4.執事の話
しばらく呆然としていた執事であったが、我に返ると慌てて口を開いた。
「申し訳ございません伯爵。しかし、記憶喪失となると一から当伯爵家の現状を説明しなければなりますまい」
うん、良いぞ。一から説明してくれ。
「端的に申し上げますと、当伯爵家は危機的状況にあります。
先の皇位継承を巡る争いで当家は現皇帝のお兄様を支持いたしましたが敗れ、現在はその弟に当たる現皇帝が皇位に就いております。
その際、反対勢力に回った多くの貴族たちが取り潰されましたが、幸いにも当家はその規模の大きさと食糧供給を一手に担う立場から取り潰しを免れました。
が、もし伯爵が記憶喪失であることが露見し、職務を遂行できない状況にあると判断されますと・・・」
「取り潰し、もしくはそれに準ずる事態に陥りかねないということか」
「はい、その通りでございます。つまり、伯爵は失った記憶を穴埋めしつつそれが露見しないようにしなければならないという事です」
「なるほど、状況は理解した。それでは当家の領地とその経営状況について聞こうか」
「はい、領地の面積は約20,000平方キロメートル。
これは我が帝国の領土の約6%ほどに当たり、国内で6番目の広さを誇っています。
主要産業は農業、製鉄。鉄鉱石は領内で産しますが、石炭はルール地方を治めるラインメタル男爵家より輸入しております。
領地の広大さとも相まってかなりの額の歳入を上げております」
「つまり、当家は大幅な黒字経営で財政的には問題ないということだな?」
「いえ、そうではありません。
莫大な歳入を誇る当家は皇帝に目を付けられ利益のほとんどを国と現皇帝派貴族に吸い上げられております。
当家は隣国であり仮想敵国でもあるセリン共和国と国境を接する最前線であり多くの軍事力が必要不可欠です。
が、先の政紛の際に取り潰しを免れる代わりとして当家は軍事力の要である騎士団の保持を禁じられました。
故に軍事力を他の貴族や国に頼る他はなく、その基地の土地代や部隊の駐屯費用などを全て払わされております。
この駐留予算によって当家の財政は圧迫され厳しい運営を強いられております」
「なるほど・・・。で、保持を禁止されているのは騎士団だけなのだな?
輜重部隊や例えば平民から構成されるような軍の保持は問題ないのだな?」
「その通りではございますが平民が剣を持つことは禁じられております。
剣を持たない軍など何の役にも立たないのではありませんか。
火縄銃など全く役に立ちませんし、弓などもってのほかですよ?」
「剣を使わなければ良いのだろう、剣を。
なに、なんとかしてみせるさ。
五年以内に騎士団にお引き取り願えるだけの軍事力を整えてみせるさ」
そういって俺は執事に不敵に笑って見せた。
伯爵家の未来を賭けた改革が今、始まる。
...だってお金がないと贅沢や趣味を満喫できないじゃん。
よ、ようやく内政編に入れる・・・
ご愛読ありがとうございます。




