14.産業革命の始まり
第一章の最後に設定資料を投稿致しました。
1685年5月23日
蒸気機関の開発を依頼したワッフェ鉄工所から早くも試作品が出来たとの連絡が入ったので試運転を見学しに行くことにする。
鉄工所に到着すると工場の建屋内にかなり大掛かりな機械が設置されており、職人たちが集まっていた。
「伯爵!あのお話を聞いてから居ても経っても居られず、早速試作品を造らせていただきました!
どうです、うちの職人の汗と技術の結晶ですよ。」
とにこやかにワッフェが言う。
「これだけ短い期間で形にするとは心底驚いたよ。
それにしても、これでは些か大きすぎないかね?」
「はぁ、これは試作1号機ですので伯爵から聞いたお話を元に設計図を書きながら製造したものですから・・・。
2号機以降も製造されるのであればこれよりもかなりの小型化と効率化が可能であると思います。」
「それは素晴らしい。では、済まないが動かしてみせて貰えるかね?」
「畏まりました、伯爵。
おい、ベント開け。」
職人の方に向けてそう合図を出し、弁を開放すると間もなくピストンが動き始めた。
送られる蒸気の量が増えるにつれて重々しかったピストンの動きがどんどん速くなる。
開発は成功だ。
この蒸気機関の開発によってこの世界は大きく変わるだろう。
いずれは領外にも普及し諸国間のパワーバランスを大きく変化させ、資源の奪い合いから戦争への道筋となるかもしれない。
だが、既に創りだしてしまったものはどうしようもない。
できるだけ情報が漏れるのを遅らせ、戦争を先送りしている間に帝国内、いやせめて領内の国力と軍事力を整えて来たるべき戦争に備えるのだ。
蒸気機関はその重要性から伯爵家直轄で管理を行うことにする。
そこで伯爵家で紡績、衣料品工場を建設してそこでのみ使用することにする。
さあ、工場制機械工業の始まりだ。
...まあ、金がないので建設開始は紙の生産で利益が出てからだが。
この時代、衣料品はとても高価なので大量生産すれば紙以上に儲かるだろう。
とにかく、蒸気機関の量産を依頼すると同時に蒸気タービン、蒸気機関車の開発をお願いする。
蒸気機関車はご存じの通り、蒸気機関を動力とした機関車である。
蒸気タービンは蒸気を使う点はピストン式蒸気機関と同じだが、その構造はかなり異なる。
端的に言うと蒸気タービンは蒸気の力でタービン(羽根車)を回して動力を得るものだ。
タービンは風車と同じような働きをするもので、蒸気の高圧を効率よく受けるために無数の小さな翼で構成されている。
蒸気タービンはピストン式蒸気機関よりも遥かに効率が良く、現代の火力・原子力発電も蒸気タービンを用いて発電している。
今回依頼した蒸気タービンは建設中の火力発電所に据え付けられる予定のもので高温、高圧に耐える事と非常に高い工作精度が求められる。
だが、彼らなら必ずやり遂げてくれると信じて依頼をしたのであった。