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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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天海~皆の話~1

 次の日みんなで昨日の石碑のところに集まって、どんな話をしたのか情報を共有した。

 皆、昨日の女神様の話で思うところがあったのか、眠そうに目をこすっている。

 だけど俺は眠気が吹っ飛んでいた。


 女神の話を聞いて、気づいた、ある事実・・・。

 それは、つまり。女神様はボカして言ってたけど。つまりつまり。


 俺こそが真の勇者? ヒャッホー!!!



 


『ふぉんふぃふぃ~ん♪』

「テンションうっざ」

『ひどぅいなーユーカちゃーん』

「うっわ、ちょっと先行っとこ・・・」

「ニルフさん、めちゃくちゃ機嫌いいですね」

『えーそう? そう見えるぅ? 実は俺ー。やっぱやめとこぅ~』

「・・・なんか宝くじ当たったって はしゃいでた父さんと、同じ匂いがします」


 宝くじ? なんだそれ。

 すぐにピンキーが教えてくれる。


「ニホンの娯楽の一種だね。券を買って、当たれば大金が手に入るんだ」

『なるほど!』

「ちなみにいくら当たったんだい?」

「えーっとですね。一文字違いで、外れてました!!!」


 やめて! 俺は外れてないからね!? 

 バッと黒蹴を振り返った瞬間、遠くに走ってったユーカがこっちに向かって叫ぶ。


「外れてた方がいいんちゃうー? 今日のニルフいつも以上にウッザいからぁー!」

『ウザい!? 俺ウザいの!? って、いつも以上って言った!? ねえ!』

「あーもー近づかんといてー。うっざーい」


 走って追いかけて聞き出そうとするも、すぐにまた遠くに逃げられて。

 その後もユーカに散々いじられ笑われオチョクられ。

 祠に着く頃にはユーカを追っかけすぎて体力を使い果たし、膝をついたまま肩で息をしていた。

 

 目の前に、冷たい水を差しだされる。


『あ、ありがと・・・ぁ』

「ハイ、水! どうしたのニルフ。ボクに何か付いてる?」


 勇者君だった。

 水を持つ手には、初めて会った時には無かった、小さくは無い傷が沢山刻まれていて。

 それは、俺には無いものだった。


 心がチクっとして、つい、ひったくるように水を受け取ってしまった。

 ビックリしたような相手の顔に、あ、と思ったが。

 誤魔化すように一気に飲み干す。

 俺の高揚した気持ちは、すっかりどこかに吹き飛んでいた。



 その後。

 すっかり冷えた頭に浮かんだのは。

 とんでもなく心の痛い、自分自身への不甲斐なさの塊。



(必死で努力してここまで上り詰めた勇者君が居るってのに。

 召喚者ってだけでここに呼ばれた、何の功績も努力もしてない俺が『俺こそが真の勇者? ヒャッホー』って何だよ・・・恥ずかしい)


 ここに来れたのも、皆が世界樹への道中を≪登録≫していったからだ。皆で、大精霊を倒したからだ。

 ピンキーが行商で西国の信用を得、黒蹴とユーカが東国のギルドを中心に人々の信頼を得、銀が南国のギルドで上り詰め、一目置かれる存在になったからだ。


 だからこそ、各国の王達は俺達に目を掛けてくれた。

 召喚者だからと特別扱いをするのは、世界樹島を守り神に仕える、神官達だけだから。

 皆のおかげで、ここにいる。


 俺の正体は、心の奥底に閉まっておこう。







 *






 祠から数メートル離れた木の下で、ユーカと黒蹴は真剣に話し合っていた。


「なあ、どうしよ。ウチちょっと おちょくり過ぎたかな」


 由佳の目が、祠の入り口に座るニルフをチラリと見る。

 さっきまでイラっとするくらいのテンションだったのに、今はそれが嘘のように落ち込んでいる。


「今更そんなこと言ったってしょうがないじゃん。謝るしかないよ」

「んなこと言ったって、あんときのニルフ、なんか妙で怖かってんもん」

「それ言ったら余計にへこむよニルフさん」

「あーもうメンドイ!!! 謝って来るわ!!!」

「いってらー」


 入り口近く壁にもたれて座っていると、ユーカが近づいてきた。

 なぜか俺を睨みつつ、大股開きでノッシノッシと。

 そのまま俺の前で止まる。威圧感が凄い。


「おうニルフ! 話あんねんけど!」

『おうユーカ、さっきは悪かった! 寝不足で変なテンションだった!』

「おう分かればええんや・・・って、えぇ!?」


 先に謝ってやった。

 悪いが2人の会話は、シルフ達(シー君とフーちゃん)によって筒抜けなんだ。


 あっけにとられるユーカ。その数メートル後ろの木の下からは、黒蹴の「やっほーガンバレ由佳オー!」という、気の抜けたような応援が響いていた。







 *






 そしてしばらく経って、祠内部。

 今日は朝に来たので、月明かりの代わりに太陽光が射しこんでいる。

 言っちゃ悪いけど、クッソ暑いな。 


 そこに俺達、昨日女神様に会ったメンバーが集まっている。

 昨日俺達を迎えに来た村長老に、「女神様について話すのならば、この場所でお願いします」と言われたからだ。なんでかは知らないけどね。

 皆の中央にはケムさんの作ってくれた朝食と、村長老のお孫さんが昨日くれた果物が山と積まれていた。


 この果物、スズの実っていうんだな。

 実の硬い皮を手慣れた動作で剥きつつ、俺はふと丘での事を思い出す。

 物珍しそうに実を食うピンキーに『森で食ってたじゃん』って言ったら、皆に「それは無い」って言われたんだよな。

 

 皆、朝食を食べつつ昨日の事を話しあっている。今は女神の姿についてだな。

 なぜか皆、別々の姿の女神を見ていた。しかも他の部屋にいる女神も、自身の目の前にいる姿と同じだったらしい。

 俺は別の部屋まで見てる余裕、無かったけどね。


「女神は全員の前に同時に現れ、しかも姿も自在・・・と。

 さて、次は皆が聞いた質問について、だね」


 ピンキーは手早くメモを取ると、俺の剥いたスズの実を口に放り込みつつ話を進める。


「最初に質問は1つだけって言われて驚いたよ。必死で質問しぼったんだけど、皆は大丈夫だった?」

「え、そんな事いわれへんかったんやけど」

「嘘!?」

「俺も言われたな」

「ほらぁ!」

「僕は途中で一度寝ちゃったみたいです」

『俺なんかスゲー酔った』


 俺と黒蹴の報告に笑いが起こる。

 いつも通りの俺達を見て、入り口から俺達を覗いていた天海族の子供達が「こんなのが・・・女神様に選ばれし勇者のPT・・・」って絶句するのが聞こえてきた。

 夢壊してごめんね?

 でも「あんなひ弱そうな奴でもなれるんだ」っていうのは辞めて、傷つくから!


 皆は子供たちに気づいているのか居ないのか。たぶん気づいてるけど放っておいたまま、話を進める。


「じゃあまとめようか。俺は聞きたい事がいろいろあって迷ったけど・・・。

 なぜこの世界に呼ばれたのか、が最重要かなって。

 結論は・・・魔王を倒してほしいって事だった」


 ピンキーの言葉に、誰かがゴクリと息を飲んだ。

 息飲んだっていうより空気飲んでないか? 今の音。後できっと屁が出るな。


「・・・あれ、皆思ったより驚かないね。やっぱり予想付いてた?」

「そりゃあまぁ、あれだけ王様達が魔族魔族言ってたら、ウチも大体そうやろうな? って」

「あ・・あぁ、そう」


 だいぶガッカリしたピンキー。その横で黒蹴はめっちゃ驚いた顔してた。俺もめっちゃ驚いた顔してたと思う。銀は静かに聞いていた。


 気持ちを持ちなおして話を続けるピンキー。

 ちょっと気落ちしたのか耳が若干へにゃってる彼だったが。

 実は「質問は1個」と言われたにもかかわらず、は女神から「魔界への行き方」「魔王の居る場所」「このまま魔界に行っても安全か(大気が毒などの危険の有無)」「他のPTメンバーは女神に会えるのか」などを言葉巧みに聞き出していた。


「まとめると、『天海からも行く方法がある』『魔王の治める都市がある』『大気は毒だが大精霊と契約した者なら大丈夫』『天海経由で魔界に行く以外の方法を取れれば可能』って事だったよ」


 なんかもうスゲエなピンキー。


「それからもう1つ」

『まだ聞き出したの?』


 俺の言葉にニヤリと笑い、お茶をグッと飲み干す。

 そして、爆弾を落とした。


「女神は、俺達を召喚した奴を知っている」

「なに?」

「そうなんですか?!」


 ピンキーの言葉に皆が驚きの声を上げ、銀が思わず聞き返した。

 言った本人は「おそらく、だけどね~」と軽く言っていたけれど。

 あれ? でも俺ん時、確か女神様は・・・。


『俺には「まだ調査中です」って言ってたぞ? なんか寝てる時に不穏な魔力感じて、起きたら俺達が居たって』

「うん、俺にも同じ事言ってたよ。でもね、あの様子・・・嘘をついているというか、隠し事をしている感じだった」


 一瞬、『目立ちたいからって冗談言ってる?』と言いそうになったが、ピンキーの様子は真剣だった。

 行商で培われた人を見る目が 何かを見抜いたんだろう。スゲーなピンキー。素直にそう思った。

 しかし当のピンキーは、東の王子たちの行方は聞き出せなか事を残念がっていたけれど。


「もしかすると、女神本人が俺達の召喚を行った・・・って可能性も考えてるよ。

 さ、これで俺の話は終わり」


 ピンキーの話が終わるとともに、黒蹴が元気に声を出した。


「じゃあ次、僕ですね。僕は日本への帰り方を聞きました」

「最初に言ってた通りだね。どうだった?」

「はい。なんか『最後に願いを叶えるからそん時に言ってね』って感じでした」

「投げやりだな」

「投げやりですね」

『そういえばさ』


 ふと浮かんだ疑問を、そのまま口にする。


『ニホンも、こっちと同じだけ日数過ぎてんのかな』


 何気なく喋った言葉に黒蹴がフリーズした。


「ああああああ!!!それ聞くの忘れてました!!!」


 頭を抱えて叫ぶ黒蹴。全身で「やっちまった」感を体現している。

 そんな黒蹴をみていたユーカ。「やっぱり」といった風に、ため息を付いた。


「そんなことやろうと思って、ちゃんと聞いたったで」

「さすが由佳!なんて言ってた!?」

「『最後に願いを叶えるから、そん時に言ってね』って感じやった」

「・・・・・・」


 もはや魔法の言葉だな、それ。

次回メモ:話2


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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