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平行世界で国づくり  作者: 高槻 智和
第二章:現代知識は偉大なり
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17.帝国議会

1686年1月4日


年が明けた。

転生してきたのは去年の3月だったから、早くも10ヶ月が経過したことになる。

この10ヶ月間、貴族として必要なことを必死で覚えながら時間の掛かるものから改革を進めてきたが、果たして残り4年でワルター騎士団にお引き取りいただき、駐屯費用を浮かせられるかは難しいところである。

別に残り4年という時間に特に拘っているというわけでもなく、ただ単に執事相手に大見得切った手前、破るのは格好悪いというだけなんだけどね。


帝都へと向かう馬車に揺られながら、俺はそのようなことを考えていた。



帝国では毎年1月に国内の貴族を集めた帝国議会が開かれる。

議会に参加することは、一部の下級貴族を除いて義務とされており、不参加は反逆と見なされて粛清の対象となりかねない。

というわけで、仕方なく議会に出席するべく帝都へ移動している最中なのである。

議会といってもここは中世ヨーロッパ。

日本で某弁護士市長が主張する地方分権がオモチャに思えるような政治体制である。

領地の運営は余程の事がない限りは国の干渉を受けないし、領主に裁量が委ねられている。

皇室は上納金を受け取って、日々優雅に過ごしながら直属の軍事力を以てして、国内貴族への睨みを利かせているだけである。

そんな状況で開かれる議会に何の意味があるのか、と思われるかもしれない。

実際、初めて聞いたときは俺も驚いたしね。


帝国議会__。

そこは皇室への上納金の負担を押しつけ合うという、醜聞極まりない場であった。


1686年1月7日

帝都にある伯爵家所有の屋敷で長旅の疲れを癒した俺は遂に戦場(議会)へと向かう。

いかに馬鹿馬鹿しいと思っても、出席は義務である上に余計な負担を押しつけられては堪らない。

議場へと向かう馬車から見える帝都の人々の顔はどこか暗く、疲れた顔をしている。

現皇帝の統治になってから皇室の浪費癖は更に酷くなり、その影響は帝都をはじめとした皇室直轄領に住む平民達に色濃く表れていた。


そんな光景を後目にやがて、馬車は議事堂に到着する。

威風堂々とした構えの議事堂に入り、重厚な造りの扉を開け放つと、そこはまるで動物園のサル山のようであった。

有力貴族の憶えを良くしようと、その配下はボスを崇めるかのように取り囲み、対抗勢力へとヤジを飛ばす。

どのグループも互いに罵声を浴びせ、唾を飛ばし合う。

非常に不愉快だ。

こんなところに足を踏み入れたくもないが、仕方なく足を一歩踏み出すと、途端に場内は静まり返りあちこちから勝ち誇ったような視線が送られてきた。

少数派で負け組である貴族に対する態度に関してはどのグループも同じであるらしい、と少々の感慨を覚えながら自席へと向かおうとすると、脂っぽそうな太った男(デブ)がかったるそうに俺の目の前に立ちふさがった。


「これはこれは、最近はお金がなくて借金までしていると噂のメラーラ伯爵ではありませんか。

なかなか来られないので、遂に帝都までの旅費すら出せなくなったのかと皆で心配していたところなのですよ。」

その言葉にあわせて、配下もニタニタと嫌らしい笑みを浮かべる。

無視して通り過ぎようとするが、通路をブロックされていて進むことも退くこともできない。

「にしても、帝都に来られているのなら、私のところまで挨拶に来るべきではないですかねぇ・・・。なにしろ、あなたの領地が平和に過ごせているのは私の騎士団のお陰なのですからねぇ・・・。」

と恩着せがましく言ってくる。

こんな奴を相手にする時間は無駄だ、と判断してさっさと話を切り上げさせることにする。

「これはこれはワルター侯爵。申し訳ないが、私は急いでいるので道を開けては貰えませんか?」

「それはそうでしたか。おい、お前たち道を開けろ!」

侯爵の指示に一瞬で道が開く。

すかさず通り抜けようとするが、後ろからねちっこい声が追いかけてきた。

「そういえば、最近国境付近がきな臭いとのことで騎士団の増派をすることにしました。

つきましては、駐屯費用を値上げさせていただくのでどうぞよろしく。」

文句を言ってやろうと足を止めそうになるが、ぐっと堪えてこの場から抜け出すことを優先する。

こうして、後ろから聞こえるあざ笑い声を背景になんとかこの場から離脱をしたのであった。



なんとか自席にたどり着くと、そこには旧知の仲であるラインメタル男爵が暗い表情で立っていた。

まあ、旧知の仲とは言っても転生後に会うのは初めてなんだけどね。

「やあ、オットー。久しぶりだね。」

「こちらこそ、ゲオルグ。どうしたんだい、そんな不景気な顔をして?」

「そっちこそどうしてそんなに明るく振る舞えているのか不思議だよ。

只でさえ借金で首が回らないのに、今年も上納金を押しつけられている事は目に見えている。

いったい、何があったんだい?」

「いやー、実は色々と儲け話を思いついたものでね・・・。

それで君に頼みがあるのだが・・・。

君の領地には巨大な炭田があっただろう?

ほら、ルール炭田だよ。

それを是非とも大規模に開発してウチに売って欲しいんだよ。」

「売る分については構わないが、残念ながら開発資金が手元に全くないんだ・・・。

借金の利息の支払いだけで手一杯で、とてもじゃないが新たな予算を捻出する余裕がないんだ。」

「そちらの問題は資金面だけなんだな?」

「そこら中から石炭が出てくるし、人手も有り余っているほどだから問題ないよ。

にしても、そんなに大量の石炭をいったいどうするつもりなんだい?」

「実は新しく製鉄所を建てようと思っていてね・・・。

それも今までとは比べものにならないぐらい大規模で高度なものだ。

開発資金が足りないならウチが出そう。

何としても大量の石炭が必要なんだ。」

「そこまで言うのならわかった。資金は確実に不足するからできるだけ早く貸してもらうとして、それまでに採掘の準備を進めておくよ。」

「どうもありがとう、親友よ。」

「気にするなって。困ったときはお互い様だろ。」

と堅く握手を交わしたところで議会の開幕を告げる鐘の音が鳴り響いた。

ざわざわとした雰囲気も一応は収まったかのように見え、議会が開かれた。



その後のことは言うまでも無いだろう。

年々増加する上納金は案の定、少数派である負け組に押しつけられ、メラーラ家の財政は更に厳しさを増すことになったのである。

が、今回の議会で得たものは悲観材料だけではない。

時には美味い話であるかのように言い、また時には挑発して貴族のプライドを刺激したり、といった技を使いながら長々と(それこそ大多数が飽き飽きするほどの)演説を行ったことで、国に特許制度を創ることを認めさせたのである。

特許を取得するということは国への情報の流出を意味するから、あらゆる現代知識を登録できるわけではないが、民間向けのものを登録するだけで後々にはかなりの額が転がり込んでくるだろう。

そうほくそ笑む俺の手には、本来であればこの世界には未だ存在しなかったはずの真っ白に漂白された紙が握られていた。

また投稿間隔が開いてしまいました。

申し訳ありません。

来年の2月ぐらいまでしばらく忙しいと思われますので同様の更新頻度になることが予測されます。

打ち切りにだけはしないように頑張りますので、どうぞゆるーく見守って頂ければ・・・。

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