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夜の女に捧ぐ歌

作者: 鳴海

 軽薄に愛を歌う彼の声は、好きではなくとも嫌いでもない。

 私の中ではとうの昔に切実な倫理観などは死んでしまったようで、くうからりんの心にはおあつらえ向きの安っぽい音は、なんだかんだで心地が良かった。

 古臭いギターを携えて彼はわざわざ、薄暗い裏通りで歌っている。1時間100円のパーキングエリアの向かい側、シャッターの下りた古臭い店の前を勝手に陣取り、それが仕事であるかのように淡々と歌い出すのだ。

 淡々と歌う、というのもある意味難しい所業だと思う。路上ライブなんかをするからにはもっと夢とか希望とかを振りまいて演奏すればいいものを、彼の声はからからに干からびた枯れ木のようで、私はそれが耳に流れ込んでくるたびに、一瞬アイシャドウに塗れた瞼を下ろす。

 恋人に宛てるような甘い言葉を呪いのように歌い上げる彼の曲は鮮烈で、だけど私には立ち止まって最後までその曲を聴く時間も、面目もないために、他の通行人と同様、そそくさとパーキングエリアへ入り、車に乗り込むのだった。

 バーがあがり、駐車場を出る間際、ガラス越しに前方を盗み見れば、いつものように、歌うのもギターを弾くのもやめて、じっと彼がこちらを見つめていた。

 その目はどんな歌よりも雄弁で、私は諦めに似た微笑みを気まぐれに浮かべながらハンドルを切り、次のホテルへと車を走らせた。

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