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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
133/187

天海~ハープ~

「あ、お帰りなさい!!!」

「ニルフ! 探してた人には会えた!?」


 ピンキーに連れられてケムさん家のドアを開けたとたん、黒蹴に頭突きする勢いでの「お帰りの挨拶」をされた。

 しかも横には別行動してたはずの勇者君。

 2人共、ドアの真裏でなにしてんの?


 2人の後ろを見ると、突き当たりの部屋リビングのドアが開けっ放しにされていて、苦笑いするケムさんと、その横にはユーカが大人しく座っている。

 白茶を飲んでいたユーカの目が、血まみれの俺の格好を見た瞬間、血相が変わった。

 パッと、立ったはずの彼女の姿が煙のように消える。

 え、消え


「無事か! 無事なんか!!!」

『え、うん傷はふさいだからぁぁぁぁぁああああ?!』


 気づくと、目の前に立っていた。

 そのまま激しく肩を揺すぶられてちょっと待って舌噛んだ止めて誰か止めて!

 正直ここまで心配されるのとか初めてすぎてちょっと戸惑いつつ。

 ゆっくり歩いてきたケムさんと、笑いながらこっちを見ていたピンキーに促されて、家に入った。


 あれ、そいえば銀居ないな?


「居るぞ」

『うぉ!? なんで後ろに!?』

 

 飛び上がった俺の姿に、ニヤリと片方の口角を上げる銀。

 天海に来てから様子がおかしかったけど、元通りになったのか?






 *





 目の前にはユーカ、黒蹴、勇者君。横には銀、ピンキー、ケムさん。

 リビングでケムさんの入れてくれたお茶を飲みつつ、村長老のお孫さんから貰ったクッキーを摘みながら。

 俺は、今日の出来事を皆に話した。

 

『それで、若葉の石を選んだんだけど・・・』

「丘の下で合流した後、村長老に石の処置をしてもらってたんだ」


 細かいところは所どころピンキーに補足してもらいながらだったけどな。

 さすがに武器を差し出した事は怒られると思ったんだけど。

 ・・・そこまで話が進む頃には、皆の表情がすっかりホッとしたものに変わっていた。

 皆何を危惧していたんだろう。


「なんやその血ぃニルフのやったんか。

 よかったぁ。ニルフがストーカー化してとうとう犯罪者になってしもたかと思ったわぁ」

『え、なんで?』

「え!? いや別にこっちの話」


 何を危惧してたの!?

 俺は全てを話し終えると。

 皆の前に、緑色に染まったシルフィハープを置いた。

 黄色いアクセサリーのついたチェーンが軽い音を立てて、机に流れる。

 主軸となっている世界樹の枝には、武器に嵌っていたものと同じ、虹色に光る石が半分になった状態でくっついている。

 皆、無言でそれを見つめるが。

 石は、何も言葉を発しなかった。

 珍しく静かに話を聞いていた黒蹴がソッと口を開く。


「僕達はもう、若葉さんに会えないかもしれないんですね」


 今まで聞いたことの無い悲しみの混ざったその声に、俺は思い出す。

 そっか・・・。

 召喚された時から良く若葉と2人でおしゃべりをしていた黒蹴。

 祭りで初めて若葉が舞った時も、「若葉さんしか見ていませんでした」って言っていたし。

 黒蹴、若葉が好きっぽかったもんな。

 ごめんな黒蹴。初代紅葉と会ったのがお前だったら、若葉を選ぶことが出来たかもしれないのに。


「武器を捧げたって言ってたけれど、ハープの魔法は使えるの?」


 ピンキーが思い出したように俺に聞く。

 確かめて無かった!

 

「弾いてみろ」


 銀が腕からダラダラ血を流しながら言ってきた。

 準備早すぎぃ!!!

 急いでハープを手に取って風魔法を込めて弾いてみるが・・・銀の傷は、ふさがる事は無かった。

 誰とも無しに漏れるため息。

 それが俺に、取り返しのつかない事をしたという事実を突きつける。

 俺は、全ての選択を間違えたのか・・・。

 呆然と、ハープ越しに自分の両手を見つめた。


「そんな・・・せっかくニルフが、会いたい人に、会えたのに。こんな事って無いよ」


 勇者君が悲し気な顔をしている。

 ケムさんがソッと席を立った。

 後を、ピンキーが追う。

 ピンキーがハンカチを持って行ったのを見て、俺はつい振り返った。

 その時。


 俺の懐から、温かくぬくもった何かが滑り落ちた。


 コツーン。


 机に当たり、だけど傷1つ付かなかったそれを、銀が拾い上げる。

 それは、以前若葉にあげた髪飾りだった。


「だが、ソレが若葉では無いと、決まった訳でも無いんだろう?」


 ニヤリと笑った銀の手の中で、葉っぱ型に加工された土と風の精霊石が ランプの光を反射してキラリと光った。


 





 *







 目を真っ赤に腫らしたケムさん手作りのシチューは、少し塩辛かった。

 夕食後、俺は片づけを手伝いつつ、横で皿を洗うピンキーに声を掛ける。


『あのさ、ピンキー。頼みがあるんだけど・・・』

「なんだい? 俺の出来る事なら、なんでも言ってごらん?」


 俺の頼みを聞いたピンキーは優しく微笑んだ。


 数日後。

 シルフィハープに付いた、若葉にもらった黄色いチェーンアクセサリーの横には。

 茶色と薄緑の透明な石が、あしらわれていた。


 あの時俺が頼んだのは、髪飾りをハープに付けられるように改良したいって事だった。

 最初は全部ピンキーが綺麗に仕上げてくれるって言ってたんだけど。

 2人で話し合った結果、ピンキーに教えてもらいながら俺が全て手掛ける事になった。

 ピンキーなら半日で出来るような作業を、数日かけて何とかこなし、夜更かししてようやく出来上がったそれを俺は朝日にかざす。


「うん。初めてにしては、いい出来栄えだよ」


 ピンキーはそう褒めてくれたけど。

 軸からは曲がって付いたそれは、ひいき目に見ても滅茶苦茶出来が悪い。

 流石に精霊石は傷つかずに綺麗なままだけど、不器用感があふれ出すぎてるそれを、若葉は喜んでくれるんだろうか。

 それよりも。


『なあピンキー。俺、出来上がった瞬間に若葉が目覚めるって奇跡をちょっと想像してたんだけど』

「あっはっは。さすがに物語じゃないからなぁ」

『だって天海じゃんかここ~』

「女神様、居るのにね」


 前にピンキーが話してくれたニホンの物語に合ったような奇跡は、起こってはくれなかったようだ。









「女神様の祠に行ってみればいいんじゃないですか?」


 朝食の席で、出来上がったハープの飾りを皆に見せてすぐ。

 パンを口いっぱいに頬張った黒蹴の言葉に、俺とピンキーは顔を見合わせた。


「だって若葉さんの髪を見つけたのも祠でしたし、祠の方が女神様がなんかしてくれやすそうじゃないです?」

『ナイス黒蹴さすが若葉の彼氏!』

「え、なんですそれ初めて知りました」

「え、若葉の彼氏ってニルフさんでしょ?」

『え、それ俺初耳なんだけど』

「え、違うんですか?!」

『え!?』

「えぇ!?」

「もうええちゅうねん!」


 ユーカに怒られた。





 *






 朝食後。

 黒蹴とユーカの会話に頭をグラグラさせながら女神の祠に向かう俺。

 何故か後ろからはケムさんとピンキーが隠れつつ追いかけてきている。

 向こうでザワザワこっちに向かってきている白いフワフワと、その下で蠢いてるあれは、村長老と黒蹴とユーカか?

 いつも遠巻きに見守っているシルフ達(シーくん・フーちゃん)も、今日は頭にガッツリくっついているし。

 ちょっと向こうでは勇者君が野生動物を追い払っているのが見えた。


 ・・・なんで総出で付いて来てんの?

 気づかない振りをしつつ女神の祠に到着した俺は、女神様に祈りを捧げてみた。

 時間は昼前だし満月の日でも無いし、どうやって女神様に何とかしてもらうのか全く見当もつかなかったから取りあえず祈っては見たものの。

 これ、何とかなるのか・・・?


 と、思ったら。

 急にフーちゃんがフワッと頭から離れた。

 そしてハープに付けた髪飾りのうちの、風の精霊石に吸い込まれる。

 ファ!?


『大丈夫なのこれ!?』


 叫んだ瞬間。

 風の精霊石が、柔らかな光を放ちはじめた。

 そして。

 ふわりと精霊石から出てきた緑の光が、虹色の石に吸い込まれた。


 フーちゃん、入っちゃった!?



 ブンブン力いっぱいハープを振り回したけどフーちゃんは出てこない!

 どうしよう、石に食われちゃった!?

 全身を使って振り回してるうちに、ポーンと飛び出すシルフ1人。

 やった、出てきた!?

 シー君だった。

 違う、こっちじゃない。

 あぁぁでも!

 もしかしてシー君なら何とかできるか!? と思って彼を見ると、シー君は興味無さそうに床に寝転んだ。

 マジですか。精霊も床に寝るんですね。


 あっけに取られて見てるうちに、勝手にフーちゃんは石から出てきてました。

 ふー、やれやれ疲れたわって感じで。

 そのまま興味なさげにフワッと風に乗って祠を出ていくシルフ達。

 俺の今までの努力って。


〔どうしましたの? そんな呆然として〕

『・・・急にフーちゃんが石に吸い込まれてな、食われたかと思って呆然としてたら、普通に出てきて普通に帰ってった』

〔あらあら、風の小精霊は気まぐれだといいますもの。ところでここは何処ですの?〕

『え、ここは女神様の祠で・・・って、ええ!?』

〔なんですのニルフさん・・・って、あらぁ!?〕


 若葉が急に復活した。

 てかあの時のこと(初代紅葉さんとのやり取り)、すっかり忘れてやがったなコイツ!!!

次回メモ:女性


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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