天海~ニルフと銀~2 遺跡
数日後。俺達はある一つの遺跡で、石板を見つけた。
その島は最初に見かけたのと同じく森に囲まれていたが、森が遺跡を守ったのか、奇跡的に少しの部分だけ風化していない遺跡の建物が残っていた。
「先に行く」
『分かった』
銀を先頭に中に入ると、中は思ったよりも狭い、小さな部屋だった。
上から垂れるツタを切り裂いていくと、中央には。
「祭壇が置かれている」
『上に樹の根っこなのかツタなのかが覆ってるけど、これ祭壇割れてるんじゃね?』
「待て、これは・・・」
何かに気づいたのか、銀はゆっくりと木の根を切って、丁寧に祭壇から引きはがしていく。
小さなテーブルほどの大きさの、黄土色の祭壇が露わになった。
その上に、何か。
「ここだけ色が違う」
祭壇には、重そうな灰色の石の板が横たえられていた。一抱えほどの石の板だ。
銀が表面に被った埃を取ろうと手を触れる、も。
わずかに灰色の粉が落ちたため、すぐに手をひっこめる。
その時銀の袖に擦れて、埃が取れた。
ところに、何か彫ってある? 模様? いや、絵か?
『なあ、そこ、なんか書いてない?』
埃が取れた石版の表面には、所々文字の様な物が現れている。
俺と銀は顔を見合わせ、銀が風魔法と水魔法で優しく表面のゴミや汚れを取っていった。
綺麗になった石版。その淵には繊細な動物や植物の絵が彫られており、中央には文字が記されていた。
朽ちた遺跡に残されていたとは思えないほど、綺麗な状態で。
『これって・・・』
「ここに、我々の世・・・」
【ここに記すのは、我々の世界の最期。
我々は、有史の頃から魔王と勇者、魔族と人族が対立し、戦ってきた。
何度も何度も繰り返される歴史。勇者が魔王の元に向かい、戦う。
どちらが勝とうともこの世から戦いが無くなることは無い。結果にかかわらずこの世界は永遠に続く。
勇者が魔王の元を訪れたとの知らせが届く。
また新たな魔王が生まれ、勇者が旅立つのか。我々は少しの間両者の戦いに気を向けるが、すぐに忘れてしまった。
これは常に行われている、長い歴史のたった1つ。
今回もその一部に過ぎない。
自分たちの生活に、特に影響はない、と。
それが、女神の怒りを買ったのだろう。
ある月夜の事だった。
突然 大地が轟き、空が割れ、海が暴れる。
永遠に朝が来ないと思われた。
幾時間後、地平線から光が登る。
女神は、我々を見捨てはしなかったのだ。
生き残った我々は、深い感謝を掲げた。が。
熱く苦しい真っ白な光に包まれる。
登ってきたのは、太陽では無かったのだ。
一転して、闇に包まれる。周りは真っ暗で一寸先も見えない。温度も、時間の感覚すらも分からない、自分が生きているのか死んでいるのかも不明な状態。
私は後悔した。考えを改めることなく戦い続けた我々は、許されることは無いのだ、と。
深い後悔に至った、瞬間。優しい声が響いた。
暖かい風が頬を撫で、目を開ける。
私は、太陽の降り注ぐ、暖かな土地に寝かされていた。
声を上げると、周辺から幾人もの人が起き上がった。そこには人族も魔族も居た。
我々は、お互いに手を取り喜び合った。
種族の違いなど、関係なく。
不思議なことに、顔を見るだけでお互いを憎んでいた心が、嘘のように晴れ渡っていた。
まるであの白い光が、全ての憎しみ合う心を、焼き尽くしていったように。
・・・・・・・・・
世界が崩壊する前、魔王が市民達を王都から逃がし魔力で守っていた。
人族は数が多かった。そのため生き残った人数も自然と多くなった。
我々はこの世界で生きていく。種族の違いなど、関係無い。
我々の世界は、種族の対立により滅亡した。
この記録を読む者よ。
どうか、我々と同じ過ちを犯すことのないよう】
「・・・どうだ?」
『めっちゃスラスラ読めた』
俺が読み終わったころ、銀が声を掛けてきた。
なんだか微妙な顔をしている。
俺も、なんだか微妙な気持ちに包まれていた。
この石碑の文字は、ピンキー達の魔力をこめて書いたニホン語を読む時とは違った感じだ。
あれは直接読んでるっていうよりも、誰かの翻訳を介して読んでるって感じなんだ。
後、勉強したこの世界の文字を読んでるっていうのとも違う。
なんていうんだろう、この石碑の文字、なんか自分の知ってる文字に似てる気がするんだけど。
っていうか俺の住んでた世界の、故郷の国の文字として記憶してる文字とめっちゃ似てる気がするんだけど。
『でもそれだとさ、銀が読めるのはおかしいんだよな・・・?』
なんか所々、微妙に違う文字っぽいし。
例えるなら・・・ニホン語のひらがな(ピンキーが教えた)とカタカナ(ピンキーが(ry)みたいな?
きっちり書いたニホン語(ピンキー(ry)と達筆のニホン語(ピ(ry)みたいな???
てかピンキー、俺にニホン語教え過ぎだろう。ほとんど、文字の違い当てクイズみたいなもんだったけど。
「オレもだ。あまりにも違和感無く読めたが、オレの国の文字では無いな」
話し合った結果、「魔力をこめて書かれた文字なのかもしれない」という結論に至った銀。
ただ俺は、なんか納得していなかった。
なんか、なーんか見た気がするんだよなぁ。どこでだろう。
もっと詳しく調べようとして、無意識に石版に触れた、その瞬間。
意識が飛んだ。
次回メモ:夢
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!