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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
131/187

代償

 俺が、俺たりえるモノ。


 きっとそれは。

 以前の俺が持っていなかったものだ。

 そして、勇者君も失ってしまったもの。

 この世界に召喚された時に銀と俺が、何かの呪いを解く代償に失ってしまった大切なモノ。

 つまり。

 

『記憶・・・ですか』


 俺は初代紅葉に、答えを告げる。

 きっと、声が出ていたとすれば。

 その声は擦れていたんだろう。



 黙り込む彼女。

 ゆっくりと唾を呑み込んで、答えを待った。





 *





 記憶を代償に、若葉を助ける。


 皆が知ったら悲しむだろうな。

 その事を思うと、少し胸が苦しくなるけれど。

 あ、若葉とか泣くかもしれない。

 泣いたらどうやって慰めよう。

 いや、今考えても仕方ないか。その時の俺に、全部任せるさ。


『一度、全て忘れたんだ。

 もう一度忘れたって、皆が居るから大丈夫!

 さあ、俺の記憶を代償に、若葉を助けてくれ!!!』


 声高らかに、宣言した。

 また記憶を代償にする事になるってのにはビックリしたけど、神様も使った方法なんだ。

 きっと、効果は抜群だろう。


 彼女が、ゆっくりと俺の胸倉をつかむ。

 なんだ? 鎌を持ってないけど、直接ここから記憶を抜くのか?


 そのまま彼女は大きく背中を反らして。

 思いっきり 俺の顔面に頭突きをした。



 いてぇええええ!?



 顔を押さえてゴロゴロ転がっていると、横顔をガシっと強い力で踏みつけられた。そのままグリグリされる。


「貴方馬っ鹿じゃございませんか!?

 物って言いましたわよね!」


 上から声が降り注ぐ。

 めっちゃ怒っていらっしゃるようだ!


『ふぉ、ふぉれ、なにかまひがいましたが!?』

「何か間違いましたかーではございませんわ!

 記憶なんて形に出来ないモノ、どうやって差し出せというんですか!」

『あ、そうですよねスイマセン!』


 違うの!? てか俺の覚悟は!?


「はぁ、もういいです。貴方の理解力を舐めていたわたくしが悪かったですわ。

 全部説明いたします」


 はぁっと いかにも呆れた感じのため息が聞こえると同時に、顔の圧迫感が消える。

 あ、足どけてくれてる。

 全部説明してくれるって言ってたし、案外いい人かもしれない。

 人差し指を一本立てて、前のめりになった彼女は俺に覆いかぶさるように説明を始めた。


「いいですか?

 宝石に封じられた若葉を助けるのに必要なのは、一番大切なモノを宝石に食わせる事ですわ。

 形に出来ないモノではいけませんわよ?

 しっかりと、貴方が手に持てる物の事ですわ!」

『てにもてるもの』

「そう! もう一度繰り返して!」

『手に持てる物!』

「もう一回!」

『持てる物!』

「そこまで! それでは、もう一度考えてみてください!」


 俺はもう一度考えた。

 俺が俺たりえるもの。

 物質。

 手に持てる物。


 ふと顔を上げると。

 樹の影からシルフの2人が俺を見つめていた。

 若干心配しているように見える。

 2人にまで心配かけちゃったか。

 俺は『大丈夫だよ』と言葉にする代わりに、ハープを手に取って笑って見せる。

 

 ・・・ん?

 ハープ?


 条件:俺が俺たりえるもの

 ハープ:俺が魔法使うのに必要な、唯一の物。

 条件:手に持てる物

 ハープ:手に持って弾く物


 ・・・あっ。


『ありましたぁああああ! 紅葉さあぁぁぁん!!!』

「懐くんじゃありませんわよ!」


 顔面蹴っ飛ばされた。

 何あの人若葉より怖い。





 

 *






「では本当に、それを代償にしてもよろしいんですわね?」


 俺の顔面の痛みが収まった頃、もう一度初代紅葉さんは問いかけた。

 

 手の中にあるハープを見つめると、シルフが2人、ハープにくっついて俺を見つめ返していた。

 シー君とフーちゃんの、何の感情も宿してなさそうな目に映った俺の顔は、迷っていた。

 勢いで初代紅葉さんの所に走り寄っちゃったけど、本当にこれでいいのか?

 これが無いと、皆を補助することが出来なくなる。

 召喚されてすぐの頃の、ただの素早いだけの木刀使いに戻ってしまう。

 それが頭に浮かんで、即答することが出来なかった。


 皆、やっぱり怒るだろうなぁ。

 相談もなしに、ハープを手放そうとしてるんだもん。

 このハープを大好きなシルフ2人も、ものすごく怒るだろう。

 もしかしたら、シルフ仲間と一緒に竜巻を起こして大暴れするかもしれない。

 



 でも。若葉には代えられない。




 皆はきっと怒るだろう。もしかしたら悲しむかもしれない。

 でもきっと、分かってくれるはずだ。

 だって若葉は、俺達の仲間なんだから。


 シルフ達は新しいハープを手に入れるまで、風の世界樹のおじいさんの所で預かってもらおう。

 2人の上位の大精霊なんだ。きっとなんとかしてくれる。


 最後に若葉だけど・・・。

 俺がハープを犠牲にしたと知ったらやっぱり悲しみそうだ。

 脳裏に浮かぶのは、喜ぶ若葉の姿。俺がハープで魔法を使えるようになったと知って、自分の事のように喜んでたんだった。



 もう一度、初代紅葉さんにハープを差し出す。

 透明な緑にふちどられた美しいハープが、光を反射して柔らかく輝いた。


 ・・・食わせるって事は、勇者君の持つ黒い剣が他の剣を吸収した時のようになるのだろう。

 捧げてしまえばもう二度と、手に戻ることは無い。


 弦をはじく感覚が蘇る。目を瞑ってても弾けるようになった。

 ここまで俺の手に馴染むものとは、もう出会えないかもしれない。

 他のハープを奏でたとしても、魔法は発動しないのかもしれない。


 それでも俺は、ハープを差し出す。

 俺と。いや俺達と若葉の、未来のために。


 そうだ。確かこのハープには名前があった。

 ずっと呼んでなくってすっかり忘れてしまっていたけれど。


『シルフィハープ』


 俺の声に、初代紅葉さんがこちらを見る。


『これを、宝石に食わせてください』

「・・・分かりましたわ」


 初代紅葉さんは地面に突き刺してあった大鎌を、俺に向ける。

 今度は側面を。

 そこには虹色の宝石が嵌っていて、キラリと光を反射する。俺の覚悟を試すように。


『・・・これをあげるから。だから、若葉を解放してください』


 そして片膝を付き、こうべをさげてハープを捧げ持った。



















 そして10分経った。

 

 大鎌は、反応しなかった。 

 足がしびれた。

次回メモ:どれ!?


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

ジャンルがよく分からなくてその他にしました。

これは何だろう、ファンタジーっぽいけどそこまでファンタジーじゃないような異世界だけど恋愛じゃないしなんだろう。

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