言葉の秘密 と 歓迎会
「ステータス、ですかな? それは体力や魔力を測定する物でしょうか。」
食いついたのは、横でじいさんの講座を一緒に聞いていた王だった。
「はい、大体そんな感じです。
俺達の世界には異世界に召喚されるという物語が頻繁に書かれていまして、そこではよくステータスを見る方法が最初に伝えられるのですが。
以前に召喚された方はおっしゃっていませんでしたか?」
ピンキーの言葉に唸る王。
「実は・・・召喚者を迎えるのは、今回が初めてなのです。」
ピンキーが嬉しいような困ったような顔をした。
「で、ではステータスや召喚者達の扱いや、召喚者に何の地位や役割を与えるのかも決まっていないと・・・?」
「はい・・・。申し訳ございません。」
頭を下げる王。急いで止めるピンキー。
その後ピンキーはステータスについての詳しい説明をするために、王と共に王宮魔道士の元に行くことになった。今は世界樹のふもとの町にいるらしい。
出発前にじいさんがピンキーに何かを渡していた。なんか食ってる。俺にもくれよじいさん。腹減ってきた。
「おぬしらは行かなくてもいいのかの?」
「はい、僕はゲームでどんなものか知ってますし」
「オレは後でソイツに聞く。それより気になることがある。
なぜそれぞれに違う世界から来たオレ達の言葉が通じる?それに先ほどからオレの知らないはずの単語が思考に混じる。だがオレは理解をしてその単語を使っている。その理由を聞きたい」
銀の疑問を聞いてじいさんが嬉しそうに笑う。
「ホッホッホ、やーっと気づいたか」
『なんだよじいさん』
「ホッホッホ。今説明してやるぞい!」
説明じいさんの講座、ふたたび。
*
簡単に言うと枝を受け取った俺達4人に、じいさんが言葉を共有する魔法をかけたって事だった。
元々世界樹には、異国語を読み取って翻訳する力があるらしい。
世界樹に宿った小さな精霊達が、言葉に含まれる魔力のイメージを読み取って訳してくれるそうだ。
たとえば今回の≪ステータス≫だと、≪ステータス≫のイメージをしながら発した言葉に含まれる魔力を読み取って、≪ステータス≫に近い言葉を小精霊が検索、聞く人に伝える。
・・・。くわしい原理は分からんかった。つまりこういう事か?
Aさん(話す)→空気中の小精霊(訳す)→Bさん(分かる言葉で聞こえる)
あと、その辺の精霊ではだめらしい。世界樹の小精霊のみ使える能力のようだ。
・・・一瞬 小さいじいさんが大量に飛んでるのを思い浮かべてしまった。忘れよう。
ちなみにこの効果がある為、国同士の重要な会議などはここで行われるそうだ。
今回じいさんは 小精霊達の負担を軽くするため、俺達4人の世界の言葉を共有させたそうだ。
例えば泉に流れている これ。
黒蹴とピンキーの世界は≪水≫という。俺の世界では≪ウェリン≫、銀の世界では≪カル≫と呼ぶ。
この世界の異国語なら問題はないが、異世界語の3つの言葉を精霊が訳すのはとても大変らしく、俺と銀の知識をいじって単語だけニホン語で思考をするように調整したらしい。
なんてこったい。自国の言葉を消されてしまった。という訳でもなく、意識して考えれば思い出せる。というか喋ってる言葉自体は俺の世界の言葉だし。
思考はニホン語。話す言葉は自分の世界の言語。伝わるのはこの世界の言葉。
どうせだったら 思考も言語もこの世界の言葉にしてくれればよかったのに。
「ワシもそうしたかったんじゃがの」
『なにか理由があるのか?』
「いや、やろうとしたけど失敗したんじゃぞい!」
『頑張れよじいさん』
「ホッホッホッホッホ!」
そういえば俺の喉に杖刺した時に≪ふむ・・・わしでも無理か≫って言っていたな。世界樹の精霊といえど、力が足りなかったってことか。
俺にも翻訳の魔法をじいさんが掛けた。
つまり、この世界の異国語を話してるのか?俺。
*
日がすっかり高くなり、昼過ぎになった。腹が減ったな。
話が終わったのを感じ取り、兵士がこっちに走ってきた。さっき泉の布を片付けていた人だな。
「お話が終わりましたら、ふもとの村に案内するように言われました。ご案内いたします」
「最初に言っていた、歓迎会ですね!」
黒蹴がうれしそうに腹をさする。俺達が兵士についていこうとした時、じいさんが葉を差し出した。
「ふもとまで少し距離があるからの。これを食べていきなさい」
ちょっと萎れた葉っぱ。いらないや、ぺぃっ。
殴られた。
「好意は受け取るもんじゃ!」
『分かったよ食うよ食えばいいんだろ。うぅ。萎れてモシャモシャ・・・しないな、うまいなこれ』
意外とシャキシャキしていた。
3人とも食ったのを見届けてから、じいさんに見送られて出発した。俺と黒蹴と銀と若葉。+兵士の5人PTだ。
若葉はさっきからずっと俺の言葉を訳してくれていた。そっちに一生懸命で自分の言葉はほぼしゃべっていない。
きっと皆の中で、俺の声は若葉で再生されてるな。
森は鬱蒼としていたが ところどころに太陽が差し込み、光の周りをシルフがくるくると舞っていた。
モンスターもいなかった。若葉によるとこの島にはいないらしい。島だったんだな、ここ。
ふもとの村は、国同士の重要な会議に使われている島とは思えないほど質素だった。
いや、田舎の村って感じじゃなくてな、なんていうか・・・
「ゲームでよくある、秘境の神聖な場所を守る村って感じだね」
いつのまにか合流していたピンキーが言った。若葉によると、この村は世界樹を守る役割を担っているらしい。
案内された建物は村の集会所のような場所だった。兵士と村人達が料理を運び入れている。村人は神官のような服だ。
王様が指示を出している。あ、こっちに気付いた。
「もう来られる頃合いだと思いましたので、料理を運んでおります。お口に合えばいいのですがな。
堅苦しい挨拶など抜きにして、この世界の料理ぜひご堪能ください」
目の前には贅を尽くしたごちそうが並んでいる。さすが国同士の会議が行われる島だ。なんか準備に手馴れてる感じ。
めっちゃ腹が減った。すぐに食べたい。目の前の鶏肉の丸焼きに飛びついた瞬間、横にいるピンキーが王に言う。
「いえ、せっかく用意していただいた俺達の歓迎会です。自己紹介くらいさせてください」
「『ええええええええええ』」
黒蹴も、鶏肉にかぶりつく所だった。
俺達はしぶしぶ鶏肉から手を離し、めちゃくちゃ渋ったけど頑張って手を離し、簡単な自己紹介をした。
といっても名前(あざ名だけど)を言って、世界樹から貰った武器を見せただけだけど。
召喚者を迎えるのは初めてだと聞いていたので村人がどんな反応をするか気になっていたが、さすがは世界樹を守る村。世界樹の武器を見せるだけで 拍手で迎え入れてくれた。
自分達が守る神木に選ばれた者ってだけで十分歓迎する理由になるのだろう。
簡単な挨拶が終わり、王がその場を閉めた。ようやく料理にありつける!!!
さっきから手についた鶏肉の匂いを嗅ぎながら我慢してたんだ。
「うわぁぁ! この料理なんですか?! 食べたこと無い柔らかさの鶏肉です!」
「ちょっと! こっちの食べてみた?! 見た感じプリンなのに味が沢庵だよ!」
「これなんか、赤身だけの牛肉っぽいステーキなのに、ぱさぱさしてなくてさっぱりしててコクがあります!」
ピンキーと黒蹴が感想を言い合っている。
黒蹴を見ると、でかい皿の肉をすべて食い尽くしていた。1人で食ったのかよ!取り皿に少し残ってる分、味見させてもらおうかな。
「ちょっと黒蹴さん! さっきからお肉しか食べてませんわよ!」
若葉が黒蹴の皿と自分の皿を取り換える。
若葉の皿にはサラダがたっぷりと乗っていた。女子か!女子だったな!
ずっと俺の言葉を代弁してくれてたから口調からすっかり男認識してた。そういえば女子だったわ。
黒蹴がめっちゃ抗議してる。若葉は気にせずに黒蹴の皿の肉を食べている。え?お前が食べるの?
若葉と目が合った。俺は急いで皿の肉をかっ込む。3種類くらい混ざってたけど美味かった。取り皿に残った肉の上に急いで野菜を盛る。カモフラージュだ。味が混ざったって気にしない!俺は肉を食いたいんだ!
若葉はこっちの皿を見て、チッという顔をして去って行った。危ない。肉取られるところだった。てか俺の食べてる肉、まだ大皿に残ってるんだからそこから取れよ。
と思ったら、もう空になっていた。どうやら俺達が手を付けた後で兵士や村人が食べ始めるマナーだったらしい。本当に徹底されている。
ちなみに銀は魚とか野菜とかささみとか食べていたらしく、別に何も言われなかったと言っていた。
食いたい料理があったなら、最初に取っとけよ。あれ?そういえば若葉、俺達の自己紹介の辺りから肉食ってる辺りまで姿を見かけなかったが、どこにいってたんだろう。
たくさん食べて一息ついたころ、村人達が集まってきた。
異世界の話を聞かれるのかと思いきや、彼らの興味は世界樹の武器だけだった。
途中から村の子供達も来て手に取って見たり触ってみたりしていたが、振り回したりせずに丁寧に扱っていた。この村は本当に世界樹を大切にしている。
俺はちょっと食べすぎた腹をさすりつつ、村を歩いていた。外はすっかり夕方だ。
少し食休憩を取った後、俺達は王都に行くらしい。そこで今後についての話をするそうだ。
この村は石づくりの建物と石畳で作られていた。石はすべて真っ白。シルフもふわふわと舞っている。そこに差し込む夕日の光。赤に近いオレンジに染められた村中を神官のような服を着た村人が静かに歩く様子は、まさに荘厳。
王が訪れているからか、嬌声を上げて遊ぶ子供もいない。そういえばさっきの子供たちもおとなしかったな。
俺は町の真ん中にある白い噴水に腰かけた。
「ここに居たんですわね」
若葉の声に振り返る。噴水の向こう側から若葉がこっちに歩いてきていた。
「そろそろ出発だそうですわ。出来ればこの村をご案内したかったのですが。
ここは、わたくしの生まれた村ですのよ」
若葉はうれしそうに語る。
郊外には畑があり、メインストリートから少し離れた場所には村人の利用する商店や鍛冶屋などもあるそうだ。
王家が利用する村の為、手頃な値段の宿屋は無いが次に来るときは若葉の家に来ればいいと言ってくれた。
「お待ちしておりますので」
『お前は来ないのか?若葉』
「わたくしは、修業中の世界樹の巫女。修業が終わるまでこの島を離れることは出来ません。
修業が終わりましたら、ぜひあなた方の旅にご同行願いたいですわ」
『旅・・・か』
なんのために召喚されたのか まだ王には聞いていないが、きっと旅をする事になるのだろう。
以前も旅を・・・そういえば若葉居ないのに言葉どうしよう。ん?急に若葉が俺の手を取る。
なに!愛の告白?!
俺の手の中には、世界樹の葉と同じ形をした緑色の透明な石が入っていた。
『これは?』
「風の精霊の姿を見ることが出来る石ですわ。
これを目にかざして風の精霊を探して石と一緒に握りしめれば、あなたの言葉が他の皆様にも通じるでしょう」
『すごいな。これ、早く渡してくれれば若葉も代弁しなくてよかったんだじゃないか?』
「あなたがシルフに好かれてるのを見て、精霊様が急いで用意した物ですので。
先ほどようやく出来上がったと、こちらに届いたのですわ。
≪餞別じゃぞい≫だそうですわ」
『そっか・・・。じいさんに ありがとうって伝えといてくれ』
「分かりましたわ。あ、そうそう。
あなたは世界樹の巫女では無いので、その石の補助があっても、わたくしが読み取るよりも断片的にしか伝わりませんので、ご注意くださいね!」
えええ。さらに断片的になるのかよ。もはや単語しか伝わらない気がする。
それでも、助かることには違いない。
『わかった。感謝する。修業が終わったら、きっと一緒に旅をしよう』
「ええ! 約束ですわ! その時には、精霊を握りしめなくとも言葉を読み取って見せますわ!」
これで若葉とはお別れか。最後に俺は勇気を出す。
『そうだ。俺、実は召喚者じゃないんだ。まあ記憶無いから証拠はないんだけど。
・・・俺は世界樹の根元で寝てただけの、ただの一般人なんだ。』
勇気を出して、それでも何でも無いように若葉に伝えた。
だましやがってって罵られるかな。
若葉はきょとんと俺の顔を見つめて・・・。
「え? ニルフさんの書いた文字を拝見しましたが、この世界の文字ではありませんでしたわよ?」
・・・ん?
「それに、この世界では≪シルフ≫という言葉はありませんし。」
・・・んん?
「それにわたくしは読唇術を扱えますが、ニルフさんの口元、まったく読み取れませんわ。」
んんんんんん!?つまりそれって!?
俺達は歓迎会の会場に戻り、王都に出発した。
*
王都に出発した4人の若者を見送り、世界樹の精霊はため息をついた。そして、
「だから言ったじゃろ。おぬしも召喚者のようじゃのってな。
・・・これから忙しくなりそうじゃわい」
そうつぶやくと、溶けるように世界樹の中に帰って行った。
ニルフのセリフは、若葉には『そっか・・・。じいさんに、ありがとうって伝えといてくれ。』が「じいさん・に・ありがとう・伝えて」という感じに聞こえています。
若葉は、ニルフがシルフを見えることに気付いていません。
次回のメモ:夢
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