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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
135/187

天海~ブレスレット~

「じゃあ、俺がこのブレスレットの事を説明するよ」


 机に工具を広げ始めた村長老に変わって、ピンキーが教えてくれるらしい。

 ちなみに天海由来のモノだという事で、2人をほっといて説明はケムさんがしても良かったんじゃないかと思ったが、


「私も多少は知っているんですが、そんなに詳しく無かったもので」


 と、申し訳なさそうに言われてしまった。


「さ、ニルフ。ちゃんと聞いてね!

 これは、天海に伝わる特別な技術で作られた物で・・・、なんと、武器の石を1つにまとめる事が出来ます!!!」


「そうなんだ!」

「すごいですね!!!」

「・・・へ~」

『ふ~ん』

〔はぁ〕

「・・・あれ、皆テンション低いね。かなり凄いアイテムだと思うんだけど」


 黒蹴と勇者君が元気な声を上げる中、俺達の反応は萎れた雑草みたいなものだった。


「だって、なぁ」

『だなぁ』

〔わたくしや地上に居る皆さんならともかく、ここにいる方々には魅力をあまり感じないと思いますが・・・〕


 若葉の言葉に バッと顔を上げてショックを受ける村長老が横目に見えたが、皆の目線はピンキーにくぎ付けになっていた。

 なんと、笑っていたのだ。

 しかも、「忘れてたよ」という苦笑いでは無く、「そう来ると思った」という、余裕の籠った笑顔。

 なんだ・・・! 何かほかに、隠された機能があるとでもいうのか!!!


「よく分かったね、ニルフ!!! そう、その機能とは・・・!」

『その機能とは・・・!?』

「俺達の武器の宝石を取り外し、ここに装着する事により!

 武器にはダミーの宝石を付ける事が可能になるんだぁぁあああ!!!」

「「な、なんだってーーー!!!」」


 ピンキーの話し終わるタイミングきっかりに驚く黒蹴と勇者君。

 息ぴったりだな。


『それのどこが凄いの?』

「あ、うん。つまり、プラチナの冒険者および勇者とその仲間という事を、敵に悟られないように出来るって事だね。

 村長老によると、元々これは、武器をあまり使わない天海人が自衛のために開発したものらしいけどね。

 俺達の目的を聞いて、これがきっと役に立つと、用意してくれてたんだ」

「敵をだますには、まず味方から、というピンキーさんの言葉で思いついたんですじゃよ。

 武器に宝石を付けたままの地上の方は、武器の宝石のみを見て、相手の実力を図ると思いましたので。

 さぁ皆さま、武器をお出しください。

 先祖から受け継ぎし我が技術で、宝石の付け替えを行いますゆえ」


 村長老は皆の武器を受け取ると、全身の細く白い毛を使って、流れるように宝石をはがし、ブレスレットに付けていった。

 若葉の宿った石を、ハープに取りつけたときと同じ感じだ。

 武器に空いた穴には、ダミー用の宝石を取り付ける。

 少し色の付いたそれは、なんの属性か読みづらく、しかし何かの属性の石碑に≪登録≫してあると思わせるには十分なものだった。

 宝石を取り付けたブレスレットは、武器の持ち主が腕に嵌めると、サイズきっちりに縮んだらしい。俺は見損ねたけど。

 皆が武器を持って村長老の作業に見入っているが、宝石がハープにくっ付いてる俺にはブレスレットは必要ない。

 少しチラ見して、ハープを弾いて待ってた俺にピンキーが声をかけてきた。


「ニルフはハープに石が付いてるから、ブレスレットは要らないんだったね。

 後でサイズ合わせたダミー作ってあげるから待ってて」


 ハープを弾く手を止めて、ピンキーに頷く。

 なんでも、俺達の仲間の証としてのブレスレットにするらしい。

 じゃなくて、ブレスレットに特別な力があるとか悟られないように、そういう風に言い広めるらしい。


「残念だけど、天海に来た人にしかこのブレスレットは渡せない決まりがあるらしいんだ。

 俺達の仲間になら、来られたらすぐに作ってくれるそうだけどね」


 ピンキーは手元の設計図を振ると、少し困ったように笑って、村長老の所に戻っていった。

 て事は、地上に残った皆は俺と同じダミーのブレスレットを渡すんだな。

 あれはその設計図って事か?


 俺は再び暇になり、若葉と喋りながら弦をはじいた。

 ハープの音色に合わせて、若葉が歌う。

 そのまま、歌うように問いかけてきた。


〔ところで~ニルフさん~。武器、どうしましょ~う・・・〕

『あ”っ』


 忘れてた!





 *






 それから数日の間、ゆったりと村で過ごした。

 本当はピンキーが村長老から技術を教えてもらう間の休憩って事だったんだけど、皆には休憩って事を通したっぽい。

 一度だけ若葉の状態を見せる為にピンキーに付いていった事があったけど、今のままで何も問題は無いだろう、という事だった。

 何度も何度も、村長老にお礼を言い続ける若葉が印象的だったな。


『そいえば若葉って、体の感覚はあるの?』


 ある日のお昼時。

 相手を引っ掻くように体全体で、銀の武術の様な動作を何となく真似してみつつ、若葉に聞いてみた。

 俺は世界樹の木刀が無くなってしまったので、以前ピンキーにもらった猫手で戦おうと思っていた。

 本当は先から魔弾を出すためにもらったやつだけど、一応引っ掻いたり、壁に掛けて登ったり出来るっていってたからな。


〔感覚は・・・ありません。視界だけを取ってハープの石にはめ込んだ感じがしますわ。

 あ、でも〕


 ハープがペロロロロン、と軽やかな音を立てた。


〔念じるとハープは弾けますわね。上手く使えば、ニルフさんみたく魔法が使えるかも〕


 俺の専売特許が!


「ニルフ」

『〔!?〕』


 真後ろから声を掛けられて振り返ると、銀が横に居た。


「それは不意打ち用の武器だろう」


 ポンっと、銀が持っていた木刀を投げた。

 今まで使ってた武器と同じ大きさだ。そのまま感覚で、片手で受け取る。

 ゴリッ。

 手が変な音を出して、木刀がそのまま地面に落ちた。


『何コレ重っ』

「ふはっ」


 手がしびれる!

 腕を振る俺を見て、銀が短く笑った。


 改めて、地に刺さった木刀を手に取ってみてみる。

 まるで磨きたてのようにピカピカだ。

 その真新しい表面に、俺は驚いて銀を見た。


「多少なら、武器は作れる」

『・・・ありがとう、銀・・・!』


 感動しつつ、じっくりとさらによく見ると。

 表面が骨か何かで押しつぶされてる事に気づいた。

 そのおかげでか、石のように滑らかに光っている。

 石の様に硬く締まったこの武器なら、世界樹の木刀と同じくらいの攻撃力はありそうだった。


『でもさ、銀』


 俺は木刀を振りつつ小さく呟く。


『どうしてまた刃の付いてない武器なんだろうな・・・?』


 どうせだったら、剣らしく刃の付いたものがほしかったよ。


 あ、これやっぱりすごく重い。

 中に金属の棒でも仕込んだんだな。

 武器を失ったと思ったのに、銀のおかげで意図せずして、攻撃力がアップした。

 でも重すぎて重心が安定しない。


 ありがとう銀、これをちゃんと振れるようになってから、刃の付いた剣を持てって事だね・・・!!!


 振り回し過ぎてコケて血が出た個所は、ハープを引いたら無事に治った。

 俺と若葉は、泣きながら喜んだ。





 


 そしてあっという間に時間が過ぎ。

 地上に帰る日の朝が来る。


 その時、事件は起こった。


 いつも通りに朝飯を頬張る黒蹴が、あろう事か皆にこう聞いたのだ。


「勇者って何人いるんですか?」

『勇者君1人じゃん』


 黒蹴の言葉に、胸がドキリとした。

 女神様と会った時に自分の正体に気が付いてから俺、少し様子がおかしかったのかもしれない。

 とうとう、黒蹴に、俺の正体がバレたか!?

 と思ったら、スープに手を伸ばしつつ黒蹴は続けた。


「今じゃなくって、過去ですよ」

『なんだ過去か・・・。 この世界を救った1人だけじゃなかったっけ』

「そうでしたっけ。石碑の話見たり勇者君の夢の話聞いたり、そういえば最初にこの世界に来たときに勇者って呼ばれる人の戦いの夢をみたなーって思ったり。そしたら何人いるんだろうって」

『その戦いの夢って俺も見おぼえある。てっきり俺だけしか見てないと思ってたんだけど』

「なんで自分しか見てへんって思ったん? 皆に話聞いてないやろ?」

『え、あれ?! でも記憶として夢を見てるって言うのを聞いたような・・・』


 だって、女神様の話じゃ、確かそうだったはず・・・?

 そう思った瞬間、ユーカが至極呆れたような顔で、言い切った。


「自分が勇者って呼ばれてる夢を自分の記憶って思うって、ニルフも勇者になりたかったん?」

『え? なんで・・・あぁ!?』


 言われてようやく気づいた。

 そういえば女神様、一言もあの勇者の夢が俺の記憶だとも、俺が勇者だとも言ってない!

 確か女神様が言ってたのって・・・「重要な・・・生贄」。

 生贄・・いけにえ・・・イケニエ・・・女神様の言葉が、鮮明に頭によみがえった。


 急激な羞恥心に襲われて、俺は頭抱えて床を転がりまくる。

 背中をゾゾゾ~っと何か靄っとしたものが駆け巡るけど取れないぃぃいいい!

 

ニ『イヤァァアアア恥ずかしいぃぃぃぃ!!!忘れて!今の忘れて!!!』

ユ「っていいつつ、実はうちも見たわぁ。寝る前にゲームしすぎたかなーて思ったけど」

黒「見ましたよね!?」

ピ「・・・ちょっと待ってそれって、銀も見た?」

銀「・・・ピンキーも見たか」

ピ「俺も見た、よ。つまりあの夢がこの世界の以前の勇者の記憶だと証明するには・・・勇者君が見たものと、一致するか、だけど」

ユ「勇者君どこ行ったん?」

銀「アイツなら出て行ったぞ」

ピ「『ちょっと気になることがあるから先に帰ってて!』って言ってすごい速さで駆け抜けていったよね」

ユ「はっや。どこ行ったんや」

ピ「聞く前に行っちゃったよ」

ユ「もうちょい早く気づいとったら、女神様に聞けたな」

黒「なんだか僕の勘違いな気がしてきました。ごめんなさい」

ピ「いや、この考えは案外重要になってくるかもしれないよ」

ユ「どしたんピンキーさん、急に真面目になって」

ピ「少し、この事を真剣に考えてみようと思ってね。皆も何か気づいたことがあれば教えて!」

ニ『イヤァァアアアアはずかしいいぃいぃい忘れてぇぇええええ!!!』

ユ「取り合えずコレ、何とかしよか。セイッ」ドゴォ!

ニ『イッデエエエェェェェ!!!』

ピ「ニルフ・・・」









ニ『そういえばずっと前になんかの戦いの記憶の話を聞いた気がする』

ピ「ほんとうかい!? なんて言っていたの」

ニ『えーっと、相打ち?』

ピ「相打ち? 確かにそう言ったの?」

ニ『ん~・・・?

 忘れちゃったな。でも黒蹴がさ、そん時一緒に聞いてたはずなのに、何の反応も示さなかった気がするんだ』

黒「えっ、僕ですか?

  いやいや、覚えのある話だったら、反応してるでしょう」

ニ『そうだったっけ。どうだったかな~』

ピ「次にまとめて聞くしかないね」


 頭に出来たタンコブを冷やしつつ、俺はピンキーのメモを眺める。

 あ、ハープの魔法で治せばよかった。






 お昼過ぎ。

 楽し気に、天海での最後のおやつを楽しむ皆を眺める。

 その中には勇者君は居なかった。

 別行動をして、皆より後に地上に帰るつもりだと、書き置きが部屋で発見された。

 よっぽど別れたくない友達でも出来たのかな?

 と、そこで頭に浮かぶ事があった。

 

 そうだ、今勇者君がいないって事は・・・。

 皆が笑いあう中、表情を引き締める。

 大丈夫かなコレ。


 意を決して皆に、声を掛ける。

 初めはさっきの事をからかっていた皆も、俺の表情を見て真剣な話だと思ってくれたらしく、静かになった。

 俺が話す内容は、女神に、勇者や魔王に連なる者に話してはいけないと言われていた事。

 皆の表情が、硬くなっていった。






 *






 帰り際、ピンキーの治療した女の子が見送りに来た。泣いてる。それをやさしく手を握るピンキー。

 それを見て、ユーカがぽつりとつぶやく。


「現地妻や・・・」

「由佳は本当に中学生なのかな?」


 その言葉に振り返ったピンキーの表情が忘れられない。

 勇者君が居ないので、村が見えない場所まで歩いてから、東の城に転移で帰った。

 日程は伝えて居なかった為、地上に残った仲間は皆、それぞれの用事に出かけていた。

 夜になれば戻るだろう。

 さすがに王様は居たから、片づけが終わり次第顔を見せるように言われたけどな。


 皆がそれぞれに荷物を部屋に運び入れる中。

 1人だけ大荷物だったピンキーの荷物運びを手伝ってる時に、うっかりリュックを落っことしてしまった。

 中から転がり出てきたのは、村長老の庭に植わっていた果物のジャムの瓶。

 それがゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・、廊下一杯に転がっていった。

 よくこのリュックに入ってたな。

 そういえばピンキー、このリュック後8個くらい持ってなかったっけ?

 ・・・あ!!!


 行商か! 行商の商品なのか!!!






 ーーーーーーーーーーーーー

 久々に帰った城で思い返す。

 あの時。目の前の女神はオレを見て、不安げな顔を浮かべた。


「貴方はどちらなのですか?」

「さあな・・・逆に問おう。オレは誰なんだ?」


 自身のキオク通りの体の感覚を楽しみつつ。しかし少しの絶望を抱きながら、オレは女神に問いかけた。

 ーーーーーーーーーーーーーー

次回メモ:後日談

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