海の入口へ 帰還
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天海は、各地の世界樹が支える天空の大陸。
雲の上には大陸が散らばっており、1つとして同じ場所にとどまっている事は無い、と言われている・・・。
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海の戦いの後、俺達は西の港に帰ってすぐに、東の城に転移した。
ここですぐに旅の準備を整えて、俺達も天海に出発するためだ。
「ご苦労だったな、少し休息を取っていくとよかろう」
王は帰ってきた俺達の姿を見て凄く顔を歪めた後、すぐに引っ込んでいった。
いつもすぐに過保護になる王がサッと引いてったことに、銀と顔を見合わせる。
銀を見る。全身塩水とスライムと白い肉片と血とで、えげつない事になっていた。
自分の服を見る。同じくエライ事になっていた。
さすがに全身ヌメヌメで海洋魔物の肉片付いてて生臭かったら、近寄ってこないか。
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『まだ生臭い気がする』
風呂に入ったけど、まだ体が生臭い気がする。
俺は手をスンスン嗅ぎながら、皆でいつも集まっていた大広間のドアを開けた。
「あっ・・・、来たわねニルフ」
「おかえりなさいです、大変でしたね」
「あらあら。臭いが気になるんでしたら、この新しい匂い袋でもいかがですか?」
パッと顔を上げたのは、レモンちゃんだった。
今、俺だと分かって一瞬落胆した? って事は、ピンキーはまだ帰ってないんだな。
レモンちゃんの後からキラ子ちゃんが俺にねぎらいの言葉を掛けつつ飲み物を持ってきてくれた。
ありがとうって言いつつ受け取る。お茶おいしい。
ライムさんが俺の臭いについて既に聞いてたらしく、匂い袋をくれた。
お茶と匂い袋を渡してくれた2人が、俺からサッと離れて距離を取った。
・・・もしかして、まだそんなに臭う・・・?
「大変だったらしいな」
『うぉ!?』
ドアのすぐ横に、サイダーさんが寄りかかって立ってた。
刀を手放さずにカッコよく立ってる。
ていうか気配感じなかったんだけど。どんどん護衛として力を増してる気がする。
部屋を見回すと、部屋の端で銀が手を振った。旅の準備を整えているっぽい。
その横ではハーピーが銀の腕に・・・しがみついている?
プラズマとベリーはレモンちゃんとキラ子ちゃんの膝の上でぐっすり眠っている。
隊長とケモラーさんとポニーさんは見当たらなかったけど、ほぼ全員が部屋にそろっていた。
『なんで皆居るの?』
「アンタらが帰って来たって聞いてね。せっかくだから見送り」
レモンちゃんがそっけなく答えた。
その後ろから、おずおずとキラ子ちゃんが顔を出す。
「あと、これを・・・」
申し訳なさそうに差し出されたのは、旅の物にしては豪華な食料の山だった。
『・・・売れ、と?』
「・・・よくわかったわね」
レモンちゃんが、俺と目を合わせないまま答えた。
天海には、天海族が住んでるらしい。
渡された食料は、別に俺達が食べても良い物だったらしい。
天海という普通の人ではいけないような場所に向かう俺達をねぎらう意味も込めて、せめて良い物をとピンキー親衛隊の皆が行商中に買い集めてくれていたそうだ。
「ご主人様たちにも同じ物を渡したからね。あんたにも渡さないとって思っただけ。
あ、でも余ったら是非天海族に売って心を鷲掴みにして、新たなお客様の下地を」
「あらあら、うふふ」
しばらくツンツンしつつしゃべっていたレモンちゃんが行商の話になりかけた瞬間に、にっこりと笑ったライムさんに部屋の外に連れていかれていった。
レモンちゃんの膝から落っこちたベリーが不満そうに鳴いて、キラ子ちゃんの横にゴロンと寝転ぶ。
キラ子ちゃんの困ったような笑い顔を見た後、銀の元に向かった。
『準備できたっぽいかー銀。ところでなんでハーピーは拗ねつつ銀にしがみついてるの?』
「ハーピーが付いてくると。駄目だと言ったんだが」
銀が苦笑いしつつ俺を見上げる。
後ろではハーピーが銀の腕をがっしり掴んでいた。ほっぺたが丸く膨らんでいる。突っついたらブゥォって音鳴りそうだな。
それにしても困った顔してる人多いな、この部屋。
2人が喧嘩してる間に、銀と2人で、天海についての知っている限りの情報を確かめなおす事にした。
「どこまで聞いている」
『確か、伝説にある場所だとか、世界樹で支えられてる世界だとか、天海に住む人がいるらしいとか』
銀は頷いた。
「あとは、あの話だな」
『だな』
あの話とは・・・。
「この天海のどこかに、神がいるらしい」。勇者くんが天海に行く前に王達に教えた、世界樹島の大精霊のじいさんから聞いた情報の事だ。
伝説のみで語られていた神。それが実際にいるという、大精霊からの情報は王達を驚かせた。
今までに「神からのお告げがあった」という話は、全て世界樹島の神官達から もたらされていたものだったからだ。
そして東の王は、神が自分たちを召喚したと言った。ならばその神とはもしかして。
ところでなんだが、あの大精霊じいさん。なんで俺達の前には姿を現さないんだ?
大体あのじいさん色々知ってるんだったら俺達にも話してくれたって
「ニルフ、話がずれてきている」
『んお、すまん』
うっかり大精霊仙人風じいさんの悪口になるところだった。
と、ここで入り口から俺達に声がかけられた。
「2人共、来てくれ」
呼んだのは・・・
『隊長久しぶり!』
ピンキー達を天海に見送ったぶりにあう、隊長だった。
何故か一緒に調査に向かうと聞いていたのに、まったく船で出会わなかった隊長だった。
そういえばケモラーさんとポニーさんも一緒に行くって言ってたはずだったのに何故か全く(ry。
「別動隊だったんだ。さぁ行くぞ」
別動隊とかあったんだな。知らなかった。銀は「言ってたぞ」って言ってた。
隊長に連れられて向かったのは、王の間だった。
何故か中から、「ワシも調査に向かっていれば」とか「王が何をほざいているんですか」とか聞こえてくるけど、構わず隊長がドアを開けた。ドアを守る兵士が「え?! 開けちゃうの!?」って顔をする。
急に開いたドアに驚きつつも一瞬で佇まいを直した2人は、いつも通りに俺達を王の間に迎え入れた。
普段あんだけ威厳が崩れた状態を見てるんだし、今更居住まい正さなくても良い気がするんだけど・・・。
久々に会った王は俺達の無事を喜び、船での話を熱心に聞いてくれた。
ちなみに、さっき会った時のすごい顔は、なんか俺達のボロボロの姿を見て、一緒に行けなかったことを後悔してまともに顔を見れなかったかららしい。
臭かった訳じゃないと力説された。
そして話はこれから向かう天海の事になり・・・急に、王の表情が一変した。
言い辛そうに、言葉を絞り出す。
「良ければ・・・余力があればでいいんだが・・・」
半分目をつぶり、苦しそうな表情で。
でも何を言いたいのかの予想は、すでについてる。
『王子の事、ですね』
きっと女神に、王子の事について聞いてほしいと頼みたいんだろう。
召喚されてからずっと世話になってる王の頼みだ。出来るだけ聞いてあげたい。
っていうか元々「聞こうか」って話になっていた。俺達の間で。
だが。その言葉を聞いた王の目が一瞬、泳ぐ・・・そして。
「いや、頼みたいのはあの勇者の事じゃ。なんというか・・・何か、気になっての」
「自身の子供の安否よりもか」
「うむ・・・。何故かは分からぬが、あの子を危険にさらしてはならぬという、拭えぬ焦燥感がある」
「分かった」
銀の短い返事を合図にして、俺達は王の間を後にする。
きっと泣いているであろう王の顔を、見ないようにして。
というか俺は、自分の顔を隠すのに必死だった。
・・・恰好つけて『王子の事、ですね』とか言っちゃったよ! はずかしい!!!
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「それじゃ、今回も頼むぜじいさん」
「おう、終わったら呼ぶがよい。また面白いのろけ話を期待しておるぞ」
「ちゃかすなって!」
山に囲まれ緑の風が吹きすさぶ風光明美な広場。
そのど真ん中に立つ1本の巨大な樹の根元で、むさくるしい男と小さな老人が親し気に話している。
楽し気に笑った老人がスッと真面目な顔つきをして、何かを行い姿を消す。
その瞬間、むさくるしい姿の男は、その場から掻き消え。後には巨大な一本の樹だけが残った。
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次回メモ:天2
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!!