表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
107/187

海への入り口 戦い2

 一瞬揺れが収まってホッとしたら、めちゃくちゃ大きく揺れて、風の障壁シールドに穴が開いた。


 俺から見たらそんな感じだった。一体何が起こったのか。

 最初の触手からの攻撃で天井のように張られていた布のスライム避けはすっかりどっかに行っちゃっていて、船には直接スライムが降り注いでいた。

 

 ものすごい量のスライムが目の前に降り注いでいる。

 兵士達が何とか蹴散らそうとしているが、多勢に無勢で押され気味だ。

 ・・・うん、逃げるか。

 俺は雨宿り(スライム宿り?)出来る場所がないかサッと目を走らせる。

 ちょうどいい事に、さっき座ってたタルが壊れて穴が開いていた。急いで中に潜り込み、身をひそめる。


 スライムの雨にさえぎられた視界の向こうでは、銀や遠距離魔法の得意なほかの船の兵士達が、こちらに降り注ぐスライムを船の外にはじき出していた。


『よし、俺には俺の出来ることをしよう』


 俺は気合を入れるとハープを持ちなおし、奏でる。

 タルにスライムが当たっているのか、メキッバキッと、軟体生物が当たってるとは思えないような音が鳴っている。

 衝撃で他にもどこか壊れかけているのか、不気味に軋む音が耳に付く。

 時折タルに入り込もうとするスライムも居たが、それは魔弾で弾き飛ばした。

 

 と、急に大波が甲板全体を洗い流した。

 タルが波を受けて大きく揺れる!

 びっくりして顔を出すと、西の船が、定期的に俺達の船に海水をぶっかけているところだった。

 その度にスライムは洗い流され、顔に取りつかれて倒れかけた兵士達も息を吹き返し、俺のハープで回復していった。

 何とか体制を整えた兵士達がもう一度風魔法を唱えると、スライム達がまたはじき出されるようになった。

 最初ほどではないが、豪雨レベルのスライムを小雨レベルまで抑えきれている。


 ひとまず、安心か。

 その心を踏みにじるかのように。

 船の下から、一段と大きな突き! ぐわぁあぁぁん!と妙な重力が船を襲う!

 え、なにこれ!?何が起こってるの!?


 タルの中から這い出して船の外を見ると、なぜかほかの船が結構下に見える。

 え?


 隊後方の船がこちらを指さして何かを叫んでいる。

 海からは白いウネウネと動く物が沢山生えている。なにあれ触手?

 それらは手当たり次第に手に当たる物を突っつき叩き巻き付き揺らし、それが生物ならば全て海に弾きづり込んでいた。

 被害にあっているのは、まだスライムに引き寄せられた海の魔物たちだけのようだったが・・・。

 あれだけの揺れにもかかわらず、海上には人族の姿は無かった。

 食われたわけじゃ・・・なければいいけど。


 てか何で浮いてるんだ俺達の船。すごく嫌な予感がする。

 海上にある船の兵士達が彼らの船に絡む触手や魔物と戦う中、何名かの南の兵士がこちらから目をそらさないようにしていることに気づいた。

 あれ、これってもしかして、魔法放とうとしてる?

 こちらを見ていた兵士たちの手のあたりが、きらりと赤く輝いた。


「つーかーまーれーーー!!!」


 うちの船長が叫ぶ。一斉に放たれた赤い魔法が俺達の乗った船の下に突き刺さった。

 一段と大きな揺れと、浮遊感・・・。時が止まったかのような感覚に陥ったその時、俺達の船は海面にたたきつけられた!

 衝撃で折れるマスト。吹っ飛ぶ皆。宙を舞うスライム。

 俺はちょうど、タルにへばりつき塩水で息絶えたスライム達の上に落ちたようだ。べちゃっとして気持ち悪い。

 衝撃で潰れたスライムが張り付き、ぬちょぬちょとした背中をタルから引っぺがして起き上がる。


 森スライムの色も相まって、一瞬で船の上がシェイクされたサラダっぽくなっていた。

 兵士も魔物も船にへばりついていたスライムも、皆が仲良くグロッキーだ。

 船を持ち上げていた巨大な触手も、集中砲火を受けてぐったりと焼け焦げて甲板に倒れている。


 兵士も全員倒れているので当然風の障壁シールドは完全に消え失せているが、幸いな事にさっきの魔法で爆風が起き、ここに落ちるはずだった空のスライム達は上空高くに吹き飛ばされていったようだ。

 しっちゃかめっちゃかになった船の上で、何人かが呻きつつ起き上がっているのが見える。

 この分なら、またスライムがここに降り注ぐ前に障壁シールドを張れそうだ。


 俺は皆の覚醒を促すためにハープを手に取ろうとして・・・。


『あれ、無い?』


 見ると、さっきの衝撃でタルの中にスッポリと入り込んでいた。

 このタルは俺が避難してたやつだな。

 海水といろんなモノまみれになったヌルヌルの甲板に手を付いて、潰れたスライムを押しのけて屈んでタルからハープを取り出す。

 と。

 ハープが手の中で、ウネウネと動いた。


 『うわぁああああ!?』


 俺のハープに、スライムがひっついている!!!?

 タルの中に潜んで塩水を浴びなかった奴が残ってたのか!

 

 俺が手に取ったのが分かったのか、最初はゆっくりだったスライムの動きが、ウネウネと早まった。

 まさかこれって!


『ちょちょちょっと!吸収しようとしてる!吸収しようと!してるんだけどぉぉお!?』


 引っ付いてスライム部分を取り込もうとしてる森スライムを、ハープを足で挟みつつ両手で引っ張って引っぺがそうとするが上手くいかない!!!


 と、またあの下から突き上げるような振動が船全体を襲い始めた!

 目の端で確認すると、あの焦げた白い触手がズルズルと海に沈んでいく所だった。

 畜生、生きてやがったか!

 激しくなる揺れの中、俺は「起き上がりこぼし」のようにコロコロ転がりながら一生懸命に森スライムと格闘する。だが。


『駄目だ!取れないぃぃぃいい!!!』

「焦るなニルフ!」


 焦る俺の声を聴いて、銀が駈け寄ってきた!

 もう歩く事すら困難なほど滑る甲板の上を、ものすごい揺れを物ともせずに走っている。

 すげえな銀、普通に走って来てるよ。頭の片隅でちょっと思った。


「貸せ」


 駆け寄った銀が、いつもの投げナイフを取り出した。

 ハープと森スライムの間をナイフで切ろうとするが、全く歯が立たない。


『銀のナイフの切れ味でもダメなのか!?』

「ぐっ。塩水に浸けるぞ」


 どんどん吸収されるハープ。このままじゃ!

 銀が呟きつつ世界樹の両手剣に持ち替えた、その時。




「おい!空を見ろ!」



 泣き叫ぶような声を、シルフが運んできた。

 その声につられるように見上げた、空には・・・。


 また降り注ぎ始めた森スライムで霞む、空の向こう。

 そこから、真っ黒な何かが大群で押し寄せていた。

 その方角は、魔界への入り口があるとされている場所と同じで。



「奴らの・・・援軍か・・・」



 絶望の混ざった、誰かの呟き。


 周囲を見ると、何かに呼ばれたのかと錯覚するほどに集まった森スライム達が、ハープを囲むようにズルズルと円を狭めてきていて。

 銀は両手剣から作り出した塩水で球体を作り、その中にハープを入れて守ろうとするも、森スライム達は構わずその中に飛び込んでいく。

 俺達に叩き落とされ塩水で命を散らし、だがその屍は次のスライムの糧となり。

 死んだスライムを乗り越えて乗り越えて、奴らは少しずつだが着々とハープに取りついていった・・・。



 隊の中心に当たる海上では、ようやく姿を現した触手の主が、その白いタルのような体の上部から生えた触手を四方に向け、全て槍のように構えていた。

 今にも発射されるそれは、完全にこの隊全体を攻撃し破壊できるほどの大きさで。

 言葉は無くとも、これまでの攻撃は完全にお遊びだったという事実がヒシヒシと伝わってくる、その威圧感。絶望感。



 絶体絶命。誰もが何かを諦めて。

 完全に、誰もが声すら出せないほどの絶望の中で。




 俺のハープが完全に、森スライム達に、取り込まれた。

 瞬間。





 その海域全てを呑み込む大きな竜巻が、発生。

 全てを破壊しつくして消えた。


 ・・・なにコレ幻?

次回メモ:風


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ