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秒でフラれた俺と「可愛い」と言われ慣れている幼馴染の話

作者: 北条S
掲載日:2026/02/20

「好きです! 俺と付き合ってくだ」

「無理無理。話ってそれだけ? じゃ、帰るね」


 言い切る前に遮られ、俺の告白は風に消えた。


「あ、はい……」


 そのまま鼻で笑って立ち去る彼女を、俺はただ見送ることしか出来なかった。

 終わった……俺の人生で七回目の告白が……高嶺の花だってことは分かってたけど、こんなにもアッサリと……。


◆ ◆


「またフラれた……!!」

「だと思ったよ」


 項垂れる俺――柊啓太を見て、幼馴染の篠塚怜央は軽く笑い飛ばしやがった。


「何だよその反応! まるでフラれるのが分かってたみたいに!」

「ほぼ分かってたよ。高岡先輩、啓太に全く興味なさそうだったし」

「そ、そんな……でも俺の話に笑ってくれたんだ……」


 楽しそうに「えー、柊くんウケるw」とか言ってくれたのに……何故……!


「前から思ってたけど、啓太はもう少し……何と言うか、人を見極める目を磨くべきだと思うよ」

「どういう意味だ……?」

「そのうち分かるよ。あと、そろそろ守備範囲を広げてみたら? 一つでも年下なら即ダメっていうの厳しくない?」

「いや、だって年下は……」


 俺が喋りかけた瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 遠慮なく入って来たのは、中学の制服を着た女子二人組。


「あー、やっぱり怜央君来てるじゃん! やっほー」

「やっほー、美咲ちゃん」

「お前、ちゃんとノックしろよ」

「だって面倒くさいんだもん」


 プライバシーを守る気がないこの女は、俺の妹だ。一つ年下の、中学三年生。

 そして妹の後ろにいるのは――


「あ、鈴音も一緒だったんだ」


 怜央の問いかけに視線だけで応えた彼女は、怜央の妹だ。


 俺たちはお隣さん同士で、同じ年子の兄妹。

 偶然にしては凄い類似点をキッカケに、俺が二人にガンガン話しかけて仲良くなった結果、小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしている。


 なのでまあ、俺の部屋に怜央がいるのも、美咲が鈴音を家に呼んでいるのも、割といつものことだ。


「ちょうどよかった。怜央君にこれ渡したかったんだ」


 そう言って美咲が手渡したのは、洒落た紙袋。疎い俺でも知ってる、有名なチョコレート専門店のものだ。


「学校の子から。返事とかはいらないって」

「分かった。わざわざありがとう」

「ううん。じゃぁ用も済んだし、鈴音、部屋で配信見よ」

「ん」


 そのまま妹たちは部屋を出て行った。

 静かになった室内で、俺は大きな溜め息をつく。


「バレンタイン以外でも女子からチョコって貰えるんだな……」

「まあ、僕くらいになると割とね」


 腹立たしいが、怜央がモテるのは事実なので何も言えない。

 見知らぬ女子から何の理由もなくお菓子を貰うなんて、なんだよそれ、漫画かアニメのキャラか?


「話を戻すけど……やっぱ年下はない。あいつと被って見えちまう」

「確かに下に弟妹がいると、年下を好きになりにくいっていうのはあるみたいだね」

「だろ? それに俺は、包容力のあるお姉さんタイプが好きなんだ! 優しく包み込んでもらいたい!」

「で、それを求めた結果、すげなく突き放されたと」

「思い出させるなよ……」


 まさか「付き合ってください」を全文言い終わらない内に切り捨てられるとは思わなかった。

 今までの人生で告白は何度かしたことがあるけど、最速敗北記録じゃないだろうか。


「次は良い人が見つかるといいね」

「……ああ」


 とはいえ、そんなにすぐに先輩を忘れて次にいけるものなのか……今までの経験上、二ヶ月くらいは引きずる気がしてならない。


◆ ◆


 怜央が帰った後、宿題を片付けている途中に喉が渇いたので、飲み物を持ってこようと部屋を出た。


「あ」


 すると、ちょうど廊下に出てきた鈴音と鉢合わせた。


「なんだ、まだいたのか」

「なに、いたら悪いの?」

「別にそういうわけじゃないが……、ん、そういえばなんか、髪の毛切ったのか? 若干雰囲気が……」

「え、よく分かったわね……美咲ですら気付いてないのに」

「女子の変化に気付く男はモテるって聞いたからな! だから常に女子のことは凝視している!」

「きも」


 なんてストレートな暴言……!

 しかし、確かに幼馴染の変化に逐一気付くなんて気持ち悪いと思われても仕方ないか……先輩の変化に気付ける男になりたかった。


「啓太も飲み物取りに行くの?」

「ああ。そっちの分もついでに取って来るよ」

「別にいい。一緒にいこ」


 軽くあしらわれたので、素直に隣を並んで歩くことにした。



 冷蔵庫の中を開くと、昨日買ったばかりのジュースが何本か入っている。


「コーラとミルクティーとオレンジジュース、どれがいい?」

「コーヒー」

「選択肢にないのを選ぶなよ……」

「インスタントあるでしょ。お湯沸かしていい?」


 俺の返事は待たず、既に湯沸かし器に水を入れている鈴音。

 わざわざ沸かしてまでコーヒーを飲みたいなんて、中学生なのに渋い味覚だ。

 そんな鈴音と違って子供な俺は、大人しくコーラをコップに注ぐ。


「じゃ、あんまり遅くまで遊ぶなよ」

「ちょっと、まさか部屋に戻る気?」

「そりゃそうだろ」

「……私、お湯沸くまで暇なんだけど」


 まさか俺に暇つぶしの相手になれと? 宿題の最中なんだが……。


「俺はそんなに話題豊富じゃないから、話しててもつまらないと思うぞ」

「別に面白さとか求めてないし。……というかさ、最近あんまり四人で遊んでないよね」

「美咲が俺と遊ぶの嫌がるからな……生意気にも反抗期なんだよ」

「あー……確かに、最近よく怜央君がお兄ちゃんだったらよかったのにーって言ってる」

「あいつ……」


 誰しもが思うことだろうが、実際言われると腹が立つ。

 まあ、中学生に入った辺りから俺に対してだけ反抗期が始まってるから、今更腹を立てても仕方ないんだけど。


「お兄ちゃんなんて別に大したことないのに」

「いや……怜央は学校でも超モテるぞ」

「あっそ」


 なんてどうでもよさそうな反応……確かに鈴音からしたら、実の兄がモテていようがどうでもいいか。

 それにしても、お湯早く沸かないかな。話題も全然思いつかないし、手持ち無沙汰になってきた。


「……お兄ちゃんが人気あるってことはさ、その……啓太もなの?」

「へ? あ、ああ……まあ、ど、どちらとも言えない感じ……」


 思わず嘘混じりで濁しまくった回答をしてしまった。

 こんな状況で”今日ちょうどフラれてきたばかりなんだ”なんてカッコ悪いこと言える奴はいるんだろうか……。


「ふーん……なんか高校生って進んでるね。あ、沸いた」

「じゃ、俺戻るな」

「あ、ちょっと待って」


 その言葉に動かしかけた足を止めると、鈴音が近付いて来た。

 何かと思えば、ポケットから取り出した何かの包みを開き、口の前に差し出してくる。


「口」


 短く指示されて大人しく口を開くと、その何かが放り込まれる。

 そこで初めて、それがチョコレートだと気が付いた。


「あげる。さっきお兄ちゃんのチョコ羨ましそうに見てたでしょ」

「気を使ってもらって悪いな」

「全然。コンビニで三十円のやつだし、好きじゃない味のだし」


 なんで好きじゃない味のを買ってるんだよ……。


◆ ◆


 いつも通り怜央と共に登校していると、後ろから駆け寄って来る足音が聞こえた。


「篠塚くんじゃーん! おはよー!」

「あ、おはようございます、高岡先輩」

「柊くんもおは」

「お、おはようございます……」


 昨日の今日で朝から会うなんて気まず過ぎないか。

 しかしそう感じたのは俺だけらしく、高岡先輩は隣を歩く怜央と普通に話している。


 思えば先輩との出会いは、下校中に突然話しかけられたことだった。

 それから何となく話をするようになって、自然と一緒にいることの多い怜央を紹介する流れになったわけだが……


「篠塚くん、今度の日曜日って暇? あたし、ちょうど見たい映画があるんだけど」

「あー、その日はちょっと家の用事で」


 こんな感じで、気が付いたら先輩は怜央のことばかり見ていた。

 で、それに気付いて焦って告白した結果、あのザマだったわけだ。

 しかし、こうしてフラれて冷静になった今なら分かる。


「え~じゃぁさ、いつなら空いてる? 篠塚くんと見に行きたいなぁ」


 先輩って怜央が好きなんだろうな……!


 こんなにあからさまなのに、俺は何て無謀な挑戦をしたんだろうか……いや、でもフラれない限りは諦められなかっただろうし、気持ちに区切りをつけるという意味ではよかったのか……いやいやしかし、俺の勝手な感情で先輩に迷惑をかけてしまったことは反省しないと……


「おーい、啓太、大丈夫?」

「うわっ……悪い、考え事してた。……って、あれ、先輩は?」

「先に行ったよ。空いてる日がないって言ったら諦めてくれた」

「……お前、そんなに忙しかったっけ?」


 曖昧な笑顔を返された。

 モテる男も大変なんだな。……俺には一生理解出来なさそうな悩みだ。


「あ、そういえばさ、今日って誰かと帰る予定ある? 鈴音の買い物に付き合うんだけど、啓太も一緒に行かない?」

「放課後に妹の買い物に付き合ってやるなんて……良い兄貴だな」

「僕もちょうど買いたいものがあったからついでだよ。で、予定は?」

「……悪い、今日はやめとく」


 普段ならついていくところだが、今はまだそんな気分になれそうになかった。

 あれだけ容赦なくフラれてもなお、未練のようなものが残っている。こんな女々しさだから先輩にも好かれなかったのかもしれない。


「そっか」


 それに比べて、理由を聞いてくるわけでもなく、ただ頷いてくれるこいつの男らしさときたら……なんかもう、人として完敗している。


◆ ◆


 放課後、クラスメイトの誘いを断り、一人で教室を出る。

 いっそのこと、コンビニで好きなもの買いまくって一人やけ食いパーティーでも開催しようか。今月の小遣いがなくなってしまうけど、それで気が晴れるなら安いものだ。


 軽い溜め息をつき、校門へと続く道を歩いていた時だった。


「うわー、莉々ってばひどー」


 突然、高岡先輩の下の名前が聞こえてきて、驚いて木の陰に身を隠した。


「……って、なんで隠れてるんだ俺……」


 今朝の様子を見るに先輩は全く気にしてなさそうだったから、俺だって平然としていなくちゃいけないのに。

 自分の情けなさに凹んでいると、先輩は恐らく友達であろう二人の女子と楽し気に会話を始めた。


「別に酷くないでしょ、むしろ普通じゃん? 怜央くんレベルのイケメンだと近付きたい女子いっぱいいるだろうし」

「だからってその友達と仲良くなって仲介してもらうとかさー……そりゃその子が莉々のこと好きになっちゃっても仕方ないって」

「思い出させないでよ……それは大誤算だったんだから……普通少し話したくらいで好きになる? 好かれるようなこともしてないのに」

「まぁそりゃ莉々可愛いし、モテない男なら話しかけられただけで勘違いしちゃうよ」


 一瞬、何を話しているのか分からなくなった。

 怜央の友達。仲良くなって仲介。勘違い。

 聞こえてくる単語から、嫌でも分かること。つまり、先輩が俺に話しかけてくれたのは……


「あー、まじキモかったんだから……身の程知らずっていうかさ、あたしがあんなダサ男と付き合うわけないじゃんね」

「だからその言い方は酷いってー。ちゃんと怜央君に繋げてくれたんだからちょっとは感謝しなよ」

「それはちゃんと感謝してるし。ありがとうモブキャラくんって感じ?」

「うわー、やっぱ莉々さいてー」


 あはははと、楽しそうな笑い声が聞こえてきて、目の前がぐにゃりと歪んだ。


 先輩は俺のこと好きじゃないとかそういうレベルじゃなくて、そもそも友達とすら思われてなかったわけだ。

 本当につくづく自分の馬鹿さが嫌になる。こんなんじゃそりゃ怜央にも、人を見極める目を磨くべきって言われるよな。

 それにしても、思ったよりショックを受けてしまって、気持ちが悪い。早く家に帰って休みたい、最悪の気分だ。


「いたっ……もー、なに? 急にぶつかってきて……なんで中学生がこんなとこにいんの?」

「ゲス野郎」

「は?」


 よく知る声音で、とんでもなくストレートな悪口が聞こえてきた。

 俯けていた顔を上げると、そこにいたのは思った通りの人物――鈴音だった。


「あ、野郎じゃないか……ゲスい女に訂正します」

「そ、そういう問題じゃないでしょ!? 何なのよいきなり!」

「大声で下卑た会話をしてるから不快だなって思って、つい体当たりしちゃいました」

「はぁ!?」


 ま、まずい、何か喧嘩に発展してしまいそうな雰囲気だ。

 急いで止めに入るため駆け寄るが、その間も二人の会話は止まらない。


「ほんっと何なの!? あたしたちが何話してようとあんたに関係ないでしょ!?」

「関係ないかもですけど気分がよくないんです」

「何よそれ!」

「あなたにとって取るに足らない人でも、私にとっては大事な人なので悪く言われると腹が立つんです」

「は? ……ああ、もしかしてあんた、ひいら――」

「す、ストップ! 二人ともストップ!」


 二人の間に割って入るように立つと、どちらも俺がいるとは思っていなかったのか、すごく驚いた顔をした。


「柊くん……あー……聞いてた? 今のはー、ちょっとしたジョーク的な?」

「いや、そのことは別に……」

「啓太、帰ろ」

「へ? お、おい」


 鈴音に腕を引っ張られ、そのまま引きずるように歩かされる。

 一刻も早くここから立ち去りたいのは俺も同じだが、先輩に何かフォローを入れないと、万が一鈴音が目をつけられたりしたら申し訳なさ過ぎる。


 そう思って振り向くと、先輩の隣に、いつの間にやって来たのか怜央が立っていた。


「先輩、今の僕の妹なんですよ……その前の会話も、ずっと見てました」

「えっ嘘!? あの、さっきのはほんとに冗談だから! ちょ、ちょっと待って怜央くん!」


 ……あれは、俺が何か言うよりもよっぽど効いてそうだ。




 そのまま大人しく引っ張られること数分。とっくに校舎は見えなくなり、周囲に見知った顔もなくなっていた。

 ふと、前を歩いていた鈴音がずっと顔を俯かせていることに気が付いた。

 表情が見えないから何を考えているのかは分からない。

 けど、あの会話を聞いて腹を立てたのは……自惚れじゃなく、俺のためを思ってくれてのことだろう。


「ごめんな、あんなこと言わせて」

「……啓太が謝ることじゃないでしょ。あの先輩が最低だっただけだし」

「でも俺が告白なんてしなければ、あんな風にキモがられることもなかったわけだか……ら?」


 突然鈴音が足を止めたので、自然と俺も立ち止まる。


「……あんな人のどこがよかったわけ?」

「え、まあ……その、笑った感じとかが」

「可愛かったの?」

「…………は、はい」


 今にして思うと、全てただの愛想笑いだったんだと思うと、恥ずかしくて仕方ない。

 これからはもっと人を見る目を鍛えないと……なんて考えていたら、鈴音が掴みっぱなしだった俺の手を解放した。


「見る目なさ過ぎ」

「う……返す言葉もない」

「昔からずっとそう。啓太って自分のこと好きになってくれない女の子ばっかり好きになって……フラれてばっかり。今回でもう七度目くらいでしょ」

「いや、なんでそんな正確に把握してるんだよ……」

「お兄ちゃんから聞いた」


 あいつ、何を思って俺の恥を自分の妹に教えてるんだ……!?


「……ほんとバカ」

「え、ど、どうした?」


 何故か膝を抱えて座り込む鈴音。まさか具合でも悪くなったのかと心配して前に回ると、俺から表情を隠すように顔を俯かせてしまった。


「…………小さい頃、いつも私たちに声かけてくれたのは啓太だったでしょ」

「ああ……お隣さんだったし、同じ年齢の兄妹同士、仲良くしたかったからな」

「……ま、それくらいの軽い気持ちだったんだろうなって分かってはいたけど」


 軽いとは失礼な。俺なりに結構勇気を出して話しかけてたつもりだったんだけど。特に鈴音に対しては、女の子だし、下手に怖がらせちゃいけないと思って気を使っていた。


「……私たち、生まれた頃からお人形さんみたいとか、可愛いとか、死ぬほど言われてきたの」

「? ……まあ、そうだろうな」


 怜央も鈴音もご両親に似て顔立ちが整っている。うちの母さんなんて、未だに二人の写真を見るとうるさいくらいに「可愛い」を連呼している。

 でも何で今そんな話を……?


「正直言われ過ぎてウンザリしてたし、見た目しか見てないのかなって思ってた」

「それは……ひねくれすぎだろ」

「どうせひねくれてるわよ……だからそういうことを言わない啓太と一緒にいるのが、居心地よかったの」


 言われて思い返してみると、確かに俺は鈴音にそういうことを伝えたことがない。

 だって女じゃあるまいし、可愛いなんて気軽に使う言葉でもないし、本人に直接言うなんてもっと難易度が高いし。


「…………けど、いつからか、逆になって……」

「逆?」


 首を傾げた途端、いきなり鈴音が立ち上がったものだから、危うくぶつかるところだった。

 すんでのところで躱したせいで体勢を崩した俺の腕が、再び引っ張られた。


「か……可愛いって、言ってほしいの」

「……え?」

「だから! 啓太に可愛いって言ってほしいの!」

「お、大声出すなって」


 周囲の人から奇異の視線を向けられたので、誤魔化すように手を振った。

 鈴音がこんなに大きな声を出すなんて珍しいし、必死なのは伝わってくるけど、残念ながら言っている意味はよく分からない。


「俺が言わなくたって、みんなに……」

「別に可愛いって言われたいわけじゃないことくらい分かるでしょ」


 確かに、さっきウンザリするほど言われたって言ってたしな……ならなんだ? 俺に可愛いと言われる……というより、思われたいってことか……?

 ……、……え? それってつまり……


「……あ、あの――だっ!?」


 言葉の途中で、ポケットティッシュが俺の顔面に向かって投げつけられた。

 当たっても別に痛くはないけど、話は強制的に終わらされてしまった。


「ご、ごめん……あの、やっぱ今のなしで!」

「は?」

「今のはなんか……怒りに任せて言っちゃっただけだから! 全部気にしないで、あの、また明日!」

「ちょ、す、鈴音!」


 駆け出して行った鈴音を追いかけようとしたけど、あまりの全力疾走を見て、やめた。

 追いついたところで、今の俺には彼女にかける言葉が見当たらない。


「だって今の……なんて答えれば……」


 これといったワードを言われたわけじゃないけど、流石に何も察せられないほど鈍感ではない……と思う。

 けど、俺から切り出す勇気はないし、かといって全てを無かったことに出来るほど器用でもない。


 静まり返った通学路に一人取り残される。

 秋風が肌に当たり、普段なら肌寒いと感じるはずなのに、顔の火照りは全く取れなかった。


◆ ◆


「……おはよう、啓太」

「お……おは、おひゃよう!」


 思いっきり嚙みまくってしまったダサい俺に対し、鈴音はじとりと目を細めた。


「気にしないでって言ったのに……」

「むむむりだろ! というか、なんで迎えに……」

「啓太じゃなくて美咲を迎えに来たんだけど」

「あ……」


 そういえばいつも二人は一緒に登校してるんだった……クソ恥ずかしい……自意識過剰マンになってしまった……。


「み、美咲呼んでくる!」

「啓太」


 走り出そうとしたところで服の裾を強く引っ張られ、危うく転びそうになった。


「きゅ、急に掴むのやめてくれよ!」

「ごめん。でも、そっちが流さないなら私も流すのやめるから」

「へ?」

「いつか言ってもらうからね、可愛いって」

「え、いや、あの……」


 戸惑う俺を見て、鈴音は憎たらしくなるほど綺麗に微笑んだ。

 それを見て、心臓の音が妙に早くなり……自分の敗北が近付いているような気持ちになった。



終わり

最後までお読み頂きありがとうございました!

まだ至らぬ点も多々あると思いますが、読んで頂けたこと感謝いたします。


只今いくつかの短編を投稿中です。今後もあと数本続きます。

その中で特に反応の良かったものを連載として書いていけたらと考えています。

もし気に入った作品がありましたら、感想や評価などで教えていただけると嬉しいです!

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