海への入り口 帰り
ニルフ達の船の旅は、大体行きと帰り合わせて3~4日くらいです
(日にち忘れてた)
----------------
目の前には巨大な怪物。
そいつは周辺を囲む俺達の船に向かって腕のような、白い槍のような物を構えて狙っている。
四方に伸びる白い槍。
その一本一本は全て樹齢数百年は過ぎた巨木の丸太と同じほどの太さだ。
それらが全て、俺達全ての艦隊を余さず狙っていた。
白い槍の根元が、グボンと大きくうねり太くなる。
力を、貯めているのか。
それが飛んでもない速さでこちらに伸びてくるのをまるでスローモーションのように感じながら、俺達は思い出したかのように火の魔法を放つ。
ただあっけなく散るよりは、少しの焦げ跡程度でも残したいじゃないか。
俺達が、生きた証として。
しかし俺達の火は焦げ跡どころか水に火の粉を落とした程度の音と共に何の跡も残さないまま消え去って。
次は俺達の番だと、目を瞑ろうとした時。
俺達を、緑の美しい風が覆い隠した。
目の前で、白い槍が砕け散る。
奇跡だ・・・。
俺達は、海の奇跡に遭遇したのだ。
竜巻は魔物だけを切り裂いて、また嘘のように収まっていった。
俺は空から降り注ぐ白い細切れの物体を目にしながら、これが伝え聞く「雪」という魔法なのだと、実感したのだった。
------------------
竜巻は海の魔物どころか降り注いでる途中の森スライムと、まさに襲い掛かろうとしていた下級魔族を全て切り刻んでから、嘘みたいに収まった。
静かになった海の上には、30mほどの真っ白なタルみたいなやつがぷかーと浮いていて、その周りには1mほどの大きさに切りそろえられた真っ白なウネウネが一杯千切れて散らばっていた。
不思議なことに、白い触手タル魔物が死んでからは、スライムの雨も止んでいた。
それになぜか、黒い細切れも無い。
『なんだったんだ、アレ』
なんかもういろいろ聞きたい事はあったけど、とりあえず全ての疑問をこめてそう呟いてみた。
当然答えなんてないだろうって思っていたが、
「白いタルの上部に、無数の柔らかい触手を生やした魔物といったところか。
タルの下部に岩がついている所を見ると、海底に接着して触手で待ち伏せの狩りをするタイプだな」
横から銀が、剣を船の甲板から引っこ抜きつつ答えてくれた。
何故か一瞬、剣の宝石から地図を出しているように見えたけど、気のせいか?
(転移しようとして・・・た訳ないよな)
今の安全になった一瞬で、天海に行ったピンキー達の無事を確認してたんだろう。
俺はもう一度、甲板の柵から身を乗り出して海上を見る。
つまりこれが、さっき俺達の船を持ち上げたやつなのか。
安全を確認したのか、小船が近くに寄ってサンプルを取っているのが見える。
船にはいかにも学者って感じの人と西の兵士が乗っていた。
「見てくださいよコレ。触手の先端に針が付いてますよ博士。これ毒針でしょうねこれ」
会話を盗み聞きしていたら、あの白い魔物、毒まで持ってる事を聞いてしまった。
こっわ。海こっわ。
毒とかもう、銀じゃん。巨大で俊敏な腕一杯ある銀って事じゃん。勝てるわけないじゃん。
とりあえず火の魔法を織り交ぜて、解毒の魔法を響かせとこう・・・。
手元にあるハープを見る。なんか緑色になっていた。
アレ!?
「色変わってないか?」
銀もめっちゃ驚いている。表情には ほぼ表れてないけど。
ハープを光にかざしてみてみると、取りついていたスライム達の核が全く残ってない事に気づいた。
取り込もうとしていた森スライム達の核が全て破壊され、ゼリー部を逆にハープが吸収したっぽい・・・のか?
試しに弾いてみる。
んー、これは・・・?
「音に深みが出た・・・か?」
若干音に深みが出た。そして弾くと同時に、今まで以上にシルフ達が喜んで舞うようになった。
俺はそのシルフ達を見てふと思ってしまった。
もしかしてさっきの竜巻って・・・。
スライム達にハープを取り込まれたシー君とフーちゃんが怒って、その辺のシルフ全部を味方につけて竜巻を起こしました、ってやつ?
*
体勢を整えた後、魔界に通じるポイントに行こうとするも、そのポイントは真っ黒な竜巻に覆われていて近づけなかった。
初めはあの白い触手と戦っている時に見えた敵の集団か何かと思って警戒しつつだったが、黒い竜巻の中に何かが居るというわけでは無いっぽかった。
「海に残骸が無かったことから、あの援軍に見えた黒い集団は白い触手の出した麻痺毒か幻術、それか魔界への入り口を守るために設置された幻覚罠の一種と言ったところと推測されます」
と、さっき触手調べてた学者さんチームが見解を出してたな。
それならってことで、東の兵士達が風の中級魔法で反対周りの竜巻をぶつけてみたが、勢いはまるで収まらなかった。
そのため、調査を打ち切っていったん帰ることになった。
帰りは行きと同じく、船で。
一応船の破損の応急処置は終えており、兵士達も各自の回復魔法と俺のハープで完全に回復しているとはいえ、先ほどの戦いで海の魔物たちは荒れに荒れていて凶暴性が増していたんだけど。
海に石碑が無い手前、俺達の転移で船ごと帰るのは無理だったからだ。
一応各国の王達に、「本気でやばいときは、なりふり構わず転移で戻ってこい」って言われてはいた。
一応、あの危なかった瞬間に隙をついて俺達だけでも帰ることは出来た。
でも俺達はそうしなかった。
以前銀が軍隊を転移で移動させてたことがあったけれど、海全体に広がるこの艦隊の人達全てを移動させるのは、あの混乱した状況では無理だっただろうから。
だから回復の出来る俺が、残らなきゃいけないってちょっと思ったんだ。
きっと銀は俺のそんな気持ちを汲んでくれてたんだろうと思う。
そしてなんか本気でやばいって時は、銀が転移を発動させてただろうとも、思った。
全部「思った」としか言ってないけど、とりあえず、皆が無事でよかった。
ちなみにさっきの竜巻についての学者チーム見解は。
竜巻と共に、天から雪が降ってきたという火の船の目撃談を参考にして、「天海に居るという女神が氷の魔法を天から遣わして俺達を助けた」という話になったっぽい。
そして「勇者が天海に行った」という話が各船に届けられ、女神説が信ぴょう性を増したらしい。
俺は『すごいですねー』って言いながら冷や汗を流した。
これハープ守り抜かないと、何回もやったらいつかはバレるな・・・。
~おまけ:漁港に帰ってからの事~
港に帰ったら、美女に会った。
スカートは所々破れ、服も汚れていて痛々しい。
でもその美貌には傷がついてなくてホッとした。
またねって言いつつ去っていった美女。
ニルフは知らない。
その者こそが、あの時人一倍逞しい怒声を放ちつつ1人で船1つを守り抜いたという事を・・・。
銀は言えなかった。
その者こそが、姿を知られていないことで有名な南のギルドマスターで、しかも男だという事を・・・。
(後日ピンキー達に後でこの魔物の話をしたら、「巨大イソギンチャク!!!」って叫んでた。
ピンキーが描いてくれたイソギンチャクの絵は、キモかった)
ーーーーーーーーーーー
「私たちは、約束を守ったよ」
薄暗い場所で、優しい風貌の男が話す。
声がガラガラに掠れ、どこか疲弊している様子の、優男。
それを聞くのは、全身を黒いローブで覆った細身の男。
「マダダ」
しかし黒ローブの男は、何かを否定した。
それを聞いた優男の顔は、わずかに歪む。
「何が足りないの?」
少しこわばった声で、問いかける。
黒ローブの男が、わずかに笑った気がした。
「ツギハ チョクセツ ヤレ。サモナクバ・・・」
黒ローブの男が、壁にかかった布を勢いよく引っぺがす。
カーテンに遮られていた日光が一気に窓から入り込み、室内を照らした。
明るくなった室内に浮かび上がったのは、汗だくで額から汗をぬぐいつつ肩で息をするザンアクロス。
そして床にグッタリと倒れ伏したジジと、その介抱をするプックの姿だった。
「ジジチャン
もうスライム
つかれた」
「私も、もう転移させるのは限界」
疲れ果てて倒れつつ、もう無理だと訴える2人を鼻で笑った黒ローブは、そのまま窓に手を向ける。
そして、手のひらに魔力を集中させ・・・。
「やめろ!!!」
それを見た瞬間、ザンアクロスが叫んだ。
今まで聞いたことのない、怒号と焦りの含まれた大きな声に、プックがビクリと体を震わせる。
「ワカッタナラ シタガエ。イツデモ コワセル」
黒ローブはそう言い残し、静かに部屋を去っていった。
絶望したように3人が見つめる窓の外。
光が差し込むその場所には、皆がほがらかに笑いあう、人族の街が広がっていた。
-------------
次回メモ:天に
いつも読んでいただき、ありがとうごあいます!!!!