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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
121/187

天海~祠~

ケムさんの「名前」は長すぎて発音できなかったので、ピンキーが「あだ名」を付けました。

(「あざ名」ではありません)


103話部分に投降した「SS女神」は、内容的に最後に移動しました。

混乱したらごめんなさい!

「さて皆さん。準備はよろしいかな」


 白い長髪の先にランタンをぶら下げた村長老が、俺達に尋ねる。

 外はすっかり日が落ちていて、昨日よりも大きな月が、光の粒の中に青く浮かんでいた。

 俺は1つ欠伸をしてから、村長老に頷き返す。


「全員居るようじゃの。それじゃあケム、行ってくるの」


 村長老がランタンを揺らしながらフワフワと浮くように村の外に向かっていく。

 それぞれに準備を整えた皆が、村長老の後に続いた。


 村を通る途中、籠を持った子供が俺にぶつかってメモを落とした。

 拾い上げて渡してやると、小さく丸い羽を背負った亀のような子は、お礼を言って商店に入っていった。

 商店の屋根に掲げられた看板には、絵のような文字が書かれていた。


「この村で使う文字は、あの石碑に書かれたものとは多少違っているけれど、少し似ているね」


 前を歩くピンキーが俺の目線に気づいたのか、語り掛けてくる。ピンキー、律儀だからきっと文字のメモとか取ってるんだろうな。

 そんな話をしていると、村長老が毛を一房こちらに伸ばした。


「ほっほっほ、あの石碑を見つけたんですかな? そうですな、では道中退屈でしょうし、少し話をば。

 我々は、女神に助けられ、別の世界からこの世界に運ばれた者の子孫なのです」

「女神? 性別があるんですか?」

「ピンキーさんのその様子じゃと、女神ではなく神、とだけ伝えられているようですな。

 天海にも詳しい理由は伝わっておりませぬが・・・なんでも≪神≫としたほうが、地上の人々が受け入れやすかったからとか・・・。着きましたぞ」


 村長老に連れられた先には、石碑と泉。

 そして、それらは1つの大きな、石造りの祠に覆われていた。

 祠の天井には穴が開いているらしく、泉に月光が射しこんでキラキラと光っている。

 村長老に促されて中に入ると、祠の半分辺りにまでは石畳が広がっており、高さ5mほどのデカい石碑が立っていた。泉は石碑の後ろに広がり、祠の後ろ半分を覆いつくしていた。

 石畳部分は、全員が入っても十分スペースを残している。


「この石碑の文字は・・・あの時の石碑と同じものだな」


 久しぶりに銀が声を出した。

 声を出さなさ過ぎて、ちょっとしゃがれてる。


「石碑に触れると、選ばれし者は女神に会えるそうですぞ。ただし、限られた時間のみだと聞いております。 

 では、また迎えに来ますぞ」


 村長老が家に帰り、俺達は石碑と向き合う。

 お互いの顔を見回して、石碑に触れるタイミングを図ってる。

 こういうのって、一番に行くの勇気がいるよね?

 そんな中・・・。

 この状況を打開する、1人の勇者が現れた。


 そう、それこそがっ!!!


 精霊に選ばれし者、勇者君だ!!!!


 彼はギュッと片手を握りしめ、もう片方の手のひらをじっと見つめた後、声高らかに名乗りを上げる!


「よぉし・・・、じゃあボクが行くよ!」

「おぉ、まさに勇者やな!」

「安全って判断したら、ボクに続いてね!」

「勇者、先陣を切る! カッコいいやん!」


 キリッと笑う勇者君。はやし立てるユーカ。

 そして勇者君がゆっくりと石碑に手を伸ばし・・・皆が固唾を飲んで見守る中・・・彼の指先が石碑に触れ・・・


「ちょっと待って、皆」


 る瞬間ピンキーが呼び止めた。

 勇者君の手がスルッと石碑の横にずれる。

 ユーカがガクっとコケた。


「ごめんごめん2人共大丈夫?」

「もう、何だいピンキー」

「触れる前に1つだけ。皆が、何の質問をするかだけ、聞いてもいいかな? 少し思うところがあってね」


 そこからピンキーの説明が始まった。

 要約すると、もし時間に制限が付いていた時などに、自分だけでも重複する質問をしない方がいいだろうと、ピンキーは考えてるっぽい。

 難しく考えずに、聞きたい事聞けばいいのになぁ。


 ピンキーの説明をフンフン言いながら聞いていた黒蹴が、一番に答える。


黒「僕はもちろん、日本に帰る方法です!」

ユ「あ、うちもや。じゃあうち別の事聞くわー。ピンキーさんの知りたい事、1個聞こか?」

ピ「お、頼もうかな由佳」

勇「ボクは・・・勇者として話を聞いてくるよ」

二『俺は自分の記憶かな』

銀「オレも・・・以前の自分について興味がある。悪い」

二『以前の自分って、召喚される前の世界の、か?』

銀「・・・」


 なんか銀が深く考え込んでしまった。

 ピンキーは俺達の言葉を4つの耳でしっかりと聞き届け、サカサカとメモをとっては頷いている。

 そのノート、前に使ってたまとめノートだな。最後に見たのは馬車の荷物の箱の間に埃かぶって落ちてた所だ。


「全然悪くないよ、銀。自分の事に付いて聞きたいっていうのは十分な理由だ。

 俺は銀の元の世界の事を全く知らないから、銀が不安に思ってる事を答えてあげられないから、ね。

 ニルフも、自分の事が少しでも分かるといいね。

 勇者君は、しっかりと勇者として女神に会うっと・・・。何か分かったら教えてね。

 じゃあ日本に帰る方法は黒蹴が聞くから・・・。由佳、ちょっとこっちに来てくれない?」


 そういうとピンキーは、ユーカを祠の外に連れ出していった。

 2人はすぐに戻ってきたが、なぜかユーカだけ妙にすっきりした顔をしていた。なんか胸のつっかえが取れたような?


「それじゃあ、皆いくよ!!!」


 勇者君を中心に石碑を囲む。

 彼の元気な掛け声を合図に、皆で石碑に触れた。

 同時に、祠全体が真っ白で暖かな光に包まれ、俺はゆっくりと目を閉じる。

 全身の力が抜けて、柔らかく地面に倒れ込むのが分かった。

 そのまま、俺は緩やかに穏やかな夢の中へ・・・。







 ---------------

 黒蹴は、夢の中で白い空間にいた。

 突然の事に驚いて辺りを見回すと、目の前に美しい女性が居る。


(なんだか、昔読んだ絵本に出てきたお姫様に似てる)


 薄緑の長い髪を背中に流し白い薄衣を着た女性は、黒蹴に微笑みつつ ふわっ と右手を自身の斜め後ろに流す。と、途端に辺りが真っ白に、キラキラと輝く。

 それと共にゆっくりと、黒蹴の周りに真っ白な建物が現れていった。

 丸いドームに数本の柱。まるで英国の貴族の庭にあるような、お茶を飲むようなテラスだ。

 それは黒蹴の足元にも広がり、大理石のような石畳に変化していった。

 最後に女性と自分の間に小さめのガーデンテーブルがドンっと現れて、変化は収まった。


「ほわ~」


 目の前で行われたファンタジーって光景に、女性の事を忘れて、テラスを歩き回る。

 そして柱の間を潜り抜け、外にぼんやりと広がる白い光景に歩を進めようとした時。

 何かに顔面をぶつけた。


「痛ったたたた・・・。あれ、柱のとこには壁があるんですねコレ。

 ・・・ん?」


 柱の間にはめ込まれた半透明のガラスをペタペタと触っていた黒蹴は、何かを見つけて手を止めた。

 ガラスの向こう、その先に、小さな部屋を見つけたのだ。そして、そこで蠢く人影のような、何か。

 黒蹴は、彼らを見ようと目を凝らす。

 不透明なガラスのせいでぼんやりとしか見えなかったが。

 区切られた部屋は ぼやけたまま、クルクルと黒蹴の部屋に近づいては離れていく。

 その光景はまるで、万華鏡の中にいるみたいだった。

 彼は、それぞれの部屋の人物を興味津々に見つめていく。


 1人は黒く細く長い。見た瞬間に、この人は敵に回したくない、と思った。


 1人は、黒い髪の男。なんだか小学校の先生みたいな雰囲気だ。


 1人は薄茶の髪をした、背の高い男だった。鍛え抜かれた剣士のような感じ。


 1人は、まるっきり猫だった。

 いや、猫っていうよりも、絵本で見た「長靴をはいた猫」って感じだ。しっかりと服は着ていて、背の高さは黒蹴と同じくらいだ。


 そして最後の1人は・・・あれ、由佳だよな。

 白く濁ったガラスの向こうで、由佳っぽい人影がこっちを見て、オーバーアクションでなんかしていた。

 きっと僕と同じ事をしてるんだろう。黒蹴は取りあえず手を振っておいた。


 他の部屋の人たちは、部屋が動いていることに気づく様子もなく、目の前に座る女性と熱心に話をしているようだった。

 不思議なことに各部屋に居る女性は皆、黒蹴の部屋にいる女性と同じ姿だ。


「黒蹴、急に召喚されてさぞ驚いたでしょう。あなたには苦労を掛けました。

 お詫びに、全てが終わった時には・・・、1つだけ願いを叶えましょう」


 声を掛けられて、黒蹴は女性に目を戻す。

 にっこりとほほ笑んだ目の前の女性は・・・なんと猫になっていた。

 大声で叫ぼうとしたが、驚きすぎて喉に空気が引っかかって。


 そのまま黒蹴は、真後ろに倒れた。





「彼の印象が強すぎたんですね」


 苦笑いした女性に介抱される黒蹴。

 その情けない姿は、ガラスの向こうの由佳に全て目撃されていた・・・。

 ーーーーーーーーーーーーーーー

次回メモ:女神


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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