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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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SS 王の葛藤

 ワシは東の王。

 名前は古よりの決まりにより教えることが出来ぬ。すまんな。

 ワシの住むこの時代は小さな事件は数々起こりはするが、世界的に見れば平和。

 その分、失踪した我が子供達の捜索に当てることが出来た。部下達もワシの気持ちを汲んでか、1年たった今も全力で捜索を行ってくれている。

 いい部下を持ったもんじゃ。


 ・・・ワシには子供が2人居った。青年と呼べる年に育った、男2人。

 ある日他国に遠征中、その2人が忽然と消えた。

 いや、1人・・・長男だけは見つかった。魔物に食い散らかされた、無残な姿となって。

 次男の遺体は見つからなかった。

 すぐに捜索隊を出すも全く手がかりもなく、心労で妻は亡くなり後には兵士と長男の遺体だけが残った。



 そんな悲しくも一筋の希望を捨てずに捜索を続けていた、ある日。

 我が城に神官が訪れた。



「神託が下されました。東国を治める王よ、即刻旅立ちの準備を。世界会議を行います」


 ワシの前に立つ若い男は小さな紙を広げて、無感情な声で淡々と読み上げる。

 なぜ世界樹島の神官というのは、皆この者のように無表情なのだろう。

 ワシは横に控える大臣に軽く目線を送る。大臣の眉が片側、スッと上がった。

 ふむ。

 

「あい分かった。して、神託の内容とは」

「会議をお待ちください」


 さすがに教えてはくれぬか。

 神官が大臣に巫女からの手紙を渡した後、深い礼をして王座から出ていく。相変わらず、どこか操られた人形のように感じて不気味じゃの。

 ワシは受け取った手紙を読みつつ、留守中の仕事に関しての指示を大臣に行い・・・手紙のある一節に目が留まる。


「では、留守の守りはお任せください」

「いや、その件だが大臣。今回は別の者に任せるとしよう」

「理由をお聞きしても?」


 ワシは大臣に手紙を見せる。

 手紙には、王以外にもう1人、国内を知る誰かを各国から1人ずつ参加させるようにと記載されていた。




 *




 そうして参加した世界会議だったが、結果は散々なものだった。

 

「なぜ我が国が全ての召喚者を受け入れねばならぬのだ。『召喚者達」というからには複数人であろうに」

「しようがありませんよ。祭りを終えているのは我が国だけ、しかも王子たちの捜索に今後も協力を惜しまないとまで言われてしまっては」


 西の女王と南の王め、ワシに全ての面倒ごとを押し付けよった。

 確かに2人の言い分も分かる。

 南の王は我が息子と行動を共にしていた愛娘が行方不明になり精神的に不安定。

 西の国も年に一度の祭りを控えておりそれどころではない。


「その代わりと言ってはなんじゃが、召喚者のもたらす富は、優先的に東の国が持っていくと言い」


 あの西の女王の扇子で隠した笑い顔が、まだ思い出せる。


「・・・まぁ、なんだかんだ言ってお互い協力してしまうんじゃよ」

「いつもの事ですね」

「でも少しくらい愚痴を言ってもいいじゃろう!」

「いつもの事ですね」

「というか、なぜ世界樹島で召喚者達を保護しないんじゃ」

「何かと秘密の多い島ですからね」


 ワシがブツブツと大臣に文句を言っていると、留守を任せていた王宮魔導士が話を聞きつけて飛んできた。

 この者、優秀なのだが一風変わった所があってそれがまた面白い部下だ。

 彼女は手を胸の前でブンブンと振って興奮気味に叫びだす。

 

「召喚者が現れるというのは本当ですか!?」

「耳が早いな王宮魔導士よ。一応、特秘事項じゃから城から漏れぬようにな」

「その辺はぬかりありません王よ! あとこの世界で召喚者が現れたという記録はありませんでした!

 確認されてないだけかもしれませんけどね!」

「仕事が早いな王宮魔導士よ。ご苦労だ。

 大臣よ、召喚者を迎え入れる準備に取り掛かるか」

「かしこまりました。して、どの程度召喚者と関わるので?」


 大臣の言葉にワシは少し考える。


「うむ。この世界に慣れるまでの、最低限の衣食住だけで良いじゃろう。

 幸いこの街には仕事もギルドもある。探せば暮らすに困ることも無いからな。

 後は影に尾行を命じ、適度に行動を報告させれば問題あるまい」

「そうですね。何人来るか分かりませんし、それがよろしいでしょう」


 大臣の言葉にワシは頷いて見せる。王宮魔導士も異論はない様だ。

 そこでワシは1つため息を付いて、大臣に話を振る。


「さて大臣よ・・・。ワシの言いたい事は分かるな・・・」

「存じております王よ。準備は既に終えております」

 

 さすが長年仕えてくれている大臣。阿吽の呼吸とはまさにこの事じゃな。

 もし我が国民に危害を及ぼすような奴らなら、街に放つ前に対応をしなければならないからな。

 いくら、神から遣わされた召喚者と言えども。



 そこで、ポンっと王宮魔導士が手を叩いた。

 重い空気が霧散する。

 この者のこういうところは流石だ。大臣は何故か渋い顔をしているが。

 そのままの顔で大臣が王宮魔導士に問いかける。


「どうしましたか王宮魔導士。何か思い出したのですか」

「いえ、私思ったんですけど。

 もしかして消えた王子と南の王女って、どこか別の世界に召喚されてる可能性もあるのではないかなーと」





 ワシの中で、音を立てて何かが砕けた。





「・・・大臣」

「・・・なんですか」

「・・・なあ大臣」

「・・・だめですよ」

「いいではないか大臣!」

「ダメですって王! 実害ある人物だったらどうするんですか!!!」


 ワシはしばらく大臣と言い合っていたが、例の準備を破棄にはしてくれなかった。

 召喚者達が無害な人物たちであることを祈ろう。


 



 *





「結局各国どころか世界樹島にまで召喚者達の全面サポート名乗り出ちゃって。

 どうするんですか王!

 王子の捜索も行わないといけないんですよ!?」

「大丈夫じゃ! その代わりに世界樹島の連中も捜索に協力してくれることになったからの!」

「いつの間にそんな話になってるんですか!」

「さっきじゃ! ついさっきなんじゃ!!!」

「御2人共、そろそろだと神官様方が・・・」


 数日後、召喚者を迎えるために世界樹島の世界樹の麓にきたワシら。

 待っている間に島の権力者たちと最終確認を行った内容を大臣にいうと、何故かものすごく怒られた。

 なんじゃいワシ、がんばったのじゃぞ!

 ワシと大臣が世界樹島で言い争っていると、隣に来た近衛兵隊長が申し訳なさそうに声を掛けてきた。

 うむ、おしゃべりはここまでにするかな。

 王たるもの、威厳を持たねばならぬ。召喚者達に尊敬されるためにも、な。


「・・・王、最初が肝心ですからね。威厳を持って」


 大臣め、それくらいワシも分かっておるわ。


「いくら息子たちと同じ年代の子供が召喚されたからといって、『尊敬されるお父さんになるんじゃー』とかもっての他ですからね?」


 む、なるほど相手の年が分からぬという事は、そういう事もあるという事か。

 つまり、ものすごく低い確率かもしれぬが、消えた次男が召喚される可能性もあるという事。

 もしも・・・もしも息子が召喚されたなら・・・。






 ぼんやりと考えを巡らすワシの目の前で、世界樹がふわりと柔らかな光を宿した。

 そのまま、根元の方に光が収束していく。


 光が強くなり、収まる頃。

 木の根元、少し根が飛び出し小さな広場のようになっている場所に、3人の男達が立っていた。



 ワシは3人を見た瞬間、思った。

『尊敬されるお父さんになるんじゃー』と。





 *





「久しぶりじゃな5人共。不自由はないか?」

「あ、王様!」

「久しぶりやね王様!」

「(2人共挨拶して! )おはようございます、王」

「おはようございます」

『ふぁ~。うぉっ王様おはようございます』


 5人が帰還しそうだという情報を受け、ワシは偶然を装って廊下で鉢合わせる。

 うむ、5人共顔色も悪くないし元気そうだ。

 ニルフが若干眠そうなのが気になるが、夜通しハープか笛の練習をしていたのじゃろう。


 今回も無事に全員帰ってきてくれた。

 ワシは全員を抱きしめたい欲求を全力で押さえてサッと踵を返す。

 おっと、これを聞き忘れていたな。


「そうじゃ、何か食べたいものはあるかの?」

「和食! 和食食べたい! 醤油と刺身と緑茶!!!」

「ちょっと由佳頼み過ぎ!?」


 ワシの問いに、黒蹴の妹のユーカが意気込んで答える。

 ピョンっと跳ねて両手をバタバタさせるその様子を見て、ワシは娘が居る幸せをかみしめた。

 血はつながっておらぬのじゃがな?


 ワシにいくつも頼んだことを黒蹴が注意している。この子も、最初はどこか危なっかしく不安に思ったものだったが、妹と再会してからはどこか心に余裕ができたように感じるの。


「よいのじゃよいのじゃ。いつも皆、遠慮しがちじゃからの。

 ユーカが来てから心置きなく頼みごとをしてくれるようになって嬉しいのじゃ」

「ほらーなぁ? いいって言ってるで王様!」

「もうー」

「きゅるるっきゅ~♪」


 ブツブツいう黒蹴も、どこか嬉しそうに見える。

 心配するな黒蹴。ユーカはおそらく、大臣にワシの妻と子供の事を聞いておるのじゃろう。

 後で甘味でも差し入れるか。黒蹴の胸元で鳴いているプラズマの好きな、精霊石の欠片も忘れないようにしなければな。





「俺は特にないな。この世界で食べる物すべてが新鮮でうまいんだ」


 銀。この子は全てを見透かすような、達観した雰囲気を持っている。

 だが歪んだ環境で育ったのだろう、この世界での「普通の生活」全てに驚き戸惑っているようだった。

 無事になじんでくれているのか、言葉数も多くなってきて一安心じゃな。

 スライムやハーピーを手なずけ、かわいがっているとも聞く。

 何度かハーピーに会ってみたが、優しい良い子じゃった。娘が増えた気分。

 後は・・・まだスライムに会わせてくれぬかな?

 一番大人しく手がかからないためにほとんど目立たないが、こういう子こそ手をかけてやるのも親というものじゃ。






『王様! 俺はー・・・今んとこ何もないです・・・』

「ほっほっほ。ほしいものがあればすぐに言うんじゃぞ」


 ニルフ。ほかの召喚者達とは別の場所からひょっこり現れたこの子は、旅慣れているように見えて一番危なっかしい。

 記憶を持っていないが知識はあると聞いており、以前は旅をしていたようだとの報告を受けていたので、このメンバーの中で一番旅慣れていると思っていたが。

 この子も何かあったんじゃろうな。他人を気遣いながらの旅の経験・知識をほとんど持っておらぬようだった。

 まるで逃げるような旅の方法の知識に、同行させた隊長達が絶句しておった。

 最初、慣れているだろうからと銀とニルフの2人に作らせた野宿の拠点が「国家レベルの逃亡者?」ってレベルの隠ぺい度だったとか。ちなみにニルフはその横で黒蹴にドヤ顔してたと。

 その上ニルフは気づくといない。気ままにどこかに行こうとする(行ってる)。

 素早いうえに無意識に気配を消してるようで、「常にこちらで気を配っていないとフラっと死んでるんじゃないかと思いました。大変でした」とは、ポニーの報告である。

 1度火の世界樹に行ったまま行方不明になった時は、心臓が止まるかと思ったわ。

 そんなこの子も。

 最近では旅の途中、皆とおしゃべりをして歩いているらしい。

 1人ハープを抱えたまま物陰に隠れてぼーっとしたりしてる事も少なくなってきたそうだ。

 若葉という巫女見習いといい関係だとも聞いておる。


「まだ微妙な時期なので、余計なことは絶対に言わないでくださいよ?!」

 親代わりの自覚を持ってニルフにその事を尋ねようとしたら、大臣にくぎを刺されてしもうたわい。


 



「さ、皆そろそろ。王様、普段からお気遣い、ありがとうございます。

 それでは、俺達は失礼させていただきます」


 ピンキーは召喚者の中で一番年上だったからか責任感の塊のような子だ。

 元々黒蹴達と同じ世界から召喚されたと言っておったし、その世界では常識なのかもしれぬが。

 いや、若く見えるがもう20を超えていると言っていたか。

 以前の世界では仕事に付いていたとも言っておったな。

 なんといったか・・・けい・・・忘れたのぅ、後で王宮魔導士にでも確認するか。

 ピンキーと王宮魔導士は仲がいいからの。2人で「目指せ、いせかいはざーど」を合言葉に何かをやらかそうとしていたから即刻止めたが。

 いくら他国の王や神官に召喚者を秘匿にする約束を取り付けていても、本人たちが目立ってしまえば悪人どもが群がってくるからの。

 目立たないようにやるようにと、くぎを刺しておいた。

 ・・・なんか変装して経済界の裏魔王になっているとか聞いた気がするが、ワシは気づいてないもん!

 ピンキーが保護したという元奴隷(という名の生贄)の3人と、知り合いを探すために同行しているという娘にも、しっかりとワシは会って話をしている。

 4人共良い子じゃった。あざ名もしっかり覚えたぞ。やはりピンキー達と違って緊張が取れぬようだったので、すぐに部屋に帰したが。

 ワシの娘になってもいいんじゃぞ?



「それでは、また」

「ばいばーい!」

「お土産、大臣さんに渡しておきましたので!」

「また」

『いってきまーす』



 ワシは5人で楽しそうにしゃべりながら食堂に向かう5人を見送り、自室に戻る道を行く。

「この世界に慣れるまでの、最低限の衣食住だけで良いじゃろう」

 召喚者が来ると聞いたあの日に言った言葉がよみがえる。

 あの時の気持ちはどこへやら、今ではすっかり最上級のもてなしをしてしまっているの。

 若干「食」に偏っている気もしないでもないが。

 たまにあの子達が恐縮しているが、その分の対価は既にもらっておる。

 最近では、消えた次男を探す手伝いもしてくれているらしい。

 ・・・あの子達を中心に、様々な仲間が集まり、楽しそうに冒険をしている。

 ワシはそれを見ているだけで満足なんじゃ。


 さて、さっそくユーカの食べたい「ショーユ」を探さねばな。

 ユーカ達の故郷の話を聞くに西の国沿岸と気候が近いようじゃし、まずはあの辺から探すかの。


 執務室ではベリーが待ち構えていて、ワシの姿を見るなり「キャン!」と鳴いた。

 すり寄るふかふかの白い毛を存分に撫でる。

 最初ここに迷い込んで以来ピンキー達が行商以外に出かけるときには、すっかりワシの部屋に居ついてるの。

 大臣に隠れてこっそり取り寄せた旨いと評判の干し肉をやると、ちぎれんばかりに尻尾を振って嬉しそうに食べ始めた。

 よしよし、もちろんお前もワシの娘じゃよ。

 

 


 *




「だからワシも行くんじゃあぁああ!!!

 あの子達を危険にさらしたくないんじゃああ!」

「だぁあからぁ! あなたが行ったら誰がこの国を治めるんですか!」

「大臣、お前を王に」

「言わせませんよ! 絶対に言ってはいけませんよそれは!」


 ワシは黒蹴達が天海へ、ニルフ達が魔界の入り口へと旅立った後の世界樹の前で大臣ともみ合う。

 ええい、ずべこべ言わず行かせるのじゃ大臣よ!


「ワシは・・・ワシは何をしても皆を見守ると決めたんじゃぁあああ!」

「撤収!!!」


 大臣の一声で近衛兵達に運ばれて城に連れ戻された。

 ええい、大臣め。ワシは諦めぬぞ!!!


「諦めなさい!!!」

次回メモ:誰かの記憶の話



いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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