王国へ
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ボクは胸ぐらを掴まれている。
掴んでいるのは厳つい大人の男の人だ。
ボクを掴んで持ち上げたまま、目の前の男の人は鬼の形相でボクに言う。
「この・・・悪魔め!!!」
そしてそのまま、力いっぱいボクを投げる。
その先には赤々と燃えるたき火が・・・
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俺は悲鳴を上げて飛び上がった。急いで顔を確かめる。どうやら火傷はしていないようだ。
そこで夢と気づいて ほっと息をついた。
(なんだ今の夢・・・やけにリアルだったな)
それにしても、この時ばかりは声が出なくてよかったと思った。
外を見るとまだ夜中だ。でかい声で叫ばなくってよかった。
額の汗を拭うと、俺は今日の事を思い出す。
俺は記憶を無くしただけの、この世界の住民だと思っていた。
何かの不具合で偶々枝が落ちてきただけの一般人だと。
だけどあの若葉の言葉。俺の文字はこの世界に存在しない?
じゃあ俺は一体どこの誰なんだ!?
なぜあの3人と離れた場所で眠っていた?
なぜ俺だけ記憶が無い?解除するのに、記憶を消費するほどの呪い・・・。
俺は頭を振り、もう一度眠りについた。考えたって分からない。
せっかくお城のベッドで寝てるんだ。しっかり寝ないともったいない。
***
この夢を見る前の日、つまり歓迎会の後。
若葉に見送られて世界樹の村を出た俺達は、王国へと出発した。
ここは島だと聞いていたので船旅になると思っていたのだが、一瞬で城に転移できるそうだ。
その準備が出来るまでの間、王が嬉々として説明してくれた。
武器の説明の時に≪登録≫した場所に転移できると聞いていたが、簡単に言うとそれの国版だ。いや、国が転移するんじゃないけど。
各国には、世界樹から1本ずつ特別な枝が支給されている。
この枝の力は、≪登録≫された国と世界樹の島との行き来のみ。
各国は国同士の会議の時にこの枝を使って会場、つまりこの島に転移する。
枝の力を使うにはいくつか条件があるらしいが、その1つに≪国で登録した者のみが国王と一緒に世界樹と国を転移できる≫というものがある。
悪用を防ぐためらしい。
って事は、俺達は国で登録してないから一緒に城へは転移できない。
うっわ泳げってか、と思っていたが、じいさんがちょっと設定いじって一度だけ一緒に転移できるようにしてくれていたらしい。
若葉の家に寄る時があったら、ついでに土産でも持って行ってやろう。
忘れてなければな!
と言うことで転移しました。
村から出て草原を海側に向かって歩いた先に10mくらいの丸い円があった。
そこに全員入って王様が枝をザクッっと地面に刺したら、うにょーんっとなってグニョーンっとなってピッカーとなって、お城の地下の円の中にいた。
説明下手でごめん。
ピンキーがすごく喜んで色々具体的に感想を言っていたのを要約すると、「すごいファンタジーな感じ」だった。
説明下手でごめん。
すでに夕食の時間を過ぎていた為、後は好きな事をしてていいと言われた。
歓迎会で夕食分まで食ってきたし。
4人で色々話をしようと銀が言ったが、黒蹴の返事が無かった。
足元を見ると青い顔をして倒れていた。そのまま兵士が客室に運んでいった。
王が、1人1部屋ずつ用意してくれたそうだ。俺の部屋も同様の物を用意しているらしい。
急遽用意したのかと思い、お礼のつもりで頭を下げようとしたら
「不測の事態に備えて元々準備はしておりました」
と、渋い声で止められた。王さまマジかっこいい。
結局この日は解散する事になり、それぞれ部屋にいって眠りについた。
今日は昼から夕方にかけて歓迎会でたっぷり食べたから、お腹いっぱいで幸せだ。
そう思ってフカフカのベッドに入り、安眠してたらあの夢だ。
あの後もう一度寝たが、しっかり寝つけないまま朝になっていた。
朝。メイドさんに渡された洗面器の水で顔を洗う。そういえば昨日体を拭かずに眠ってしまった。
一応服は脱いでシャツと下着で寝たからベッドは汚れていないけど・・・。
そう思っていると、メイドさんがお湯を入れた洗面器とタオルと着替えを持ってきてくれていた。
服は質素なデザインだが上質な感じ。しかも洗面器にはお湯。すっげえ貴族みたい!
お礼のかわりに笑顔で会釈する。メイドさんは笑顔で立ち去って行った。
拭いてほしかったとか思ってないよ?ほんとだよ?
服を脱いで体を拭く。さっぱりした! お湯最高!
新しい服に着替え、脱ぎっぱなしの下着を見ると、もぞもぞと動いていた。
『!?』
驚いて下着を蹴っ飛ばす!
すっとんだ服の中から現れたのは、2匹のシルフだった。
ついてきちゃったの!?
ま、まぁいいか。若葉にもらった石で使うシルフを探す手間が省けたし。
とりあえず石と一緒にシルフを1匹握ってみる。きゅっ。
シルフは苦しそうな顔を・・・しないでそのまま石の中に吸い込まれていった。
えぇ?! これシルフを消費して使う道具だったの!?
と思ったら石からシルフが飛び出してきた。
別に苦しそうな様子もない。この様子だったら使っても大丈夫かな。
タイミングよくドアがノックされる。
シルフを石に入れてドアを開けると、ピンキーがいた。両頬が赤く腫れている。
なんだ敵襲か!? 驚いてピンキーを見ると、奴はうれしそうに俺に向かって叫んだ。
「世界樹の美少女小精霊さんにビンタされたよ!!!」
・・・は?
世界樹の小精霊ってあれか?じいさんの部下の言葉を伝える小さい妖精。
俺は小さいじいさんを想像した。そしてなんでビンタ?
俺はシルフ石(適当に命名)を握りしめて聞いてみる。
「せかいじゅ せいれい なぜ」
「え? あぁ、『世界樹の小精霊になんでビンタされたの?』かい?
それが若葉ちゃんの言っていた翻訳機だね! あぁ、精霊はちょっと怒らせちゃったんだ!
それよりも聞いてよ! すごい事が分かったんだよ!」
おぉ、通じた。すごく断片的だし、ところどころ単語も抜けるようだけど。
しかし話せるっていいな。ピンキーが何したか分からないままだったが。
騒ぎを聞きつけた兵士と他の2人もやってきたので、話はそのまま朝食を食べながらする事になった。
*
豪華でおいしい朝ご飯を食べつつ、昨日できなかった情報を交換し合った。
黒蹴は転移酔いなどではなく、ただの食べ過ぎだった。
普段の何倍も食べられたので調子に乗って食べ続けたらしい。
「ピンキーさんに聞いた≪異世界補正≫ってやつかと思ったんですよ・・・。」
そんな異世界補正なんてイヤすぎるだろ!
結局、おいしかったからいつもより量が入っただけだった。
銀は、夜の間に城を歩き回って敵意を持つ者がいないか確かめていた。
なんかすごい。
ピンキーが集めた情報は価値のあるものが多かった。要約してみる。
1.俺達は世界樹の葉を食べて小精霊をとりこんだので、どこでも言葉が通じる(ただし文字は読めない)。村に行く前に食べた葉の事だな。
2.世界樹の葉を食べたことにより、俺達はこの世界の人と同じものを食べても平気になっている。病気や毒などの抵抗力もついたらしい。
3.この世界には異世界物によくある≪メニュー≫や≪ヘルプ≫、≪称号確認≫などは無いらしい。(俺にはよく分からないが)。
ピンキー達ニホン人の娯楽であるゲームによくある機能らしい。内容を軽く聞いてみた。いいなそれ、便利そう。この世界に無いのが残念だ。
4.≪ステータス≫は、この世界にもあるらしい。しかしゲーム的なものではなく、ギルドなどで軽い腕試しをして測る数値。ただの一種の目安だそうだ。
その他にもピンキーは異世界の知識を元に、いろいろと王や王宮魔道士に聞いたらしい。
異世界の知識を披露した時に自分たちを滅ぼす存在は無いか、この世界の文化レベルはどれほどか、識字率、魔法書、この世界の物を飲み食いしても異世界人の体に問題はないか、薬草や毒になるものの見分け方や種類、製鉄技術や装備や奴隷制度や人種やなんやらかんやら質問しまくったと言っていた。
よくそんな知識あったな。こう言うと、ピンキーはドヤ顔でこういった。
「紳士の嗜みとして、異世界物は読み込んでいるからね」
博識の紳士か。やっぱり貴族出身だったんだな。味方にいると頼もしい。
王宮魔道士は全ての質問に今すぐ答えられなかったらしく、後日資料を作ると言っていたそうだ。
まあそりゃそうだろう。向こうも初めて召喚者を迎えると言っていたらしいし。色々準備していただろうが、実際会ってみないと分からない点もあるだろう。
昨晩も王宮魔道士の所に行って、双方の知識を出し合っていたらしい。
ちなみにピンキーの両頬の腫れは、この時世界樹の小精霊につけられたものだそうだ。
話が白熱してきた頃、体から世界樹の小精霊が飛び出してきて
「いいかげんにしろ! 訳すの大変なんだよ! このバカァ!!!」
と、半泣きの顔でビンタしてきたと言っていた。ちなみに上のセリフはピンキーの想像だ。
めったに姿を見せない世界樹の小精霊に王宮魔道士もピンキーも大興奮。そのまま朝まで語り合ったと言っていた。
かわいそうに。小精霊。
濃い緑の髪に宝石のように煌めく茶色い瞳をした手のひらサイズの美少女だったそうだ。
最後に若葉から貰ったシルフ石を皆に見せ、実際に使って見せた。
黒蹴もピンキーも自分の事のように喜んでくれた。
まあ、じいさんが突いた喉が治れば普通に話せるんだけどね。
かなり話し込んでしまった。
兵士が俺達を呼びに来る。
俺達は、王の間へと向かった。
*
王の間では、王座に座った王が居た。まあ当たり前だけど。
しかしお妃やご子息ご息女が居ないな。
王が咳払いを一つし、話し始めた。
「実はあなた方を召喚したのは、我々では無いのです」
えぇ!?
王の衝撃の告白から、話は始まった。
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オマケSS ~ピンキーの異世界野望~
ピ「やっぱり異世界って言うと、流行とお約束があるよね」
ニ『お約束?』
黒「流行?」
ピ「お約束は、召喚されたら勇者だったという物。
その世界の王族や重要な立場の人の命で召喚されたり、召喚される側が死んだ時に何らかの要因で突発的に召喚されるっていうものだね。
死んで転生とかもあるよ!モンスターだったり魔王だったりね。
最近流行ってるのは≪勇者として召喚されたのに、不遇な扱いを受けて絶望。
その後、一念発起して世界を救う≫ってやつだね!他にも≪勇者として召喚されたと思ったら巻き込まれていただけだった≫とか」
黒「そんな事されても世界救っちゃうんですね」
ピ「絶望した後、大切な人が出来てその人の為にがんばるんだよ。・・・あぁ、いいなぁ、そういう出会い。俺のピンキージュエルちゃん・・・」
ニ『うっとりしてるな』
黒「もしピンキージュエルがこの世界に居たら、ピンキーさん(男)と出会ったら凄い光景になりそうですね」
銀「黒蹴はたまに毒舌だな」
ピ「俺・・・、異世界に行ったら、自分の村作ってハーレム作って異世界の知識で事業するんだ・・・」
*ピンキーは色々なジャンルでは無く、かなり偏ったジャンルの異世界物のみを読んでいました。
次回メモ:ギルドにいこう!
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
もうそろそろ第2章にいけるようにがんばりたい。