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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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天海~石碑の記憶~

 ~今日のおさらい~

 村長老は既にピンキーから、俺達の目的について聞いていたらしく、「満月の夜に道は開ける」と教えてくれた。

 そして明日は満月。ちょうどいいときに来たな。


「ちょうどいいときに来た、じゃないでしょ。3人共果物食べるのに必死で、話聞いてなかったくせに」

『ごめんってピンキー』


 村長老の家からの帰り路。


「それにしても2人共、村に来るのが遅かったですね」


 歩きつつ黒蹴。


『ずいぶん迷ったからなー。皆はどれくらいで着いた?』

「2日です」


 はっや!!!


「なんかピンキーさんの新能力が突然開花して」


 なにその便利仕様!!!


「途中魔物が多い島とかあったんですけど、襲い掛かって来る魔物ヤツ全部蹴散らして突っ走ってきました」


 だからどこにも凶悪な魔物居なかったのか!!!


 せっかくなので、夕食前にピンキーの新能力を見せてもらっ「さっきの狼フォームですよ?」サンキュー黒蹴。

 ピンキーの新能力はもう見たので、まっすぐ家に帰ることになった。


『そういえば、黒蹴は途中で石碑見た? 島にあって、触ったら夢見るの』

「あー、見ました」


 マジで!?

 せっかくだし今夜は村を眺めながら夕飯を食べようとケムさんが提案してくれた。

 初めて村に来た、俺と銀のためにっぽい。

 ケムさんが事前に作ってあったお弁当を持って、俺達は村近くの丘に登る。

 ・・・見ると丘と聞いていたそこは、数メートルの断崖絶壁だった。そびえたつ壁の上に、木が生えている。


『え、これどうするの?』

「上の木に縄梯子がかかって・・・あれ、無いですね」

「誰かが巻き上げたのかもしれませんね。ちょっと見てきます」


 ケムさんが「何でもないよー」って感じで軽く答えたと思ったら、スっと壁を歩いてった。

 な、なにを言ってるか分からな(ry。

 スゲーなケムさんの足。壁も普通に登れるんだ。ていうより、歩けるんだ?


「幼虫っぽい脚ですもんね」

『なるほど?』


 ごめん黒蹴、俺ちょっと分かんないわ。

 しばらく待っていると、上からケムさんが顔を出した。

 顔が鱗っぽい人も、ケムさんと一緒にこちらを覗いている。

 

「すっごい爬虫類っぽい人ですね」

「やな。そのまま梯子使わんと、壁つたって降りてきそう」

「ヤモリ? ヤモリ浮かんだんだろ由佳」


 ニホン人兄妹がなんかお互い頷きあってる。

 ニホンにいる生き物に似てたんだろう。


「すまんすまん、梯子上げて点検したまま寝ちまった」

「みなさーん、縄梯子、下ろしますねー」


 ケムさんが下ろしてくれた縄梯子は、思ってた以上に丈夫で、全員登ってもびくともしなかった。

 うぉぉ、回る回る。梯子が風で回る。

 その横を鱗の人が、体の側面に生えた薄い膜を広げて、滑空して降りて行った。


「違った。トビトカゲの方やった」

「何だいお嬢さん。またな」


 トカゲさんはそのまま、村に滑空しながら飛んでいった。







 丘から見下ろす村には煌々と光が灯され、昼間は見かけなかった村人たちがおしゃべりしたり荷物を運んだり、買い物をしたりしていた。

 皆、一言では言い切れないほどの多種多様な姿をしている。

 初めは滅茶苦茶な姿に見えたが、見慣れるうちに「昆虫と動物を合わせた」姿をしているということが分かってきた。

 身近なところで言うと、ケムさんは毛虫と人間。

 村長老の孫は蝶と猫と蜘蛛。

 村長老はなんだろう。「一反木綿だと思います」


 村は昼間とは打って変わって、活力に満ち溢れていた。

 内側から淡く光の漏れる、白い建物が美しい。


 俺達はそれを見ながらケムさんの作った夕食を頬張った。

 今日はサンドイッチとなんとかかんとかスープと焼いた肉だ!!!


「サンドイッチとミネストローネスープ(天海アレンジ:ピンキー)、ソテーしたお肉です。ケーキもありますよ」


 ミネ何とかスープだ!!!

 ケムさんが俺を見て、クスクスと笑っていた。


 食後。

 食べ終った後の暖かいお茶っていいよね。ホッとする。

 ピンキーもリラックスしているのか頭の上の耳が垂れている。ユーカと黒蹴がそれを触ろうとして後ろから近づき、気づかれて怒られていた。


「触らないでよ、ゾワっとするんだから!」


 それを見て笑っていると、ずっと黙っていた銀が口を開いた。


「先ほどの石碑の話なんだが。皆、夢を見たか?」

「さっきニルフと黒蹴が話していた、あの石碑の事だね?

 ・・・うん、見たよ」


 柔らかいランプの光に照らされていたピンキーの表情が、引き締まったように見える。

 ここからは、真面目な話って事だ。


 途中にあった石碑に皆で触れると、同じように夢を見たという。


「僕が見たのはサッカーの試合の夢でした」

「うちは車に乗ってて、小学生くらいの女の子らが泣きながらこっちに手ぇ振ってるって夢やったな」

「俺は友達に誘われてコスプレしてる所だったよ」


 上から、黒蹴、ユーカ、ピンキーだ。

 皆見事にバラバラ。なにか共通点があるのか?

 

「俺なりに考えてみたんだけど、今までの半生で一番印象に残ってる事を映し出してるんじゃないかなって思うんだ」  


 ピンキーの言葉に、黒蹴が大きく頷いた。


「確かにあの場所、初めてゴールを決めて、サッカーが大好きになった思い出のグランドに似ていました!」

「うちのは引っ越しの思い出かなぁ」

「やっぱりね。俺のは、初めてのコスプレの時の夢だったよ」


 確かに、皆印象深い記憶の様だな。

 って事は、自身の記憶では無く、勇者の記憶を宿す勇者君は、何を見たんだろう。


『勇者君はどんな夢を・・・って、あれ? 勇者君は?』


 キョロキョロと探すと、黒蹴がキョトンとする。


「ずっと別行動でしたよ? ほら、村長老の家に行くときに別れたじゃないですか」

「そういえば石碑で夢見てから、なんか様子おかしかったやんな。心ここにあらずーみたいな?」

『ぜんっぜん気が付かなかった』


 勇者君も、か? 銀も石碑で夢を見た後から、様子がおかしいんだけど。


「見た夢が、彼にとって衝撃的なものだったのかもしれないね。

・・・ニルフが自分の覚えの無い記憶を見た様に、勇者君も、失った記憶を見たのかもしれない」

『・・・ピンキー』

「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫だよ、ニルフ。彼は強い人だから」

『・・・うん』


 ピンキーの言った「彼」は勇者君の事だろうとは思ったけれど。

 ピンキーは勘が鋭いから、もしかすると勇者君以外の人を指してるのかもしれないな、と思ってみたり。

 でもなぜか少しだけ、心が軽くなった気がした。


『ところでさ、あの石碑、俺達は1個しか見つけてないんだけどさ。

 ピンキー達は他にも見つけた?』

「あの文字が読める石碑かい? 見つけたのは俺達も1つだけだったね」

『なあ、それって崩れた?』

「いや、崩れてないよ。おそらくだけど、ニルフ達が見たのと同じだろうね」

『そっかー、じゃあアレ、やっぱ俺の記憶かー』

「どんな記憶・・・だった?」

『んとね、蹴られたり投げ飛ばされたり目の前で死んでたりしてた。ところでレモンちゃん達から行商の商品預かってるんだけど』

「サラリと流したけど自分の記憶だよ!?」


 ピンキーにすげー驚かれた。

 だって、ろくな記憶じゃないんだもん。


「ニルフってあれやな。友達の遊ぶRPGをのぞき見して、主人公の出生とか語られてる場面で『イベントよりも横の宝箱の中身が気になる』って思ってる小学生みたいやわぁ」

「主人公に感情移入せずに遊ぶタイプだね」

『なんだーそれ』


 笑いながら見上げた木の向こうには、大きな月が登っていて。

 満点の星に囲まれて、青く静かに俺達を照らす。

 青く澄んだ空気の中で俺達は、合流するまでの出来事を話し続けた。


 月が沈み、朝日が昇るまで。

次回メモ:祠


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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