SなM
ヒトには様々な趣味嗜好があります。
視界が揺らぐ。アスファルトからも偉大なる大空からも照りつける熱気が、熱風が、熱線が、腕と言わず顔と言わず、体全体を蒸し上げる。
「……コンビニ寄るぞ」
おぼつかない足取りで歩く俺は、後方、数メートルの場所に声をかける。
「わかった」
小さな女の子の小さな声。ひざの後ろまで届く長い髪が印象的な、思ったことをなかなか表に出さないタイプのませた子だ。この気候にそんなに長い髪は大変だろうと、切るように言ってみたことがあるが、どうにもこだわりがあるらしく、頑として譲らなかった。
そんな彼女も、この温度と湿度にはさすがに折れたのか、あるいは特に反対する理由も無かったからなのか、俺の突然の寄り道計画に肯定の意を返す。
俺は、少し眉を上げると、先ほどよりきびきびした動きで歩みを進めた。
もう少し歩けばコンビニエンスストア。略してコンビニなるオアシスにたどり着けるのだ。自然と足も速くなる。
傍らの少女も小さな歩幅で一生懸命。ちょこちょことついてくるのだった。
コンビニに到着すると、いくつも並んだ小さな家のような冷蔵庫たちが目に止まる。
無意識のうちに俺ののどが鳴った。
そう、俺が求めていたものはアイス。この気候に対抗する手段の一つである。根本的解決にはならないが、気休め、いや。むしろ夏を楽しんでしまうにはうってつけのアイテムだ。
「……あった」
横にスライドするガラス戸をあけて俺が取り出したのは、切ったスイカを模ったアイス。俺も、この子もお気に入りのアイスである。
俺は、早速そいつをレジに持っていき、お金を払って自動ドアを抜ける。ちょうど近くに設置してあった白くなかなかお洒落なベンチに腰を下ろした。
袋に入っているアイスを破き、三角形の頂点を少しかじる。もちろん味はスイカに似せてある。うん。うまい。
口の中に広がる冷たさと甘さ。しかし俺の舌は、早くもその中にある三つの硬く丸いものを探し当てていた。このアイスには、スイカの種の変わりに、チョコで作った種モドキが入っているのだ。
舌の上でその種を丹念に転がし、食べやすいように寄り分ける。俺の足元ではすでに少女の準備が整っていた。
俺の膝に遠慮がちに手をおき、こちらを見上げる彼女に覆いかぶさるようにして、俺は、口の中のものを少女に渡す。糸を引く俺の唾液と共に、三つのスイカの種が小さな口に消えていった。
こりこり。
しゃりしゃり。
少女と俺の別々の口の中で、元はひとつにされていたものが咀嚼される。
かたやスイカ味のシャーベット。かたや三つのチョコ。
彼女が砕かれたチョコを嚥下するのを見届けてから。俺は、もう一度アイスにかじりついた。
こちらを見上げる少女と目が合う。
まてまて。そんなにあせるものじゃない。
しゃくしゃく。
あったあった。今度は四つもある。
よかったな。
俺は、小さく笑い。もう一度、少女に覆いかぶさるのだった。