第一話 アイザックと黒剣騎士団
ザントリーフ戦役直後でアキバに戻ってからの話になります。結構重い話になるので苦手な人は避けた方がいいと思います。
ザントリーフ包囲網から外れ、散り散りに近隣の集落を襲って行く緑小鬼達を討伐し、集落を守る為に尽力した冒険者達。
だが、緑小鬼の呪術師の魔法の余波が近くに居た大地人の女の子を巻き込みその命を散らした。
盾を構え、皆の為にステディブルワークを発動したのだが逃げ遅れた大地人を庇うのが遅れたのだ。悔やんでも悔やみ切れないが、緑小鬼達の進撃は止まらない。泣きたい気持ちを抑えて戦う。集落の被害は最小限に留めたが、建物や大地人に犠牲が出たのだ……
「村の壊滅を防いでくれて、ありがとう。命あれば、建物は直せる。逃げ遅れてしまった者は運がなかったんじゃ。貴方達が気に病む必要はない」
と悲しそうにお礼を言う村長の顔は忘れられない……
守れなかった……
力が足りなかったのか?力があれば守れたのか?
強くなりたい……
強くなれば助けられたのか?
僕はどうしたらいいんだ……
どうしたら良かったのか?
思考の迷宮に迷い込んだ彼は自己嫌悪で沈み込んでいた。
黒剣騎士団の食堂でアイザックは元気のない狼牙族の幼い守護戦士に声をかける。
「どうした?坊主。元気のないな」
「アイザックおじさん、おはようございます」
「おじさん言うな!!何があったか言ってみろよ」
アイザックは落ち込んでる彼の頭を撫でながら顔を見る。
「ちゃんと名前で呼んでくれたら考えるよ。アイザックおじさん」
ぷいと顔を背けて、ぶっきら棒な声で返答する彼に対して、苦笑しながら彼の母親の事を聞いてみる。
「だから、おじさん言うなって、reiどうしたんだ?キリーの奴ピリピリしてD.D.Dに行きやがったが、関係あんのか?」
「お母さんがD.D.Dに?僕には分からいないよ」
キョトンとした表情のreiにアイザックは苦笑しながら頭を乱暴に撫でる。
「お前、ザントリーフの遠征から戻ってから元気ねーが、何があったか言ってみろよ」
reiはザントリーフでの戦いには物資搬入や哨戒、情報収集班として同行していたと聞いているアイザックにはどうして落ち込んでいるのか分からなかったが、何かを悔やんでる様子に放っておく事が出来なかった。
「大地人の女の子を死なせてしまった……。緑小鬼達から守れなかった」
「あん?ちょっと待て。お前、哨戒、情報収集班で戦闘に参加する予定無いはずだろ?」
あまりな理由に焦るアイザック。子供を戦場に出すとは思っていなかったのだ。口には出さなかったが、キリーが怒ってD.D.Dに行ったのがよく分かった。
「どうして僕が防衛班になったのかは分からないけど、PT組んで村を守る為に戦ったけど……」
ポツポツと話しだすreiの言葉をアイザックは黙って聞いていた。
「あ〜なるほどな。位置取りとかいろいろミスてんな。こればかりは教えて身に付くもんじゃねーしな」
珍しくアイザックが言葉で説明しようとするが上手い表現が見つからず呻る。
「あ~、おめぇのスタイルは仲間のヘイトを管理し行動を支援する方に特化してっから、カバーや攻撃が不得手なのは分かるんだが、俺たち守護戦士は仲間を守り、自分たちに有利な戦場を作っていくもんだと俺は思う。だから、仲間の事だけでなく周囲を見て判断して指揮することも必要なんだ。俺はその辺仲間に任せちまってるから説明できないがクラスティの野郎にでも聞いてみな」
reiはアイザックの説明を黙って聞いているが、自分の中の焦燥感をどう表現して良いのか分からず、目から涙が溢れそうになっていた。
「ミロードなら、僕のミスを指摘していろいろ教えてくれるだろうけど・・・・・・。僕が弱かったから守れなかったの?強かったら守れた?」
堪えきれず吐き出した想いにアイザックはニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、reiの頭を乱暴に撫でる。
「もう、坊主とは言えねーな。もう少しで一人前の男だからな。お前の問には誰も答えられない。お前自身が見付けるもんだからな」
とドンとreiの背中に叩く。
「うわっ、痛いよ。アイザックおじさん」
背中を叩かれて涙が溢れ流れるが、弱音を吐いた時に泣きそうになったのを誤魔化してくれているのを感じ感謝するが、本気で痛かったので反撃に『おじさん』と言ってやる。
「おじさん言うなって。お前がもう少し歳いってたら酒でも飲ませるんだが、流石にキリーに怒られるどころじゃ済まないだろうしな」
「アイザック君にも良識と言うものが一応あったんですね」
厨房の奥からジョッキに琥珀色の炭酸水入れて持って来たレザリックに
「おいっ、レザリック。君付けすんじゃねーって何度言ったらいいんだよ。おっ、ビールとは気が利くじゃねーか」
ひったくる様にジョッキを奪い、中身を飲むアイザック。
「おいっ、レザリック。これジンジャーエールじゃねーか」
「勝手に飲んで文句言いますか?昼間からアルコールなんて飲ませませんよ。これから書類仕事してもらうんですから。rei君もどうぞ」
とジョッキを差し出す。
「ありがとう」
素直に礼を言って飲み始めるけど、
「んっ、これ苦いよ」
少し渋面してレザリックを見る。
「これが大人の味ですよ。まだ少し早かったですかね?アイザック君の言うとおり、答えはrei君にしか見つけられません。焦らずゆっくり探してください」
にこにこと微笑むレザリックに母親に似た母性を感じるのは気の所為なのかな?と思ってしまったreiはジョッキの中身を少しずつ飲んだ。
「rei君今日はD.D.Dに帰って来てくださいと伝言を高山さんから預かってますよ。後、キリーさんとリーザさんが怒り狂って担当者相手に暴れそうなので早めに」
「レザリック、お前それ急いでないし、あいつを止める気ないだろ」
「ええ、戦場に年端も行かない子供を送り込んだのですから叱られて当然でしょう」
「お前も怒っていたんだな……。reiそれ飲んだら行ってやれ。あいつが黒剣騎士団以外のギルドで暴れたら外聞悪いしな」
確実に自分の事を棚に上げているアイザックの言い様にクスッと笑い、ジョッキの中身を一気に飲み干す。
「やっぱり苦い……」
守る為に力が欲しい。守る為に強くなりたい。レベルだけ上がっても意味はないのは分かった。ゆっくり探してとは言われても、気持ちは早くと渇望する……
今はとりあえずD.D.Dに戻ろう。皆に話しを聞いて考えてみるのも良いかもしれない。
「ごちそうさまでした」
礼を言って駆けていくreiを見送る黒剣騎士団のギルドメンバー達。
「rei君は何が食べたい?無事に帰って来た祝いに好きなもん作ってやるよ〜」
落ち込んでるreiに声はかけられなかったが、気になって様子を伺っていた料理人はせめて美味しいものを作ってあげようと声をかける。
「じゃあ、ビーフシチューが食べたい」
無邪気な笑顔で大好物をリクエストする。
「それじゃ、ミノタウロスでも狩りに行くぞ〜」
自分達と同じ挫折を感じ、強くなりたいと渇望する姿に奮起させられた黒剣騎士団の団員達は彼の要望を叶える為に狩りに出掛けた。
「reiのレベルが85になったら黒剣騎士団に欲しいな」
「本人次第ですよ。さて、アイザック君は仕事してくださいね」
「君付けすんじゃねーって」
追い立てるレザリックとしぶしぶ行くアイザックは執務室に入って行った。
駆けていくreiには暗く落ち込んでる雰囲気は減っていた。まだ、迷いや後悔はあるけど、落ち込んでいたって死んだ大地人が生き返るわけじゃない。だから、今度は守りたい。その為の力を強さを手に入れたいと願い、D.D.Dのギルドキャッスルに駆けていくのだった。
次はD.D.Dでクラスティとの話になります。
reiは自分の強さと力を求めて、いろんな人に聞いて行きます。