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平行世界で国づくり  作者: 高槻 智和
第一章:目覚めた先は平行世界!?
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9.領内視察#3

鉄工所を後にして領主館に戻ろうと歩き出そうとしたとき、一枚の看板が目に入った。


「最先端の科学をあなたの元へ ゲルリッヒ研究所」


興味を惹かれてドアをノックするも返事はなかったが、なにやら慌てる物音がする。

少し迷ったが、不審に思って立ち入ることにした。

許可なく入っても捕まることはないだろう。

なぜなら私は領主である伯爵だからだ。

伯爵は領内で一番偉いのだーーー、なんちゃって。


そのように考えた自分の考えを元に引き戻すために大きく咳払いをしつつその研究所へ足を踏み入れる。

入り口の正面にはまっすぐ廊下だけがあり、その奥の扉は閉まっていた。

構わず廊下を進むと、中の空気は換気がされていないのかとてもカビ臭い。

さらに奥に行くにつれて硫化水素のような臭いがする。

すわ自殺か、などと思いながら急いで固く閉ざされたドアをこじ開けるとそこには頭を抱えて震え上がっている白髪の老人がいた。

老人は小声で「もう金は使いきってしもうた・・・。返せる当てもないんじゃ・・・。」と呟いていた。

何やら事情がありそうだが、とりあえず目の前の硫化水素を発生させているらしきビーカーに対処することにする。

「カール、このビーカーを外に持ち出してくれ!私は窓を開けてまわる!」

カールはビーカーを掴んで身を翻すと外に向かって走っていった。


部屋の全ての窓を開け終わった頃、ようやく正気に戻ってきたらしい老人に話を聞くことにする。

「危ないじゃないですか!こんな閉め切った部屋で硫化水素を発生させるだなんて!」

「一体どなたかは知りませんが、あなたは借金取りではないのですか?」

「違う。私はここの領主のメラーラ伯爵だ。

実験のために借金をしたはいいものの返済の当てがなくて借金取りに追われていると見えるが、何を研究しているのだ?」

「これはこれは伯爵様で御座いましたか。

こんな薄汚い場所にお越しくださるとは・・・。

遅くなりましたがようこそ、我がゲルリッヒ研究所へ。

私が所長のゲルリッヒです。

まあ、研究所といっても金もなく部下も2人だけの名ばかりですがね。」


そう言ってその老人、ゲルリッヒ博士は苦笑する。

「何を研究しているのか、とのことでしたね・・・。

現在我々が研究しているのは電気というものです。

電気というものは調べれば調べるほど面白いもので、様々な可能性を秘めているのです。

今は自殺ではなく、電池という物の試作を行っていたところなのですが、どうやら失敗してしまったです。」

そういってまたも博士は苦笑する。


電気か・・・、この時代に電気のことを研究する人材は貴重なのではないだろうか。

ここは金を出して研究を進めさせるべきか、などと考えていると新たな闖入者が飛び込んできた。


「ゲルリッヒのおっさん、おるのはわかってるんやから今日こそは耳そろえて金返して貰おか。」

入ってきたのはいかにもヤの付く自由業という感じのチンピラだった。

チンピラは俺の姿を見つけると無礼にもタメ口で話しかけてきたのだった。

その行動がまさに命取りになるとも知らずに・・・。

「なんやそこの若いにーちゃんは。あんさんがこのおっさんの借金、払ってくれるっちゅーなら今日のところは見逃してやるんやけどなぁ・・・?」

とそこまで口を開いたところでカールが戻ってきた。


「伯爵、仰せの通りビーカーは外に持ち出してきました。

して、こちらのお若い方は・・・?」

といってチンピラを見る。

そのチンピラは顔面蒼白にして震えていた。

そりゃそうだよな、タメ口で脅してた相手が領主だったんだもんな。

とはいえ、これでゲルリッヒ研究所に肩入れをする決心がついた。


「控えおろう!この紋所が目に入らぬか!」

と伯爵家の意匠を俺が見せながら言うと、カールがタイミング良く

「こちらにおわす方を何方と心得る。

恐れ多くもここの領主、メラーラ伯爵であれせられるぞ。

伯爵の御前である。頭が高ーい!」

と続けてくれた。

気分はまさに水戸黄門である。


「この研究所は我が伯爵家が差し押さえることにする。

それについて、借金の話もあるだろうがその前にやることがあるようだ。

さて、何を言いたいかはわかるね、君?

ちょっと領主館の方まで来てもらおうか。」


哀れな男はおとなしく両手を縛られてドナドナされていった。

その日、領主館からは若い男の絶叫が聞こえたという。

それ以来メラーラの街からはチンピラが姿を消したそうな。

めでたし、めでたし。


えっ、研究所はどうなったかって?

もちろん資金を提供して研究を続けてもらっているよ。

この世界で電気を知っている人は貴重だからね。



こうして伯爵の領内視察は幕を下ろしたのであった。


(第1章 完)

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