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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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天海~再会~

〔驚きましたわ。意識が光に包まれたと思ったら、急にニルフさんに抱きしめられていたんですもの〕

「うっわニルフ情熱的やん!!!」


 今、若葉が話しているのは、初代紅葉さんと会った時の事だ。

 祠で女神様に祈った後、若葉が意識を取り戻した、あの瞬間。

 外でこっそり見張ってた仲間の皆が、雪崩れるように祠に飛び込んできた。

 そして入り口で詰まった。

 皆が一塊になってゾワゾワゾンビみたいに蠢く中、銀1人だけ、素知らぬ顔で俺の横に立ってたのが面白かったな。


 今は祠の中で皆で円を描いて座って話をしている。

 話の中心は若葉。

 ハープに埋まってる若葉の声が聞こえるのは、シルフが見える俺だけなんじゃないかって不安だったが、なんか普通に聞こえてるみたいで良かったヨカッタ。

 ピンキーが「無意識にハープの弦を使ってるのかもね」って言ってた。


『ってか抱きしめてないぞ!? ハープだから胸に抱えるように持ってただけだ!』

「胸に抱えるように抱きしめてたん!?」

『ちっがぁーう!』


 叫びすぎてせき込んだら、ケムさんが冷たいお茶を出してくれた。

 若葉が目覚めてすぐに、ケムさんがお昼を持ってきてくれたんだ。

 なんか手に取るように行動を把握されてるみたいで、なんか凄く・・・。


「お母さんっぽいですよね」

『ピンキーはお母さんからお父さんになったな』

 

 地上で待つピンキー親衛隊には、絶対に言えない事だ。

 

〔また目覚めた自我を押し込められたとき、初代紅葉様に最初体を明け渡した時と同じような感覚で・・・2人共、聞いてます?〕

「『聞いてます(る)聞いてます(る)』」


 若葉の話は、そのままさっきの目覚めた時の事に続いていった。


〔あの時わたくしが感じたのは・・・暖かな光でした。

 それは、冷たく身動きの出来ない牢獄のような中に居たわたくしの意識を、ゆっくりと溶かしていくような感覚で・・・。

 その時、声がしたんです〕

『声?』


 俺の問いかけに、若葉が頷きを返す。

 いや実際頷いてはいないんだけど、そんな感じがしたっていうか。

 ハープが少しだけ、プルンと揺れた気がした。


〔はい。「いい加減起きなさいよね!」という勝気な声が聞こえまして。

 恐る恐る目を開けましたら、なんといいますか・・・、肩までの長さの青い髪の、緑の服の女性・・・?が、わたくしの前に立っていましたの〕

『女神様・・・かな?』

「でも僕たちの見た女神様とは、しゃべり方が違いますよ?」


 皆を見回すが、ピンキーやユーカ、勇者君も黒蹴と同じ意見らしく頷いた。

 銀だけは、何か考え込んでいたけれど。


「女ってどんな顔やった?」

〔えっと・・・。その女性は、詳しく見ようとすればするほど容姿がぼやけていくというか・・・。

 青い髪の、緑の服の女性、という事しか分かりませんでした〕

「そっかぁ」

〔すいませんユーカさん・・・〕

「ん、いや謝る事無いって。んでどうなったん?」


 ユーカに話を促された若葉は、何があったかを事細かに語り続ける。


 初代紅葉さんに封じ込められた意識の中で、勝気な女性に会った若葉。

 その女性は若葉の自我が目覚めた事を確認すると。

 名乗ることも無く、笑って消えていったらしい。

 

〔そういえば最後に、こう言っていたような気がします。

 「あんたが目覚めてくれないと、困るのよ。もう私はあいつを慰める事も、話す事も出来ないんだから」と・・・〕


 その言葉は、一体誰に向けたものだったのか。

 皆がいろいろと議論を始める中。

 俺はさっき若葉が目覚めた時の事を思い出した。

 もしかしたら若葉が出会った女性というのは、フーちゃんかもしれないな、と思った。







「さて! 皆、そろそろ戻るよ!」


 湿った空気を吹き飛ばすように、ピンキーがパンっと手を鳴らした。

 膝の上にはびっしり書き込まれたメモ帳が乗っている。

 入り口から祠の外を覗くと、日が陰り始めていた。

 そろそろ夕食の時間だ。

  

「今日の晩御飯は何ですか!」

「そうでした、村長老さんが、今晩皆さまを夕食にお招きしたいと伝言を承っていたんでした!」


 黒蹴に夕食を聞かれたケムさんが、しまった! って表情で口元を押さえた。

 でも何で急に?


「皆さまが、そろそろ次の目的地に向かう頃だろうとおっしゃってました。

 その前に、伝えたい事があるらしくて・・・」


 ケムさんが少し顔を赤くしながら言った。

 なんだろ、ピンキーとケムさんの婚約発表とかかな?

 でも、そろそろ旅立つ頃・・・か。

 確かに、女神に会ったし、若葉にも無事出会えたし、あとは魔界に向かうだけだな!


「ニルフ! ぼーっとしてないで早くいくよ! 今からじゃ間に合わない!」


 ピンキーに首根っこ咥えられて、背中に乗せられた。







 *





 


 夕食に招かれた村長老の家のテーブルには、所狭しと沢山の料理が置かれていた。

 全てこの天海の名物料理らしい。

 ケムさんが作ってくれてた地上の料理を織り込んだご飯もおいしかったけど、天海料理全開のこれはこれでめっちゃおいしい。


「地上の人には癖があるかもしれないけどね」


 村長老のお孫さんはそう言ってたけど、俺の口には滅茶苦茶合っていた。

 あ、でもニホン人3人組は、途中でなんかギブアップしてる時があったな。

 銀は普通に食べてたけど。


 何でも村長老は自称・人を見る目があるらしく、俺達の冒険に役立ちそうな事を色々教えたくて呼んだらしい。

 若葉が意識を取り戻したことを話すと、とっても喜んでくれてた。

 そんな村長老。食事中に喋るわ喋るわ。

 俺達を見て気づいた事を、食べてる時間が勿体ないとばかりに言いまくっていた。

 例えば、俺がハープで魔法を使うとき、消費MPが1だったという事。

 例えば、俺が使ったMPは、周りの魔力を吸って勝手に回復してるという事。

 あれ? 俺、村長老の前でハープ使って回復魔法使ったっけ?


 そんな俺の思いにも全く気付かず、村長老は言った。


「若葉殿の宿る石から、ニルフ殿と若葉殿、双方の力を感じるぞ。

 処置を施した時は気が付かなかったが、若葉殿が目覚めた事で、石の機能も復旧したという事じゃろうな」

『ファ!??』


 驚きすぎてファッとしか言えず、そのまま俺はスープを喉にひっかけて苦しんだ。

 もしかすると、ハープの回復魔法が使えるようになってるのかも!?

 若葉も、〔よかったですわ!〕と、一緒に喜んでくれた。




 夕食後。


「勇者様とそのお仲間がこのワシの世代に訪れてくれたというのに、このままおいそれと返せばご先祖様に申し訳が立ちませぬ。

 ぜひ、これを受け取ってくださいませ」


 真剣な表情で、村長老がテーブルに何かを置いた。

 手より少し小さめの箱が・・・6つ?


 それぞれ手に持ち、蓋を開ける。

 中には少し大きめの幅の金属製ブレスレットが、1つずつ入っていた。

 表面は金がかった銀色で、装飾は無くてシンプル。

 クルクルまわしてみると、中央部分に1つだけ、へこんだ場所があった。

 腕に嵌めてみると、ブカブカだった。

 防御力は高そうだけど、これじゃあ腕からすっぽ抜けちゃうな。

 あ、二の腕か。二の腕に嵌めるのか!


「これは・・・」


 何か知ってるらしいピンキーが驚愕の表情で、村長老を見た。

 頷く村長老。

 ブレスレットを見て震えるピンキー。

 そのまま、テーブルにぶつける勢いで、頭を下げた。

 俺はよく分からずに、黒蹴と顔を見合わせる。

 二の腕まで押し上げたブレスレットが、ずるりと手首まで落ちた。


「頭をあげてくだされ。それは元々皆さんにお渡ししようと、この村の者達で作り上げたモノですじゃ。

 初めは、素行や心根を見てから渡すか判断するつもりでしたが・・・。

 ケムの耳を治し、畑の不作を改善させ、村周りの安全を整えるなど、足を向けて寝られぬほどの、無償の善行の数々。なので、これも特別にお渡ししたいと思います・・・」


 村長老がピンキーにソッと手渡したのは、何かの設計図の様だった。

 何が何だか分からないけど、村長老の言う「善行の数々」が、ほぼ俺の知らない内容って事だけは分かった。

 全部ピンキーがやったんだろうな、きっと。

 

 そのピンキーは、村長老と硬く握手を交わし、お互いに感謝の言葉を述べていた。

 どうしよ、話に入れない。


「あの・・・いいでしょうか」


 横から、声がした。

 ケムさんだった。

 ケムさんは申し訳なさそうに、手を握り合う2人に声を掛ける。


「皆さん、置いてけぼりなんですが・・・」


 食後のお茶のお代わりを持ってきた村長老のお孫さんが、大笑いした。

次回メモ:帰


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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