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第二話 遺跡の中の謎の声

 

 

「…………」


妙に響く自分の足音を聴きながら、ただひたすら階段を降りていく。


遺跡の中はそんなに複雑なものではなかった……まず入ってすぐの場所は広間のようになっていて、その奥には祭壇のようなもの。


そして祭壇の奥に隠れるようにして存在していたのが、この下へと降る階段だった。


(……この階段、どこまで続いてんのかね……)


そんなことを思いながら進んでいく……。


(と言うか、何か完全な暗闇じゃないんだよな、ここ……薄暗いと言うか、足元はしっかり見えるしよ)


最初の広間なら月明かりが入ってくるのもわかるのだが、階段の左右や天井に明かりらしきものがないにも関わらず何故か足元は見える程度の光源はある……何とも不思議な感じだった。


(まぁ、真っ暗過ぎて歩けないよりはマシだがよ……最初に聞こえた声らしき音といい、ちょっと不気味だよな……ここ)


少し身震いする。


人からはわりと落ち着きがあるように見られるせいか良く意外と言われたのだが、俺は幽霊とかそう言う怪談話的なのがあまり得意な方ではない。


なら何でこんなとこに入ってきたんだと思うかもしれないが、夜や暗いだけの場所なら実はどうと言うことはなかったりする。



俺が苦手なのは説明できないような不思議や不気味な出来事とかであり、今まさに降りている階段がそんな感じだった。


(それに今考えると、声らしき音がしたからってこうして遺跡に入ってまで確かめに行くほどでもない気がするんだよなー……せめて朝まで最初の広間で待ってたって良かったわけだし)


少し立ち止まって考える……このまま降りるべきか、一旦広間まで戻って朝まで待つべきかと。


そして、唸りながら考えていると


          「……─────」


(……また、聴こえた……のか?)


不思議な声だった。


今ならはっきり声だとわかる……しかし、この階段のような場所なら反響しそうなものなのに、その声は一切反響した感じがしない。


(でも、不思議と不気味さはないな……)


そして再び歩き続ける。


(とりあえず声はまた聴こえたんだ。ちょっと気は引けるけど、とりあえず見てみるだけは見てみよう……考えるのはそれからだ)


そう思いながら、俺は階段を降り続けた。




──────





そしてようやく階段を降りきり、長い階段だな……と思いつつ辺りを見回す。


(部屋の広さ的には最初の広間ほどの広さはあるか?……いや、少し狭い感じもするな……ん?)


すると前方に箱のようなものがある。



(何だあの箱……まさか宝箱か?)


形は立方体で蓋らしきものが被さりそれほど大きくはない……色は遺跡自体に合わせたのか非常に地味だ。


(……せっかく降りてきたんだし、開けるか……?)


などと考えながら箱に近づいていき……ほどなくして箱の前に立つ。


ごくりと生唾を呑み込みつつ蓋らしきものに手をかけ少し上にずらしそのまま奥にスライドさせる。


そのまま中を覗きこむと


(何だこりゃ……加工された木の枝?いや杖か?)


中にはクッションが敷き詰められており、その中に杖?のようなものが安置してある……だけだった。


「拍子抜けだな……この杖っぽいのも何か安っぽいし」



『安っぽいとは心外だな』


「うわっ!?」


突然聴こえた男とも女ともつかない声に驚き、思わず杖らしきものを落としてしまう。


(な、何だ今の……?いきなりめちゃくちゃ至近距離から声が聞こえなかったか?)


辺りを見回すが当然俺以外の人間がいるようには見えない……と言うかいるはずがない。


不思議に思いつつも再び杖らしき物を拾うと


『全く酷いではないか。流石に落とした程度で壊れる程、我は脆くもない。そして痛覚もないが、落とされるのは余り気分の良い物ではないな』


一気にまくし立てるように声が発せられる……さすがに二度目は落とさなかった。


「あー……と、この杖が喋ってん、のか……?」



とりあえず手に持った杖らしきものを調べてみる……スピーカーとかがあるようには見えないし、そもそもそう言う機械が入りそうにないくらい細めの杖……らしきものだ、調べてみてもどう喋ったのかよくわからなかった。


『何を不思議そうにしている?杖が言葉を発するのがそんなに不思議か?』


「えっ、あっ、いや、何て言うかどんな仕掛けなのかねー、って思ったもんで……つい」


『調べるのは自由だが、恐らく君には解らないと思うぞ?見た所、君の風体はまだまだ若そうだ。残念だが、我の構造は君の様な若人に解る程単純ではないのてな』


「さ、さいですか……」



思わず敬語になってしまう……何かむやみやたらに偉そうな杖だ。



それにしても、どうするか……その杖をじーっと見ながら考える。


一応目的は果たしたわけだが、その結果手にあるのは偉そうな喋る杖……うーん、意志疎通はできてるわけだし、とりあえずこいつに聞くだけ聞いてみるか……?


「……ちょっと聞きたいことがあるんだが……聞いても良いか?」


『ふむ、質疑の内容にも寄るがこうして折角出逢ったのだ。我に応えられる事であれば何でも応えよう』


「そ、そうか……じゃあ聞くけど、ここがどこだかわかるか?」


『此処が何処か?随分不思議な事を聞くのだな。此処は我が安置されし神殿。名を……名を……』



「名を?」


『………………』


「どうした?」



黙ってしまった杖に少し焦る……まさかいきなり故障したとか言わないよな?


「本当にどうしたんだよ!?おい!」


そうして杖を揺さぶってみると


『……済まぬ。どうやら我の記憶部位に少々欠損がある様だ。その質疑には応えられない』


「あ、あぁ……わかった」


何か声色は変わらないのに少し落胆した感じが伝わってくるのが何とも人間臭さがある……杖なのにな。


「と、とりあえずここが神殿ってのはわかったが、この辺は何て言うんだ?この神殿の外にはだだっ広い草原と巨大な山があったけど」



『ううむ……重ねて済まぬのだが、記憶部位の欠損は我の思った以上に酷い様だ。その質疑にも応えられない……』



「な、何か悪いな……」


『我の方こそ本当に済まない……』


「い、いや、誰にだってそう言うことはあるだろうし、あんま気を落とすなよ?なっ」


『あぁ、その言葉だけでも有難い。……君は良い奴、と言う類いの人族なのだろうな』


「……何か冷静にそう言うこと言われると、微妙に照れ臭いな……」


(本当に杖のわりには人間臭いよな……こいつ。)


などと言いつつ、その喋る不思議な杖についてそんなこと考えていた。



─────




『それで君は何故此処に?此処が現在も人族の領地かどうか分からないが君が此処に居ると言う事はやはり人族の領地のままなのだろうか?』


「そんな一気に言われてもなー……と言うか、俺もわかんねぇんだよ。気づいたら見たことのない草原に立ってて、ここも偶然見つけたから入ってみただけだしよ」


『む、そうなのか?では我も君も分からない事だらけと言うわけだな。』


笑い声はしないが何と言うか言葉使いほど固い奴でもないのかもしれないな……と、階段を上りながらこいつと会話している。


情報交換みたいなもんだな。


「……そういやお互いにまだ名前とか言ってなかったよな。俺は岐野凪都。お前は何て言うんだ?」


『キノ、ナギト……何やら変わった響きの名前だな。それでは我は何と呼べば良い?』


「呼び方なんざ適当で良いが……名前の方が呼ばれ慣れてるから凪都で良いぜ」


『む、そちらが名なのか?ではナギト、我はサージュ。これからも宜しく頼む』


「サージュ……何か響きが女っぽいな。……と言うか何だよ、よろしく頼むって?」


『これからも我と行動を共にして欲しいと言う事だ。何か不都合でもあるのか?』


「いや、不都合はねぇけど……あっそうか、サージュお前って自力じゃ動けねぇってことだろ?」


『うむ、そう言うことだ。我は言語機能や自律思考機能、その他様々な機能を持つが、我が身は杖であり元より自力で動く機能は持ち合わせていない。故に誰かに所持されねば動けぬ身と言う事だ』


「だよなー……でも旅は道連れって言うし、お喋り相手にもなりそうだからこっちからも改めてよろしく頼む。……まぁ旅じゃねぇけどな」


『うむ、ナギトが良い奴で有難いぞ』


こう言う感じに会話しつつ階段を上っていく……話相手ができたおかげで行きよりは幾分か気が楽になったように思う。



そうして階段を上っていると


『そう言えば、2つだけナギトに言っておく事がある』


「ん?何だよ、言っておくことって?」


『1つ目は我との会話機能についてだ』


「会話機能って……今こうして話してることだろ?それがどうした?」


『まず基本的な事として、我に触れていなければ会話自体が出来ないと言う事を覚えておいて欲しい』


「へ?触ってないとダメなのか?」


『そうだ。我は元々声を音として発している訳ではない為、そう言った普通の会話は出来ぬのだ』


「……つまり、触れてないと声を伝えられないってことか……?」


『原理は少々違うが、その解釈で間違いではない』


「マジか……ってことは、お前を落としたりしたら声を頼りにして探せないってことだな……」


『そうなった場合、此方はナギトの声を拾う事は出来るが反応する事が難しい』


「難しいってことは、できなくはないのか?」


『うむ。では聞くが、君が此処に入る事にしたのは何故だ?』


「何故ってそりゃあ……あっ!そうか、多少なら声出せるってことか?」


『あぁ、そうだ。但し、余り遠くには飛ばせない上にかなり限定的な状況でなければ使用出来ぬがな』


「限定的な状況?」


『ある程度の魔力濃度が必要になる。我の声は空気ではなく魔力を響かせる事で発しているからな』


「な、なるほど……」


(と言うか今、マリョクとか言わなかったか……?マリョクって……魔力か?そんなもん現実にあるわけ……)


『どうしたナギト?考え事か?』


「あっ、いや、何でもねぇよ」


『そうか。ではさっきの続きだが、2つ目はナギト、お前が魔術を使用する際の補助機能についてだ』


「マ、マジュツ?って何だ……?」


『む、魔術を知らぬのか?確かに人族ならばおかしくはない。しかし、我はお前に自生魔力の反応を感知しているのだが』


「はぁ?ジセイマリョク?いやいや、俺はマリョク……と言うか魔力か。そんなもん持ってねぇよ。」


『ない、と言う事は無かろう。でなければ、我と話す事すらままならぬ筈だ。我はナギトの魔力を介して話しているのだからな』


「で、でもよ!俺は生まれて十数年生きてきたけど、魔力なんて知らねぇぞ?……そもそも、マジュツ……いや魔術か。そんなもん現代の日本に存在してるわけねぇし!」


『ニホン?聞いた事の無い名前だが、それがナギトの母国か?』


「そ、そうだ!ここだって日本だろ?現にお前とも言葉が通じてるじゃねぇか!」


『言葉が通じる事に関しては何の不思議も無い筈だが……今は言語も多種多様になっているのか?』


「あ、あぁ!今俺達が話してるのだって日本語だし、他には英語とかイタリア語とかフランス語とか、あるだろ!全世界まで考えたらもっと沢山!」


『……いや、少なくともイタリア語やフランス語なる名称の言語を我は知らぬし、ナギトや我が話すこの言語は今も名称が変わっていなければ、確か女神語やアイリス語等と呼ばれていた筈だ。更に言えば、此れ以外の言語は魔神語ぐらいしか無い筈だが』


「えっ……?」


(な、何だそれ?いや、おかしいだろ?何で日本語がメガミゴとかアイリスゴみたいなワケわかんない名前になってんだよ?ドッキリって奴か?……いやいや、一体誰が俺に対してこんな手の込んだドッキリするってんだ……いや、でも、でも、でもッ!)


『ナギト?どうしたナギト?大丈夫か?』


「だ、大丈夫かだって!?大丈夫なわけねぇだろッ!!!」


『!!』


「魔力とか魔術とかメガミゴとかアイリスゴとかマジンゴとか、そんなの聞いたらここがどう言う場所かくらいは嫌でも想像がつくッ!でも、でも、そんなのあり得ねぇだろ……こんなのまるでファンタジーの世界じゃねぇか……」


『ファン、タジー?』


「くそ、くそ!くそッ!」


そうして俺は今まで立ち止まっていた階段に腰を下ろし壁に寄りかかり、一度拳を壁に打ち付ける。


そして体育座りの状態から頭を埋め項垂れた。


……もう、しばらく動きたくはなかった。


……この薄く光のある階段を降りていた時からもしかしたらとは思っていた。


……そんな自分の考えを否定しながら降りた先には、現実的にあり得ないような喋る杖があった。


……そして俺の考えを裏付けるようなことを言って、俺はなるべくそれを考えないようにした。



……もう帰れないんじゃないか、もう奏や冬也には二度と会えないんじゃないか、もう両親にも二度と会えないんじゃないか───……考えなかったわけじゃない、でもそんなことあり得ねぇだろと心の奥底で否定したい自分がいた。


しかし今はそんな思考が頭の中を蹂躙しながら蠢き回り、腹の辺りに重い重い石を残しながら俺の考えを否定し続けた……馬鹿な奴だと嘲り笑うように───────




 

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