緑の髪
俺は追いかけっこをする2人を目で追いつつ、俺は欠伸をかみしめる。
—――――アソコと違って、この世界は・・・
『ここって、平和だなーぁ』
「何のんきに言ってんのニルフ」
俺の独り言を聞いたピンキーが笑う。
と、俺の右手辺りで目線が止まった。
「ん? ニルフの手元に落ちてるそれ、なんだろう」
言われて俺も、手元を見る。
なんだ? 俺の手の横、親指のところに細いのが落ちてた。光を反射して光るそれを、拾い上げる。
「何だいそれ?」
ピンキーが覗き込んだそれは。
長い、緑色の糸?
俺の後ろからひょいと、銀が顔を出す。
「これは・・・髪か」
緑の髪?
「緑髪ですか。若葉さんを思い出しますね」
集まる俺達を見て、追いかけっこしていた黒蹴が帰ってきた。めちゃくちゃ息を切らして汗だくだ。
どれだけ走ったの?
「若葉がこの街に来てるの? 気になるね」
ピンキーが、俺の顔をちらりと伺った。
*
「緑の髪ぃ? いや見てないなぁ。緑の髪は居るが、そんな長い髪の奴なんて村に居ないし」
村に帰って早々に第一村人を発見した。
昼過ぎ夕方ちょっと前だったので皆寝てるかと思ったが、たまたま入り口近くの畑で農作業していた村人が居たので聞いてみた。
ちなみにこの人、鳥っぽい黒トカゲさんだ。あ、梯子のトカゲさんとは別っぽい。
彼 (性別は知らんけど)に、ピンキーが丁寧に話を聞く。
「では、腰くらいある長い髪の女性を見かけませんでしたか? 冒険者なんですが」
「うーん、そういやぁ昨日の夜遅くに、1人旅の冒険者が来たなぁ」
『そ、その人は今どこに!?』
「お、ぉお。確か村の外れの・・・丘にある木の麓に居」
気づけば俺は、走り出していた。
俺達の知らない間に若葉も天海に来ていた!
何かが胸にこみ上げて、上手く呼吸が出来ない。
俺はただただそれを押し切って走り続けた。
若葉。
初めて召喚された時からずっと、俺達の力になってくれた世界樹の巫女。
大食らいで、胸が小さくて、姉巫女の紅葉さんを慕っていた若葉。
何度もあいつのウッカリで大鎌で切られそうになった。
よく真っ黒な草刈り用の大鎌を構えて、空中を走ってたな。
黒蹴と楽しそうにしゃべって、ピンキーの料理を食べつくして、危ない所を銀に助けられて。
一緒に食べ歩きして、冗談言い合って、プレゼント送りあって。2人でユーカに「女子友か!」って言われて。
紅葉さんが殺されてから、俺達と関わらなくなった。俺達に会いたくないのなら、それでもいいと思ってた。
でも、実際にすれ違って、笑顔の消えた彼女を見て、声を掛けても無視されて。何度も何度も無視されてるうちに、何度かだけ目が合った。
その時気づいたんだ。目が、なんか違う。
なにが変なのか分からないけれど、かすかな違和感に。いや、違和感なんて立派なもんじゃなくって、ただの勘なんだけど。
例えるなら・・・俺達の事が全て、記憶から消し去られているような?
俺達の存在丸ごとが若葉の中から消えてしまっているような。
そんな、妙な感覚。
一度会って確かめたかった。
その違和感が全部俺の気のせいだったなら、俺はもう若葉の前から姿を消そう。
でも、もしも。
君の記憶の中で、俺達の事だけを忘れているんだったら・・・。
『もう一度、旅をしよう』
俺は走りながら小さく呟く。
『もう一度、皆で笑いあおう』
また旅に行こうって、きっと誘うんだ。
それで何が変わるのかも分からないけど、彼女が笑ってくれるかさえ、分からないけれど。
姿を消す最後に一度だけ、笑顔を見たいって思っただけなんだ。
大きく息を切らしながら。俺は、村はずれの丘の下に居た。
天辺には、ここら一帯で一番大きな樹。
その木の下には。
白い服を靡かせて、真っ赤な髪を靡かせて。
1人の女性が、そこに居た。
*
「そろそろさ、ニルフ何とかせんとヤバない? あれもうストーカーやない?」
ニルフが走り去った村の入り口では、由佳達召喚者メンバーがヒソヒソと真剣な様子で話をしていた。
「確かに、ニルフさんって若葉さんの事となると行動力ものすごいですもんね」
「そうやろぉ?」
「まぁ、大丈夫でしょ」
不安げな黒蹴と由佳の中で、なぜかピンキーだけが落ち着いている。
なぜなら・・・。
「あれ、銀さんどこ行きました?」
「もちろん」
ピンキーは普段通りにクスリと笑う。
「ニルフのところだよ」
*
黒蹴「・・・ところであの髪、本当に若葉さんなんですかね?」
由佳「・・・ここでまさかの別人?」
次回メモ:彼女
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!