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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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天海~村長老~

 家に案内された俺達の目の前のテーブルに、籠一杯に積み上げられた黄色い果物が置かれる。

 うぉお、こんなに一杯! 食べていいのかコレぇ!


「こんなに一杯食べていいんですかぁああ!」


 黒蹴と感想かぶった。


「どうぞどうぞ。どうせ明日には、また籠一杯出来るんですから。村の人みーんな、食べ飽きちゃって」


 俺達の様子を見た蝶の羽を持つ女性が、笑いながら部屋の奥に入っていった。

 次に出てきた時にはその細い8本の手一杯に新たな籠を持っていて、俺達の前にドン!と置く。


「一斉に熟れて一気に痛んじゃうから、どんどん食べちゃって! 気に入ったんならジャムにしてあげるから」


 そのまま猫のような瑠璃色の瞳をパチンとウィンクして、また部屋の奥に引っ込んでいった。


「あれはワシの孫ですじゃ。ばーさん似の、いい子でのう」


 テーブルの向かいに座る村長老は、山と積まれた果物に遮られてよく見えない。

 と思ったら、ほっそい糸のような毛を一本、果物の上に伸ばしていた。その毛の先にはつぶらな瞳の顔が生えていて・・・。

 ちょっと怖い。

 

 それより今はこの目の前の果物だ! いっただっきまぁっす!


「いっただきます!」

「2人とも、先に話を・・・」


 ピンキー達の声が聞こえた気がしたが、黒蹴と一緒に、果物の山に手を伸ばした。

 あきれた顔のピンキーが村長老と話を始めるのが見えたが、気にせずに美味しそうな物を選ぶのに神経を集中する。

 黄色く張りのある皮・・・これだ!!!

 村長老がこちらをチラリと見た。

 最高の一個を手に取り、薄いが硬い皮を破かないように丁寧に剥くと、その中からプルンとした赤黒い果肉が顔を出す。

 それを一口頬張ると・・・。


『あんまーい!』

「硬っ!? 歯が痛っ!」

『ん?』


 横を見ると、黒蹴が皮ごとかぶりついていた。

 馬鹿だなぁ、それ、皮硬っいから剥いて食うんだよ?


「ほっほっほ、そちらの旅人さんは食べ方を知っていたようですな。このスズの実は皮が恐ろしく硬いんじゃよ」


 黒蹴が騙されて超ご満悦の村長老。

 この前来たとき、食べなかったのか?


「この前はクッキーでした」

「熟れておらんかったからのぅ」


 涙目の黒蹴。ざまぁ!


「何がです?!」

『特に理由は無い!!!』





 *





「なるほど、つまり。

 この雲は世界樹と繋がっており、どれだけ孤立した雲にみえてもどこか一か所で世界樹と繋がっている。

 雲は繋がりながらも形を変えて流れるため、地上の一部がずっと闇に覆われるということはない。

 大地に貯まった水は世界樹に繋がる雲で浄化されて下界に落ちる。

 下界では、濃い雲からは滝が流れるといわれている。そこが、空の大地の川が流れ落ちる所、ってことですね」

「理解が早いですな、ピンキー殿」

「ところで、以前お話しした件についてですが」

「神に会う、ということですな。それは、満月の夜に我々の守る祠に・・・」


 真面目な話をする村長老とピンキーの横で。

 俺はバクバク果物を口にかき込んでいっていた。


「ちょ、それどうやって食べてるんですか。剥こうとしても千切れるんですけど」

「うちも向こうの話 難しなってきたからコレ食べよ。にーちゃん剥いて」

「自分のも剥けないのに!?」

『ん』

「ありがとーニルフ! ・・・なにこれ中身グッロ!!!」

「あ、由佳にだけずるい! 僕にも・・・って中身グッロ!!!」

「どんな味なん、これ」

『めっちゃ甘い』

「どんな触感なんですか、これ」

『んー、生肉っぽい』

「怖いわ!」

「グロいです!」

「でもまあいいわ。食べよ」パクッ

「ちょ、由佳!?」

「ん・・・んんんんん!?」バクバクバクッ

「え、ちょ!? 由佳!?」

「めっっっっっちゃ美味い!!!」

「嘘!? 僕も!」バクバクバク

「「うんまーーー!?」」

『あ、ちょ、それ俺が剥いたヤツ!!!』



 ちゃんと2人の話を聞いてるのは、銀だけだった。

 ちなみにケムさんは、夕食の準備に帰った。



「めっちゃライチっぽぉぉぉぉぉい!!!」





 *





なんやかんやで話が終わって帰り際。


『うぇっぷ。もう食えない、吐く』

「ニルフさん剥きすぎ・・・ぐぇ」

「ジャムにしてくれる言うてたんやから、残しとけばよかったやん」


「お話、ありがとうございます。助かりました。しかもお土産まで」

「いいんじゃいいんじゃ、ピンキー殿はほとんど食べておらぬからの。

 旅のお仲間に剥いてもらうといいじゃろう」

「ところで村長老。私、地上で行商を営んでいるんですが・・・」

「ほうほう・・・」


 食べ過ぎて唸る俺達の向こうでピンキーが、村長老からたっぷりの果物を受け取っていた。

 あれ皮が硬いから沢山積んでも痛まないんだよな。・・・足は速いけど。

 迎えに来たケムさんと合流して、そのまま俺達は帰路に着く。

 

「ぐぇ」

「ごぅぇ」

「今日の夕食は何だい? ケム」

「今日は皆さんのために特別なものを作りましたよ!」

「お腹へったわぁ」



 ---------------

 ニルフ達が帰った後。

 村長老はテーブルに着いて一息ついていた。

 孫娘が白く濁ったお茶を置く。

 この天海で採れる白い葉を乾燥させて作られた、天海で良く飲まれているお茶だ。


 一口飲んで、ほっとする。

 その時、フッと村長老の脳裏に、1人の若者の姿が浮かんだ。

 銀の髪に、鋭い目つきの色白のその男。

 ピンキーと村長老の話を一言も聞き逃すそぶりもなく、しかもずっと周りを警戒し続けていた。

 そして、果物を嬉しそうに食べる仲間への、柔らかな眼差し。


「不思議な方じゃで。若い見た目に反して壮年の様な雰囲気じゃった」

「いやですね、おじいさん。銀さんの髪は白髪じゃなくて銀髪ですよ」

「・・・そういう意味では無くての?」


 村長老は、やれやれというように首を振り、お茶をすすって果物をつまんだ。

 ------------------

次回メモ:夢


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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