙を人差し指で拭きとって、「これは言わない方が面白そうだな」とか呟いてる。なんだ、何を言わないんだ。俺そんな面白い事言ったっけ?

 そしてみんなの笑いが収まったころ。やっとピンキーから聞き出せたのは。


「古来から伝わる方法だよ」


 って事だけだった。

 何だ古来って。そんな伝記あったんだったら、わざわざ海行って死にかけなくても良かったんじゃね!?





 *





 その後俺達は。

 ブーブー言いながら(主に俺が言ってた)何日も歩き続け、時に流れる島に乗り、いくつもの島を見送り島を超え、以前立ち寄った村を超えて、さらにその先に歩を進めた(島ばっかりだな)。

 方向は、一貫して世界樹島から南。

 目指すはちょうど、あの竜巻のあった場所。


 そして3週間ほど過ぎた頃。

 俺達は、その場所にたどり着く。


 ひんやりとした結晶が舞い踊る、透明な樹が生えた、その場所に。

次回メモ:雪


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

わーい200ポイント突破してたー!すごーい!ありがとうございます!

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