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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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天海~彼の者~

 そういえば。天海の村を出てから転移するまでに一度、ピンキーの新能力を見せてもらった。

 その辺に生えてる木を狙っての演武だ。

 生えてるっていうより世界樹の葉で出来た地面から長めに伸びてしまった、例えるなら寝癖ぽい白い木のそばで、ピンキーは気合を入れた。


「はぁ!」


 気合の籠った一喝と共に、尻尾が静電気受けたように毛が逆立ち、半獣化するピンキー。

 手が狼になり鋭い爪が生える。全身を毛皮が覆い、顔も狼ぽくなる。

 ちょうど子狼や、天海の村で変化してたデカい狼と、人族のピンキーを合わせたかのような姿になった。

 っていうか普段から耳とか尻尾とか生えてるから、それより少し動物系に寄せた感じ?


 なんていうか、全体的にもっこもこだった。

 シャープなもっこもこの狼。

 埋もれたら気持ちよさそう。


 ただし手足は狼と同じものだから、加速も攻撃力も上がってそ・・・あれ?


『足はそのまま?』

「ブーツ破いてしまうでしょ」


 よく見ると、足は人のままだった。なんかシュール。

 ピンキーはその姿を俺と銀にじっくりと見せてくれた後、自身の武器である世界樹の片手剣を手に取った。

 そのまま剣に雷を纏わせ、すごい速さで振り回す。あれ? 爪つかわないの!?


「だってこっちの方が攻撃力高いし」

『なるほど!』

「本音は?」

「・・・爪で肉を切り裂く感触に慣れない・・・」


 銀の問いかけに、目を反らしつつ答えた。

 そのまま剣で木に殴りかかった。

 あれ?殴りかかった?


『なんで側面!?』

「ん、言ってなかったっけ?」


 此方に側面を向けてくれたピンキーの剣をよく見ると、剣の型側の面の部分にめりけんサックの様な棘トゲが生えてた。

 先に知ってた黒蹴の説明によると、雷の世界樹の石碑に≪登録≫したときには、既に出せるようになっていたらしい。

 しかし普段のピンキーのスピードだと、普通に切る方が色々と都合がよかったようで、今まで使わなかったとか。


 てか側面に棘が生えるって・・・最初からずっと剣の面でしばき続けていたからか?

 この棘のある方で殴ると「痛い」どころじゃ済ま無さそうだ。


「あの棘も世界樹の剣と同じ強度であれば・・・、棘に相手の武器を上手くひっかければ、相手の剣が折れるほどの強度があるだろうな。

 しかも、こっちの棘が折れても、元々が自己治癒する剣。

 普段のピンキーは相手が目視できる程度の太刀筋の為、棘を相手に悟られただろうが。

 あのスピードならば、棘は隠し玉として有効だな」


 銀が横で解説を始めた。

 なんかちょっと嬉しそうな顔をしてる気がする。

 

『わざと棘追って地面に撒くとかどうだろう』


 俺も考えて銀に言ってみたが、「大量に折れるならいいかもしれないな」と言われてしまった。

 うん、人力じゃ無理だな。


 ピンキーは何度か素振りした後。

 その棘の付いた側面で木を殴りまくり、最後にフルスイングしてそのまま遠心力にのって強力な手の爪での一撃と足での蹴りを食らわせて華麗に着地。

 樹はメキメキと音を立てて、根元辺りから倒れた。


「ふー!!!」


 良い運動したーって笑顔でデコの汗をぬぐうピンキー。

 なんだろう。

 その笑顔が、すげえこわい。






 *





 ー*???*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 地上からの客人たちが去った後。

 天海の村の端では、廃墟のような家が一軒、風に吹かれていた。

 所々崩れかけ、辛うじて建っているようなボロボロの廃墟。

 人通りもほとんどなく、たまに通る村人もこの家を気にしていないため、住む者は居ないのだろう。

 しかし。

 突如ドアノブが、ガチャリと音を立てた。

 扉が軋む。

 そのままゆっくり静かに開いていった。

 出来た隙間から覗く家の中には日光が射しこんで居ないのか、ただただ闇が広がっていて。


 まるで、その闇からにじみ出るように。

 中から巨大な、蜘蛛と蝙蝠を合わせたかのような生物が、ぬぅっと現れた。


ソレは沢山生えた脚を器用に波打つがごとく動かし、偶々家のそばに居た、1人の村人の背に立つ。


そして、生物は尖った足先を村人の肩に・・・。


 フッと、何かを感じたのだろう。村人が後ろを振り返った。

 巨大な鳥類の様な姿をしたひょろ長い男の、その目が驚きに見開かれる。

 口がパカリと開き、わなわなと震える村人。そのまま絞り出すように・・・。


「あれ? お前さん、しばらく家に籠って料理の研究するって言ってなかった?」

「おう、少し息抜きだ」


 世間話を始めた。

 娯楽も少ない田舎だ。話は自然と最近起こった事件・・・地上からこの村に勇者が訪ねてきたという話になっていく。

 鳥の様な男が言う。


「まさか生きてるうちに本物の勇者を拝むことになるとはなぁ。お前さんも今時こんときくらいは研究なんてほっといて、外に出りゃあよかったのに」


 その言葉に、先ほど家から出てきた男は少し残念そうに答えた。


「すごい思い付きをしたもんでな。上手くいけば、何か勇者の役に立てるかと思ったんだが」

「そりゃ残念。

 そういやお前さん、前に地上を旅したって言ってなかったか? 確かそん時のあざ名がシーf」

「そんなことも、あったな。よし、俺は戻る」

「もう、か。たまには外に出ろよ。そして飯食わせろ」

「そればっかりだなお前」


 シマウマ男の言葉を途中でさえぎると、適当に会話を続け・・・。蜘蛛と蝙蝠を合わせたような巨大なその男は、笑いながら家に戻っていった。


 家に入った蜘蛛蝙蝠男は、器用に足でドアを閉める。

 真っ暗な家を見回してその中に巨大なハンマーを見つけると、手で顔を覆い隠してドアにもたれかかった。

 そのままズルズルと、座り込んでしまう。

 まだこの武器を見ると、嫌でも思い出す、か。



 

 *




 あの日。

 正確には、海龍と戦ったあの日の夜。

 激闘の末に勝ち取った勝利の興奮で眠れなかった俺は、酒場で少し飲んでいくことにした。

 結局酒場の酔っ払いたちに武勇伝をせがまれ断り切れないままに酒をおごられ、ずいぶん遅くまで飲んでしまう。

 上機嫌のままで宿屋に戻る途中、見知った姿を見かけたような気がして、心がざわつき、つい追いかけてしまった。

 今なら思う。あの時心がざわついたのは、素直に宿に戻れという本能の警告だったんだと。


 それが誰なのか気になった俺は気配を消して、相手の後を追った。そう、俺はさらに間違えた。

 わざわざ後など追わずに、普通に気配を出して行けばよかったんだ。

 相手は、建物の影に入っていった。その顔が月明かりに照らされ誰だか分かった俺は、つい陽気に声を掛けてしまったんだ。

 不用心に、相手が1人かどうかも確認せずに。


「うぉ~い! おまえこんな所でなにしてんだぁ~? あれ?」

「・・・チッ」

「あん? 誰ダァ?」


 建物の影に入っていった相手に声を掛けると、彼は1人ではなかった。

 黒ローブのくせにエラく目立つ格好をした金髪の男が一緒だ。

 そいつの目を見た瞬間、金縛りの様なものに襲われ・・・そこでようやく、俺の冒険者としての直観に気づく。

 「見てはいけない秘密を見た」

 「早く逃げなければいけない」

 その2つの考えが、急速に頭を駆け巡り始める。


 酔いが一気に冷め、しかし冷たい緊張と冷や汗で世界が回る。


「どうする殺すカァ?」


 男が笑う。


「見られちまったもんナァおまえェ」


 周りの音が、ドア越しに聞いているように鈍く響く。


「いや、その必要は無い」


 妙にはっきりその声だけが聞こえた後、ぷっつりと意識が途切れた。


「今は酒と疲労で体力が落ちているからな。軽くかけるだけで、十分だ」


 最後にかすかに聞こえてきたのは、今まで仲間だと思っていた男の声だった。

 




 *





「それにしても驚きだよなぁ。目ぇ覚めたら人族に化けてたはずのお前さんの姿が、すっかり元通りになっちまってたなんて」


 突如隣で聞こえた声に飛び上がった。


「何でお前ここにいる!?」


 自分の隣で腕組みしつつ、ウンウンと相槌を打っていたのは、さっき別れたはずの村人だった。

 ドアを見るが、しっかりと俺自身の巨体でふさがれている。

 入れるはずは無い。


「ん? いやーこの家ボロいだろ? ちょっと突けば、ほらぁ」


 満面の笑みで壁を突っつく村人。

 突っついた端から壁がどんどん崩れていく。


「家を壊すな!!!」

「いてぇ! なんだよ心配してやってんのにい」


 つい鋭い蜘蛛足で頭を小突くと、村人は叩かれた頭をさすりつつ、口を尖がらせた。

 彼は鳥型なので元々口は尖がっているが。


「それにしても、なんでお前の魔法が勝手に解けたんだ?

 お前の魔法って、人型になるってやつだったよな?」


 そう。 

 俺は以前その魔法で、この村に時折訪れる地上からの旅人の案内役を行っていた。

 使い慣れたその魔法が突如制御が聞かなくなった事に、俺は手部分と決めてある蜘蛛足を腕組みする。


「解ける条件はいくつかあるんだがなぁ、体力を使い切るとか。

 一応、その日の戦いで思いっきり疲れてはいたが、敵から逃げる程度なら解けるはず、無かったんだ」

「不思議だよなあ。その後、人型になろうと思ってもなれないんだろう?」

「・・・あぁ」


 その後、目を覚ましたら何故か森に居て、自身が元の姿に戻っていることに気が付いた。

 そして何度試しても人型になる魔法が発動せず、皆の元を離れる事になった。

 別れの挨拶をすることも、かなわずに。

 地上の人目を忍んで生まれ故郷のこの村に帰ってきた後は家に閉じこもって、好きな料理の研究に没頭していた。


 まさか、勇者君やニルフ達がこの村に来るとは、夢にも思わずに。

 壁に空いた穴越しに彼らを見かけたとき、つい、会いに行こうかと思ってしまった。

 が、割れた鏡で自身の姿を見て、諦めた。

 昔、まだ人化の魔法を覚える前。この姿のままで地上に降りたとき、俺の元の姿は人族には恐怖にしかならないと、知ってしまったから。


 やっと彼らが帰り、心に平和が訪れる。

 そう思って油断していた時に勇者君がこの村に舞い戻って来たときには、心底驚いた。

 その彼も、今は地上に戻っている頃だろう。

 皆、無事ならいいが。


 願うならば、勇者に渡すよう嘆願したあの腕輪が、彼らの行く先を明るく照らさん事を。


「そういえばあの勇者の人。この辺まで来てたらしいけど、真剣な顔して何探してたんだろうなあ」


 村人の言葉に、蜘蛛男・・・シーフはつい、笑みをこぼす。

 本当にあの子は、勘が鋭い。


「お、ようやくちゃんと笑ったな」


 村人も、何故か一緒に笑ってくれた。

 一通り笑って、フッと脳裏に浮かんだ考えに、俺は一瞬首をかしげる。


「(俺が天海族だと誰にも言ってなかったはずなのに、なんであいつは知ってたんだ?)」


 だがすぐに。


「そうだ、お前も早く強くなりたいんだったら、氷の世界樹に認めてもらってこいよ」

「・・・そうだな」


 鳥の姿をした村人の言葉に俺は返事を返して。

 2人分の食事の用意を始める。

 俺を励ましてくれた、古い友人にふるまうために。


「飯の研究はいいとして、最初はこの家の修理だな。お前が旅してる間にすっかり荒れちまって」

「手伝ってくれてもいいんだぜ」

「・・・1部屋3食」

「・・・乗った」

次回メモ:SS


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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