(主人公もやっと)天海へ
次の日の朝早く、俺達は城を出発した。
世界樹島の世界樹の根元では、一緒に転移した仲間の皆や東の王や城の皆、そしてメイジさんが見送りに来てくれた。
俺は手を振って皆に『行ってきます』と言い、剣を天高く掲げた。
体が光に包まれる。
そうして、手を振る皆の姿が光にかき消され・・・。
*
サアッ・・・と風が前髪を揺らして、目を開ける。
世界樹の上に着いたようだ。
目の前には見渡す限りの白い平原と、雲一つない青い空。
もしかしてこれ全部、雲? 歩くとフワフワしてそう! わくわく!
足元をグッと踏みしめてみる。ガッサガサする。フワフワしてなかった。がっくり。
「百面相がっ」
すぐ横から震える声がした。見ると、銀が肩を震わしてこっちを見ていた。
口元に握りこぶしを当ててスッゲー震えている。なんか、強風に耐えるスライムっぽい。
足元をよく見ると、雲ではなく世界樹の葉が白くなったものだった。
それが雲と混ざって、見渡す限りの地平線を覆いつくし、世界に広がっている。
幾重にも葉が重なったようなガサガサとした踏み心地にガッカリしつつワサワサ歩き回ると、落ち葉の上を駆け巡った時のような、懐かしい感覚を思い出した。
・・・俺、この世界でこんなに落ち葉が重なるほど積もってる所を歩いた事、あったっけ?
「ここは・・・世界樹の上に、さらに樹が生えているのか」
銀の言葉で上を見上げると、俺達の真上に巨大な樹の枝が広がっているのが見えた。
高く高く広がった巨大な枝は不思議な薄い虹色をしていて、そこから生える葉はそれ自体が淡い光を放っている。
地上より少し強めの風が駆け抜け葉を揺らす。木漏れ日が俺達の周りに降り注ぎ、風に合わせてキラキラと輝いた。
ちょうど、俺達の背中側に樹の幹があるみたいだ。
『これって俺達が登ってきた世界樹の天辺って事なのか?』
「この情報は聞いてな・・・!!?」
『ん!?』
一瞬で、銀の気配がシャっとした。敵か!?
サッと体ごと振り返る銀。
続けて勢いよく振り返ろうとして・・・グラリ・・・、急に目の前が暗くなる。
「大丈夫か」
『ウッ、あぁ』
ガッと足に力を込めて、踏ん張り切ったけれども・・・。なんだろ、ちょっと息苦しい。
気にしつつもゆっくりと顔を上げて銀の向いた方向を見る、と。
俺達から15mほど離れた場所に生えた樹の幹の横に、白い半透明の人型の影が立っていた。成人男性ほどの背格好で、何故か俺達に向かって、ゆっくりと手を振っている。
そのままゆっくりと、自分の右側を指さした。
釣られるように顔を向けると、射した方向には石碑が・・・地面に刺さっていた。斜めに。
『なんかこう、上から落としたら偶々刺さったって感じに見えるんだけどアレ。≪登録≫しろって事か? 試練は?』
「世界樹島の樹とは別物なのかこれは? なんの属性なんだ?」
色々疑問に思いつつ2人で石碑に近づく。
葉の上だからか泉は無かったが、石碑の近くに武器を置くといつも通りに武器が光に包まれた。
宝石に、淡く白い光が宿る。
その瞬間、
『ん、あれ?』
なんか、息苦しさが消えた。
「どうした、体調不良か」
銀が周りを警戒しつつ俺の方を見る。
あ、そうか。さっき立ちくらみしたから休める場所探してるのか。
『大丈夫だ、なんか息苦しかったんだけど≪登録≫したら治った』
「息苦しい・・・毒・・・いや、そうか。高所か。気が付かなかった、スマン」
『いや銀が謝る事じゃないような? ってか銀は苦しくなかったのか』
「問題ない」
マジか。なんていうか、マジか。
そういえばこの世界樹っぽいのに≪登録≫したけど、なんの魔法が増えたんだろう。
とりあえずハープを弾いてみる。
『うーん』
「何も・・・特殊な魔法の感覚は無いな」
シルフ達もいつも通りに2人で俺の周りを音に合わせてフワフワと踊るばかり。
銀も魔法を色々試してみているが、特になにも変化は見つからなかった。
結局、「これは世界樹の石碑ではなく、天海で行動するための特殊な効果を付加する為の物ではないか」って結論を出して、俺達はこの樹を離れる事にした。
しばらく歩いて、振り返る。
遠くに、薄い虹色に輝く巨大な樹が見えた。
青い空を背景に白い葉の大地に浮き上がるそれは。太陽を反射して光りを振りまき、一枚の絵画のようで。
まるで薄いガラス細工で出来たような風景に、思わず見入ってしまう。
「綺麗だな」
『世界中の光を集めて樹の形に固めたら、こうなるのかな』
この景色を見せたいな。
つい、小さく呟いてしまったこの言葉をシルフは運ばなかったのか、銀は何も言わなかった。
十分に見入った後、先を急ごうと踵を返したその時。光る樹の中腹でこちらに手を振る、枝に座った半透明な人影が見えた気がした。
*
樹からほどほどに離れた俺達は、まず武器を取り出した。
俺達5人召喚者のもらった≪世界樹の武器≫は連動していて、誰かが1人でもどこかの石碑に≪登録≫すればそこに転移が出来るし、武器から地図を映し出せば、それぞれの近くにある石碑の場所に、赤いマークが出る。
って事で、武器から地図を出してピンキー達の位置を把握しようと思ったんだけど・・・、地上の時と同じように地図には俺達以外の赤いマークは付いていなかった。
近くに≪登録≫の出来る石碑が無いのかもしれない。
しょうがないので、日が高い間に、まず樹を中心に周辺を調査する事にした。
先に天海に登ったピンキーや勇者君たちの痕跡があるはずだと思っての事だったんだけど・・・。
残念ながら見つける事は出来なかった。
このままだと合流出来るのか、不安だな。
っていうか たき火の跡はもちろん、俺達に当てた目印すら見つからないとか、おかしくない?
「天海は神に会うために登ると言われているが・・・。自身の力で進めということか?」
銀がボソっと呟いた。
結局どうしようもないので、俺達は俺達で流れるまま雲のように、足を進めてみる事にした。
目の前には平坦な、真っ白な大地。
地平線が広がるのみで、目的に出来そうな建築物や自然物は何も見えなかったけど。
幸いな事にあの光る巨樹は遠くからでもよく見えたので、ある程度行っても何も見つからなかった場合には戻ることが出来る。
*
そのまま数日、真っ白な大地を歩き続けた。
たまに地平線の向こうに島のような影を見つけては、そこを目指して進路を変えた。
しかし追いかけるうちに、それはフワっと消えて見えなくなる。逃げていったみたいに。
そしてまた歩を進めるうちに島影を見つける、その繰り返しだった。
そんな数日の間に、気づいた事がいくつかある。
・白い大地の所々に穴が開いている。
パッと見分からないがそこだけ白い煙のようなもので出来ていて、落ちると地上まで真っ逆さま。
(俺がパンを落っことした)
銀によると煙じゃなくて水蒸気、そして雲の成分らしい。
よく目を凝らすと歩ける部分は葉のような形の雲が重なっているので、そこを歩くようにした。
・この白い大地は雲のように、風と共に世界を流れてるっぽい。
(世界樹の葉っぱで出来ている大地のようなのに、流れてるとか)
魔物は居なかった。バジリスクとかの、おとなしい動物たちが住む穏やかな世界。
俺達は特に怪我をすることも無く、ただただ穏やかな不思議な世界を歩き続けた。
ただし空に雲がない分、直射日光が暑い砂漠レベルなんだけどね。
ようやく島影に追いついた頃、俺の顔はすっかりと焼けていた。
マフラーを巻いていない、上半分だけ。
俺に話しかけようとするたびに肩を震わせる銀。こいつの顔は焼けていない。ずるい。
目の前で、巨大な島が動いている。
人が歩くような速度で、葉の白い大地の上をまるで滑るように。
不思議と、島が動くような音は何もなかった。もっとガリガリした感じの擦れる音が響いてるもんかと思ってたんだけど。
その時 風が島から吹き下ろした。ここ数日嗅いでいない、懐かしい臭いに包まれる。これは、土か?
島の気配を探っていた銀が、島に飛び移った。俺も続いて、島に飛び移る。
白い大地から島に渡る時、足元がグニャリとした。
変なモノでも落ちてた?
今 踏んだ場所を振りかえるが、そこには他と変わりのない白い大地が広がっているだけだった。
「どうかしたか」
『んー。なんでもない』
俺は気にせず銀の後に続く。
島に降り立った俺達の目の前には。巨大な森と、風化した石の壁と、土の大地が広がっていた。
次回メモ:石
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