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第三話 悲痛な現実

 

 

それは夢だったのかはわからない。


でも妙にくっきりした昔の記憶……そんな感じの夢だった。



「ねぇ、ナギくんとトウヤくんにはこわいものってある?」


「こわいもの?そうだなぁ……おばけとかはあんまりとくいじゃねぇかなぁ……」


「そうなの?ナギくんってけっこうおちつてみえるけど、おばけがこわいなんてちょっといがいだねっ!」


まだ小学校低学年くらいだったあの頃、俺達はよく3人一緒に帰っていた。


そして当時はあんま自分から喋る方じゃなかった俺や冬也は大体だんまりで、いつも奏から話始めるのがお決まりだった。


「むっ……じゃあカナデはなにがこわいんだよ?」

 「わたしはねー、やっぱりむしがダメかなー。」


「うーん……まぁ、むしはしかたねぇよなぁ。というか、ほとんどのじょしがダメなんじゃねぇか?」


「んー、そうかもねっ。そんで、トウヤくんはなにがこわいの?」


本当に他愛ない話だったと思う……いつもの下校中と同じ他愛ない話、だからこそ他の色々話した記憶に埋もれてしまい簡単に忘れてしまうような、そんな他愛ない話。


でも、この記憶を今もはっきり覚えていた理由は……この後の冬也が言った言葉のせいだった。



「ぼくは……ふたりとあえなくなるのがこわいよ……」



そんなことを言ってうつむく冬也。

当時のこいつは何て言うか引っ込み思案な感じで、いつも俺や奏の後ろにくっついて歩く……まぁ本当に今とは別人かと思えるほど弱々しかった。


「……トウヤってほんとさみしがりやだよなぁ」


「だ、だって!ぼくはふたりがすきだし、ふたりとあえなくなるのはやっぱりいやだもん!」


「カナデはいいとして、おれまですきっておまえなぁ……」


そんな俺の言葉に涙目になる当時の冬也……今じゃ考えられねぇな、本当に。


「もー、ナギくんはいじわるいわないのっ!トウヤくん、しんぱいしなくてもみんなずっといっしょだよっ!」


「う、うん……」


笑顔でそう言う奏と、そんな言葉に照れて赤くなる冬也。


俺はそんな2人を見ながら、冬也が言った会えなくなるのが怖い……その言葉を反芻する。


それは俺だって結局言葉にはできなかったけど、冬也と似たようなことを思っていたからだ……。


そして今、俺は本当にそんな状況になってるんじゃないか……それが今は何より一番怖かった。




────

───

──




──

───

────




ふと、目が覚める……久しぶりだな、あの時のことを夢に見るのは。


そのおかげなのか、相変わらず視界にうつる遺跡の壁を見てもさほど動揺はしなかった。


(あれからどれぐらい経ったのか……記憶もわりとはっきりしてるし、ここにいるってことは当然だけど夢じゃねぇんだよなぁ……と言うか、ここじゃ時間もわかんねぇや……)


変な寝方をしたせいで若干痛む節々を伸ばしながら起き上がり


(とりあえず遺跡の外でも見に行くか……もう夜が明けてるかもしれねぇし)


そして改めて階段を上り、そのまま遺跡の外へ出て空を見上げると……目に痛いくらいの日光が射し込み、俺は目を細めた。


見ると太陽はすでに真上くらいの辺りまで昇っており、俺がかなりの時間遺跡の中にいたことがわかる。


(ダメだ……何も考える気になれねぇ……)


俺は遺跡の外壁に背中を預けるとそのまま座りこみ……そしてしばらく項垂れたまま黙っていると


『久方ぶりの外だが、余り昔と変わった様子はないな』


 

そんなことをサージュが言った……が、今の俺にはそんな言葉に何か返す気力がなく、そのせいで会話は途切れ気まずい沈黙が辺りを支配した。


特にそれが嫌だったわけでもなかったが、何となく表情すら読み取れない同行者……いや杖なんだが……に話しかけようとする。


正直こいつは黙っていると壊れて話せなくなったんじゃないかと不安にさせる……やっぱり顔のない話し相手ってのはけっこう不便だよなぁ。


「なぁ、1つ聞いても良いか……?」


『我にも聞きたい事は多々あるが、今はナギトの問いに応えよう』


階段で話した時と同じ調子で返してくる……こいつとは出会ってまだ間もないが、今はこう言う変わらないと言う感じが何となく有り難かった。


「……お前ってさ、顔はないとしても目とか鼻みたいな感覚ってあるのか?何かちょいちょい見えてるみたいに言ってた気はするけど」


さっきまで落ち込んでいたのが嘘のようにそんな言葉が口から出た……まぁこれ自体はそこまで気になっていたわけではなかったが、一度口にすると意外なほどすんなり言葉ってのは出てくるもんなんだな。


『前にも言ったが、我は会話をする際に魔力を空気の代わりに使用し会話を成立させている。視覚はこれを応用し、対象の魔力を知覚する事で其処から得られる情報を元に対象の身体情報等を得ていると言う訳だ』


「……えーと、つまり?」


『我に目はないが、それでも君がどう言う姿なのかは感覚的に分かる、つまりはそう言うことだ。周囲も似たように知覚しているが、魔力濃度が薄い場所や魔力を持たない人族等は知覚しにくいと言う欠点もある』


「へー……じゃあやっぱり顔みたいなのはないんだな」


『顔は我の様な魔力装具には機能として不要な部分であり、そもそも杖に顔等があっては不気味なだけだからな。故に我を造りし主も顔は付けなかったのだろう』


「主って……お前を造った人か?」


『うむ、とても尊いお方だ。我以外にも様々な魔力装具を造り上げ、そしてお亡くなりになられた』


「…………へ?」



淡々と話すサージュの言葉を聞いていたら思わぬ言葉にまぬけな声が口からもれる。


『主はとても聡いお方だったが、それ故に敵も多くてな。最期はその敵らに殺されてしまった。』


「……わりぃな、何か変なこと聞いて」


『いや、問題ない。主は人族であった為に元より長命と言う訳では無いからな。敵との事が無かったとしても何時かはその時が訪れていた筈だ』


「まぁ寿命ってもんがあるもんな……」


『そう言う事だ』


「……んでついでに今思ったから続けて聞くけど、その人族ってなんだよ?人間ってことか?」


『そうだな、人間とも言われる種族だ。我が造られた頃にはこの辺りを治めていたのが人族であり、魔族とは対立関係にあった』


「なるほど……そんでマゾク、いや魔族か。その魔族ってのは?」

 

『魔族は生まれながらに魔力を持つ種族だ。他にも魔力を持って生まれる種族はいるが特に自生魔力の量や魔力制御技術に長ける者が多い。まぁ個体差はあるがな。そして一部には好戦的な者もいて他種族からは疎まれている事が多い』


「好戦的か……あんま遭遇したくねぇな」


『そうだな。好戦的な魔族はやはり遭遇した人族を襲う場合が多い。人族である君は気をつけた方が良いだろう』


「……嫌なこと言うなよ」


『今はどうなっているか分からぬが事実だ。仕方あるまい』


「はぁ……と言うかさ。これからどうしたら良いんだろうな、俺」


『まず人族の国か街、村を探すべきだろう。そして、この様な目立つ場所に居続けるのは避けた方が良い。魔族でなくとも人族の盗賊等は同じ人族を襲う』


暗に俺がここに長居してるのを責めてるみたいだが……まぁこれは多分俺の被害妄想だ。


サージュは良くも悪くも空気が読めないだけ……そんな気がする。


「盗賊か……俺とか襲われたら一瞬で身ぐるみ剥がされそうだ」


『それに、運が悪ければ魔物と遭遇する可能性もある。もしそうなった場合、現時点で手持ちの武器が無く魔術も使えないナギトでは退避する事すら難しいだろう』


「マモノって……魔物か。そんなに強いのか?」



『今の君ではまず逃げられないだろう。奴らは此方が丸腰でも一切容赦してくれない。むしろ、盗賊に襲われる方がまだ生き残れる可能性がある分増しだ』


「うぇ……どっちにしろ動かねぇとダメってことかよ……」


『…………』


「……ん?サージュ、どうかしたか?」


『ナギト、不味いぞ。我々は悠長に話し過ぎた』


「へ?」


そんなサージュの言葉と共に、今まで何の気配もなかった遺跡の影や草むらからささっと何かが飛び出してくる。


「!?」


そして俺は咄嗟に遺跡の壁を背に立ち上がるが、その時にはすでに前方は3人の盗賊らしき格好をした奴らに阻まれていた。



そいつらは一様に暗めな色合いの格好をしていて、全員が頭をすっぽりと覆う頭巾のようなもので顔を隠していた。


「まさか……こんな白昼堂々本当に盗賊のお出ましってか……?」


『あぁ、この格好は間違いなく盗賊のそれだな。標準的な装備で実に分かりやすくて良い』


「いや、良くはねぇだろ……」


サージュにだけ聞こえるように小声で話しつつ相手の出方をうかがう。


(……完全に囲まれてんな。逃げ出そうにも、そんな隙すらくれそうにねぇ)


人数はたった3人だったが、そいつらの隙のなさは実戦とかそう言うのをやったことのない俺でも力量の差が感じられるほど隙がなかった。



(蛇に睨まれた蛙って感じだな……しかも蛇3匹とか絶対逃げらんねぇ。もし仮に隙を見てあいつらの間を抜けられたとして、体力なら多少自信はあるがすぐに追いつかれて捕まるだろうな……)


そんなことを考えつつ、何とかじりじりと遺跡の入り口の方に摺り足で横歩きのような感じに移動しようとする……遺跡の階段の下は行き止まりなのはわかっていたし中に入ってどうするかなんて全く考えてなかったが、とりあえず現状的に今のままは不味いと思っての行動だった……しかし


『!!ナギト、後ろだ!』


「!!」


俺だけにしか聞こえないサージュの声に反応して咄嗟に振り向くが、その時すでに遅し……まるでスタンガンを押し当てられたかのようにびりっときたかと思うと、俺の意識は暗転していた。


そして、暗転する直前に何とか見えたのは他3人と大体同じ格好をした奴がそこに立っている光景だった──────



 

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