紅葉と若葉
今一瞬、若葉の声が聞こえた!?
とっさに、紅葉と名乗る奴の顔を見る。
「なぜ、あり得ませんわ」
奴は顔を歪めて何かを呟いてるが、あいつにとっても予想外って事か!?
なら打開策はこれって事か!
『若葉! おい若葉居るんだろ!? 返事しろ若葉!』
「ウルサイですわね、今考えてるんですのよ!?」
『そっちじゃない若葉! てかお前は紅葉なんだろ!』
違う方 (体側)の若葉が返事した。ああもうややこしい!
俺は若葉から大鎌を奪い取って叫びかける!
確かさっき、宝石から声がしたよな!?
『若葉、若葉ぁ!!!』
〔な、何ですのニルフさん。なんか怖いですわよ?〕
『うわぁーん若葉ぁぁ』
〔泣いた!?〕
このやり取り、正真正銘の若葉だぁぁ。
やっと俺の名前呼んでもらえたぁぁ~。
〔な・・・なんか気持ち悪いですわね・・・?〕
『・・・』
久々なんだ、毒舌も許そう。
静かになった俺に違和感を感じたのか、若葉が状況を聞く。
〔一体どうしたんですの? なぜ泣いているんですの?〕
『いや、話せば長いんだけど、まず若葉の体が』
〔っていうかわたくし、ニルフさんに抱き着かれてません!?
いやぁ~! 離してくださいまだ早いですわぁ~!?〕
話聞かねえなぁ、おい!!!
ていうか見えてんのか? 目ぇ無いのに見えてんのか?!
俺が若葉に向かって話しかけていると、斜め後ろからトンっと、白い手が大鎌に触れた。
『なんだ!?』
瞬間的に距離を取ったが。
俺の、ギリギリの死角から伸ばされた手に、気づく事が出来なかった。
そのまま大鎌が、あり得ない力で強引に引き抜かれる。
振り返った場所で手を伸ばしていたのは、若葉。
そして。
〔あ、あら? なんだか眠く・・・〕
『若葉!?』
若葉が、しゃべらなくなった。
大鎌を担いだ若葉が、凶悪な顔で笑った。
「あぁ、本当に面白い存在ですわ、貴方達。
女神に会うと同時に、若葉として修業していた巫女の体は、完全に初代紅葉のモノとなる。
神官は例外として、一般人が若葉の事を≪若葉≫とは認識できなくなる。はずなのに」
若葉は・・・初代紅葉は、若葉の宿った黒の大鎌を、グンッと俺に振り向けた。
「ほんっとーに! 面白いですわ!!!」
苛立ちをそのままに鎌を振りぬき、俺を執拗に追いかける。俺は木に、崖に追い詰められるも、ジャンプしてバックしつつ避けまくる。
俺は、その間も若葉に呼びかけ続けた。
彼女は、無言でしばらく聞いていたが・・・。
「まだ、言い続けますか」
初代紅葉は急に歩を止め、鎌の切っ先を地に下ろすと。
見る人を不安に陥れるような、嫌な笑みを浮かべた。
「1つだけ、この子の意識を保つ方法がありますのよ?」
そして、スタスタと歩み寄った彼女は、俺の胸にトンっと触れて、俺に選択を迫る。
見慣れた彼女の顔は、やはり、見慣れぬものだった。
*
「前提としてですが、この子の記憶と魂は武器の宝珠に封じられています。
ここまではよろしいですか?」
彼女の問に頷く。
あら案外理解力がありますね、と呟いた後、彼女は人差し指を1本、目の前に立てた。
「では、次の問です。
貴方に、大切なモノはありますか?」
俺は頷こうとして・・・一瞬考える。
大切なモノ? それって。
「ふふ、沢山あり過ぎて絞り込めないってお顔をされていますわね?
それではヒントを差し上げましょう。
貴方が、貴方たりえるモノです」
『俺が、俺たりえる・・・』
つまり。
その時、頭に鮮明に浮かんだ単語。
きっとそれは。
以前の俺が持っていなかったものだ。
そして、勇者君も失ってしまったもの。
この世界に召喚された時に銀と俺が、何かの呪いを解く代償に失ってしまった大切なモノ。
「浮かんだようですわね」
目星がついた答えのせいで 若干血の気が引いたが、頷いて見せる。
そんな俺に、彼女は残酷な一言を告げた。
「ではそれを差し出しなさい。
若葉を救うには、この方法しかございませんわよ?」
次回メモ:供え物
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