彼女の心
村外れにある 丘の上。
その上に立つ 1人の女性。
彼女は遠くを見つめ、俺には気づいていない。
風に弄ばれて揺れる真っ赤な髪は、まるで紅葉さんのようだった。
似たような白い服を着てはいるが、もしかして別人?
俺は丘の崖上になった壁に隠れつつ、ちょっとずつ近づいて確かめようとするけど、下からじゃ上手く顔が見えない・・・。
そういえば村人の話の途中で飛び出しちゃったな俺。
あの話には、続きがあったのかもしれない。
「丘の向こうにいった先にある村に行った」とか。
思いつつも、何故か女性から目が離せないまま見つめている。
そして、20分くらい経った。
その間何の変化も無かった。
日が少し傾いた頃、さすがの俺もフッと息を吐く。
どんだけ俺、若葉に未練タラタラなんだ?
まず、髪の色が全く違うじゃんか。
ヤバイ。自分の思い込みに笑いがこみ上げる。
笑ってバレる前にその場を後にしよう、としたその時。
風がひときわ大きく吹いた。
木が揺れ、女性の顔に日光が直撃する。
まぶしそうにサッと顔を下に向ける女性。
チャンス!
俺はバッと下に回り込み、上を見上げる!
そして、ちらりと見えたその顔は・・・。
『・・・若葉・・・!!!』
見間違えるはずもなく、彼女のモノだった。
世界樹を祭る島にある神官の街。住む者は神のお告げを聞くという。そこで巫女として生きる若葉。
・・・世界樹を登った先にある天海、女神を祭ると言われる村で若葉と再会するなんて。
これも、女神様の導きってやつなのか?
なんて粋で、残酷な事をするんだろう。
彼女はしばらく風に髪を遊ばせていたが。
ふとした拍子に、俺に気づいた。
「あら」
しかし、それだけだった。
彼女はまた、俺を見ない。
まるで知らない人に出会ったかのように、俺を一瞥して、すぐに景色に目を戻す。
俺は彼女の姿を見つめる。
風に吹かれるいつもの白い服を押さえつつ、長い髪が風に弄ばれて大変そうだ。
髪飾り、渡そうか。
若葉から預かって雷の神殿に供えた後、ずっと俺の懐に入れっぱなしの若葉の髪飾り。
触れると、すっかり体温と同じ暖かさになっていた。
これがきっと、最後のチャンスだ。
またすぐに、居なくなるのかもしれない。
俺は丘の崖に備え付けられた縄梯子を登り、
『・・・なぁ』
意を決して、若葉に声を掛けた。
*
「あら、こんにちは」
『・・・どうも』
若葉は、俺が声を掛けても意に介さず、普通に挨拶をしただけだった。
本当に、知らない人とすれ違った時のように。
彼女の目は、既に景色に戻っていた。
「・・・」
『・・・』
そのまましばらくの沈黙。
俺は若葉の後ろ、木の根元に腰を掛ける。
『・・・あの、お前は若葉・・・』
「? 何か言いました?」
『・・・いえ、どこかでお会いしましたっけ・・・』
俺の根性無し!!!
彼女はしばらく宙に目を彷徨わせていたが、何かに気づいたようにポンっと手を打った。
「ああ! あなた、わたくしの追っかけなのですね! こんな所で追っかけに出会うなんて」
『お、おっかけ?』
何だそれ聞いた事が無いぞ!
「あ、今はファンって言うんでしたっけ。なんでも南の海の諸島から来られた方が広めたとかで。
面白いですわよね、南に人の住む小さな島なんて、存在しませんのに」
『そうなんですか!?』
「あら、これって今は秘密なんでしたっけ。やってしまいましたわ。・・・内緒にしていてくださいね?
貴方とわたくしの、秘密ですわよ。 ふふー!」
『ふふーって、いいんですか紅葉さん!』
「いいんですのよ、これでも世界樹島の巫女なんですもの」
ふ、普通に会話してしまった。
てかさっき間違えて紅葉さんって呼んでしまった。
予想外の事態に額に浮いてきた汗をぬぐう俺。てか口軽いな若葉。巫女として大丈夫か?
そんな俺の様子を何か勘違いした若葉。
「憧れのわたくしという存在に出会って緊張する青年・・・久しぶりですわ」
とか言ってうっとりしていた。
「久しぶり」とか「青年」とか。やっぱ俺の事は全く覚えてないって事か・・・。
でもこの若葉、やっぱり違和感がある。
髪の色だけじゃなくて、どこか。どこかっていうより・・・誰かに似てる?
「ねえ貴方! わたくしの事をどこまで知ってますの?
近頃の追っかけはどこまで熱狂的なんですの!?」
悩んでる俺を吹っ飛ばすような勢いで彼女が俺に迫る。
それを見て、俺は賭けに出てみる事にした。
『俺が知ってる事ですか?』
「ええ! ファンの情報網の進化を見てみたいんですの!」
『貴方が若葉って事くらいですかね』
彼女の顔が 般若みたいになった。
ひぃ。
次回メモ:怖い
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