天海~女神~
ーーーーーーーーーーーーー
「起きなさい、○○○」
優しく語り掛けられてうっすらと目を開ける。
不思議な感覚だ。全身の服の感触が5倍増しになっているような、五感が普段の何十倍にもなっているような。
いつもより体が軽い。
だけど、感覚が重い。
ぼやける視線の先では、虹色に輝く部屋の中央には虹色の羽を纏った美しい女性が居て、俺を心配そうにのぞき込んでいた。
彼女の緑の髪は、長く伸びすぎて床に広がっている。毛先が美しい羽毛に変化した不思議な髪を持つ彼女は、俺が目覚めたのを確認すると、ホッと息をついた。
「あぁ良かった、起きましたね。気分はいかがですか?」
「なんだかクラクラしますが大丈夫です。あの、あなたは」
「申し遅れました。私は・・・貴方達が女神と呼ぶ存在です」
その女神の姿には、見覚えがあった。
美しい虹の羽を纏った、鳥のような優雅な女性。
ただどこで見たのか思い出せなかった。
懸命に考えようとするも、クラクラと回る頭で何かを考えることなど出来る訳もなく。
俺は黙り込んでしまった。
女神は俺の様子に、少しの間困ったような顔をしたが、「感覚に慣れるまで、聞いてくれますか?」と、俺に聞く。
頷く俺に、彼女はふんわりと優しく笑い。
「これは、貴方が初めて見た夢の、続きの物語」
美しいその声で 世界の秘密を語り始めた。
それは今から、はるかに遠い過去。
ある理由により、1つの世界が滅亡したそうだ。
女神は直ぐに、砕けた世界の欠片と 奇跡的に生き残っていた人々をかき集めた。
しかし既に失われた命を蘇らせる事は出来ず、彷徨う命を見捨てた女神は、泣く泣くその世界を去る。
そして、集めたもの全てを自分の力の強く及ぶこの世界に運び、再構築した。
地上の妨げにならぬよう、天高くにその大地を解き放った。
それらは直ぐに世界樹の葉に乗り、生き残った人々を乗せたまま、天を浮遊し始める。
少しの年月が経つと、まるで最初からこの世界に組み込まれていたかのように、天に浮かぶ大地は安定した。しかも、地上の大地には無い不思議な力を宿して。
元々別の世界の物質だったソレは、大精霊を宿した世界樹との親和性が高かった。
しかし元々は人の暮らす地上の大地でもあった。
物質世界の地上。そして、精神世界の大精霊と世界樹。
この空飛ぶ大地は、物質と精神、両方の親和性を受け持つ力を持ったのだ。
それに気づいた女神は、歓喜に震えた。すぐに、次の行動へと移った。
先の世界の崩壊で失われた沢山の命。
彼女は、彼らも救えないかとずっと考えていたのだ。
彼女は、魂の状態になった彼らを余さず連れ出した。
彼女に連れられた魂は空飛ぶ大地で世界樹を通して力を集結させ・・・そしてこの世界に融合し、精霊として生まれたのだ。
そして、彼らが世界に飛び立った時、精霊界が生まれた。
そう、つまり。
この天海こそが崩壊した世界の生まれ変わりであり。
「そして、先ほどの村に居たあの者達こそが、崩壊した世界の生き残りの子孫というわけです」
女神は慈悲深い笑顔をしつつ、ここではないどこかを見つめていた。
「私は、いくつかの世界を世界樹を通じて管理しているのです。
それらの世界には世界樹が存在しており、私はそれに宿る事で世界を観察し、守り、秩序を保っているのです。
しかしあるとき・・・」
「ま、待って。ちょっと待って女神様」
「気が遠くなるほどの昔・・・、どうされました? やはり体調がすぐれませんか?」
「いや、そうじゃなくって・・・」
「?」
「今の話、まったく分かんなかった・・・」
「・・・」
あ、女神様も呆れた顔ってするんだな・・・。
だって難しかったんだもん。
女神様の説明 (簡単バージョン)によると。
・めっちゃ昔、世界が滅びた。
・それをこの世界に運んだら、天海が出来た。
・天海族は生き残った人の子孫。
・精霊は、滅びた世界で死んだモノの魂
・大精霊は元々この世界に居たから、滅びた世界とは関係ない。
そしてこれは、俺がこの世界で最初に見た夢の続きの話らしい。
てかあれ、本当に有った出来事だったんだな。
・・・最初すぎて、おぼろげにしか覚えてないから、本物の夢かと思ってたわ。
しかしこの話を聞いて俺が思った事は、1つだけだった。
「そんな凄い力を持った女神様が、なんで俺達を召喚したんだ・・・」
「あ、いえ。それは私では無くて、ですね」
何故か言い辛そうにドもる女神様。
「あの時、世界を破壊したのは、その世界で魔神と呼ばれる存在でした。私はそれを阻止しようとして・・・。
結局失敗し、その影響で力をかなり失ってしまったのです。
そのため、平和なこの世界の世界樹で体を癒していたんですが・・・」
あるとき不穏な魔力を感じ、眠りの途中で目覚めた所、俺達が召喚されている事に気が付いたのだとか。
「え、じゃあ、俺達を召喚したのは誰だか分からないって事!?」
「すみません・・・」
でも東の王は、俺達が来るって事を神託で知ったって言ってたよな? 一体どういうことだ?
現在はそれらの原因を、女神様本人が調べている所だという。
女神様、体調悪いのに大丈夫か?
女神様は言いたい事を全て話し終えたのか、ゆっくりと俺に目線を合わせた。
見つめ返すと、申し訳なさそうに揺れる目線。つい、耐え切れず目を伏せてしまった。
次は、俺の番だ。
聞かなければいけない。そのために来たんだ。
意を決して、口に出す。
「俺は、誰なんだ」
震える声が自分の耳に届く。
女神が、俺に語る。
緊張で感覚が過敏になったのか、一度は慣れた感覚の嵐が再び脳を揺さぶるが。
妙にその声だけは、はっきりと響く。
「貴方は、この世界の・・・いえ、この天海の 」
女神の声を聴きながら、俺の意識は白い闇に落ちていった。
そういえば。
女神は最初、何と俺を呼んでたんだろう。
聞き逃したまま、俺の意識は夢から溶けて流れて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
次回メモ:続き
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!