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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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天海~ニルフと銀~4夢旅

地震大丈夫ですか!?

 ちっこい靄に背中をさすられつつゲロゲロ言ってた靄が起き上がった。

 そこでようやく気付いた。

 なんか俺、広場みたいな所で戦ってたっぽい。

 周りに俺と同じくらいの大きさの靄たちが取り囲んで、試合 (?)を見てたっぽい。


 木刀靄は口元を袖で拭うと、俺の前に立った。

 え、なに。もう1戦やるつもり?


 正直あれくらいの実力の靄になら不意打ち食らわされても勝てる気がするけども。

 けっこう鋭くて怖い剣筋だったけど、大丈夫俺は勝てる。きっと、うん。

 油断は禁物だから、な!


 静かにこん棒を構える俺に、木刀霧は・・・。

 袖の汚れた右手を、差し出した。


「握手だ!」

「やだよ」

「はぁ!?」


 だってそっち、さっきゲロ拭いてたじゃん。


「ちぇっ、じゃあこっちにしてやるよ」

「・・・まあそっちなら」


 差し出し直された左手を俺は握りしめた。

 硬く握手を交わす。

 木刀靄が、負けた事すら楽しむような、弾ける笑顔で俺に笑いかける。


「お前には負けたよ」


 その瞬間。握手をした靄の手から俺の手に、暖かい何かが流れ込んだ。




 帰り。

 落ち着いて街を見回すと、さっきまで俺が旅していた世界樹のある世界とは、建物の形が全く違う事に気が付いた。

 向こうの世界はレンガや石を積んだり、木の板をくぎで打ち合わせて作っていたけれど、この世界のは・・・。


「石とか木を、粘土みたいに捏ねて伸ばして建物作ってる・・・」


 当然、継ぎ目はない。なんだか巨大な粘土細工っぽかった。

 しかも木で作られてる家、捏ねて伸ばして人住んでるのに、木が普通に生きてる。

 なにこれファンタジー。

 ・・・見覚えがある気が、する・・・のは気のせいか?


 まあそんなことは、どうでもいい。

 今一番大事なのは。


「おうち、どこぉ・・・?」


 家が、分からない事だ。

 泣きながら歩き回っている内に、とうとう日も沈む。

 真っ暗になった街で、俺は1人泣き続け・・・。






 *






 気づくと、広場に立っていた。

 さっきより、少し小さくて寂れている?

 周りをさっきと同じように傍観者たちがヤジを飛ばし、木刀霧と同じように、目の前では木の棒を持った霧が戦闘態勢を取っている。

 なんだ、デジャブ?


 襲い掛かって来るソイツを、さっきと同じようにボッコボコにして、「参った」と言わせる。


 その度に相手から俺に何かが流れ込み、その日の日が暮れると同時に、俺の目の前もブラックアウトし、次の勝負相手が目の前に立つ。


 なんだろう。

 一体、何が起こっているんだろう。


 それを数十回繰り返した頃だろうか。

 急に場面が、深い森に切り替わった。


「大丈夫か2人共。もうすぐ着くからね」

「えぇ、あの村なら、あそこならきっと、この子も・・・」


 後ろから声が聞こえて振り返る。

 初めに見た、おそらくは両親だろう2人が、自身よりも大きな荷物を背負って、辛そうに歩いていた。

 そりゃそうだろう、母の持つあの荷物の大きさはきっと、50キロ以上ある。

 父は、母の分の荷物も多少背負っているようで、もっと大きな荷物を背負っていた。

 何故か2人の服はボロボロで、精神的に疲れ果てたような雰囲気だった。

 俺は自分の背中を見る。

 2人よりも数倍大きな荷物を背負っていた。


「気づかんかった!」

「どうしたんだい? 危険な動物には近づかないようにね?」


 父が優しく声を掛けてくれる。

 俺はそれに「なんでもない」と答えて、父の元に向かう。


「そっちの分、持つよ。ほら、母さんも」

「そうか? スマナイが頼むとするよ」


 2人の背中から荷物を受け取る。

 こんな重そうな荷物を、1人で持てるか不安に思いつつ。

 だが。


 不思議なことに、ほとんど重さは感じなかった。

 

「では、行こうか。父さんが雑草を払うから、2人共後を続きなさい」

「ええ。ありがとうね・・・」


 先を行く父。

 すれ違ったとき、その背中は、以前よりも確実に小さくなっていた。





 *




「出口が見えてきたぞ」


 父の声で、道の先に光が差した広場があることに気づく。

 あの先には小さな門と塀があるんだろう。

 そこはきっと、こんな森とは違って、明るく暖かそうな光の降り注ぐ村なんだろう。

 早くいかないと、母さんが辛そうだ。 

 早く森を抜けて、村に行かないと。



 ・・・行ったら、どうなる?・・・



 森を抜け、村に着くと、俺は。

 ・・・俺は、俺を許せなくなる・・・?


「・・・行かなきゃ」


 気づくと、俺は小さく呟いていた。

 俺の言葉に、両親が顔を向ける。

 2人の顔を見た瞬間。

 俺は、荷物を投げ出して走り出していた。

 村の方向とは逆。

 森の、奥の奥へと。





 *






 気づくと俺は。

 ボロボロの服を着て。


 男達に蹴られていた。







 *






 痛みも引かぬまま。


 今度は商人のような風貌の男に、投げ飛ばされた。


 顔に走る、激しい痛み。


 焦げ臭い。






 *





 

 焦げ臭い。


 目の前のたき火に刺した肉が焦げている。


 横には楽器が散らばって。


 一緒にこの肉を食べようと笑いあったはずのアイツが、そのいくつもの手足を妙な方向に曲げて血をぶちまけて。


 俺の手の中で、冷たくなった。


次回メモ:銀


いつも読んでいただき、ありがとうごあいまうs!!!

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