16.発電所と製紙工場
1685年11月1日
公債を発行して力織機と紡績機の開発を被服職人に依頼してしばらく経った。
この被服職人もやはりメラーラ市内に住んでいるもので名はベンベルグという40代ほどの職人だ。
そして、今日は記念すべき発電所の運転開始日である。
工事開始から6ヶ月。
同時に着工した製鉄所をほぼ放置するような突貫工事のお陰で早くも稼働に漕ぎ着けることができた。
これも人件費が安いこの時代だから出来たことである。
製鉄所も来年の夏ごろには何とか稼働出来そうであり、鉄道建設も来年中の建設再開が見えてきた。
この発電所は交流同期発電機を蒸気タービンを使って回転させることで出力15000kWを予定している。
発電した電気は60Hz、三相交流1500Vで送電されて主に工場内で使われる予定だ。
送電電圧が低いのは電力消費地がごく近隣にあること、そして高電圧を扱えるほどの技術がまだ無いからだ。
送られてきた電気は電解槽に流され、食塩水を水酸化ナトリウムと塩素、水素に電気分解するのに使われる。
この電解ソーダ法の隔膜には現代ではイオン交換樹脂が使われているが、そのようなものはこの世界には存在しないので取り扱いに注意をした上で石綿が使われている。
こうして作り出された水酸化ナトリウムと塩素は製紙工場に運び込まれ、紙をつくるのに使われるというわけだ。
紙をつくるにはパルプが必要だが、パルプの製法にはクラフト法というものを採用する。
これは単純に説明すると水酸化ナトリウム水溶液に木材チップを投入して煮詰める方法だ。
木材を水酸化ナトリウム水溶液中で煮込むと、その繊維質であるリグニンという物質が水溶液に溶け出す。
この手順で木材はセルロースで構成されたパルプと不要物であるリグニンを含んだ黒液に分けられる。
黒液にはリグニンと水酸化ナトリウムが含まれているので、水分を蒸発させてからボイラーで燃やす。
この廃熱で工場内で必要な熱を賄うわけだ。
リグニンは有機物なのでボイラーで燃やされて二酸化炭素となるが、水酸化ナトリウムは無機物であり燃えない。
そこで燃え残った水酸化ナトリウムは回収され再利用される。
実を言うと水酸化ナトリウムや硫酸、硝酸などから始まる化学工業も興したいところなのだが予算の都合で今回は見送った。
午前10時
ボイラーでは既に石炭焚によって加熱され、蒸気を生み出す準備が整っていた。
そして遂にタービンへ蒸気を送る弁が開かれ重々しい音と共にゆっくりとタービンが回転を始めた。
タービンがその回転数を増す途中で一時、固有振動数と一致して共振したときにはヒヤリとしたが、その振動も回転数が更に上がるにつれて収まった。
送られてくる蒸気は現代に比べると低温低圧であるため、このタービンの回転数はかなり低く設定されている。
回転数がその定格の値に達したところで蒸気が少し絞られて定格回転数を維持するようにされた。
発電開始時には電力を消費している先がないこともあって負荷は軽く、安定して回転している。
発電成功である。
こうして領内初のインフラ整備事業の結果として電力が供給され始めたのであった。
...もっとも、まだ使い道は多くないのだが。
(そういえば、電球まだつくってなかったな・・・)
サボり癖って一旦つくと大変ですよねー。
はい、投稿が遅れて申し訳ありません。
えっ、話が短すぎるって?
いや、勢いで初めてみたは良いものの、最近次の展開が思い浮かばなかったり。。
あと、別な話が書いてみたくなってちょこっと新作書いてみたり。
というわけで新作「僕は航空管制官」投稿いたしました。
こっちよりかは設定に無理も無いはずですので良ければどうぞ。
こんな作者ですみません。
いつもご愛読ありがとうございます。
活動報告もたまに書いてたりするかも?