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クロエ図書館  作者: 大山
館長案内
7/21

ひとりのふたり その1

 特に代わり映えのしない以前と同じ身体は勝手に作り出された擬態であり、本体は魔道書(グリモア)という何やら物凄い本だと発覚したリリア。

 かといって彼女自身の知識量が増えたかといえばそうでもなく、それどころか今までの常識が通用しない場所に来てしまったせいで、新しく覚えなければならない事が山のように増えてしまった。

 放棄したくとも彼女の帰れる世界はすでに此処だけ。

 唐突過ぎる展開には到底付き合い切れるものではないが、だからと悲嘆に暮れ続けるのも如何なものか。

 それに、幸いにも彼女は今、独りではないのだ。

 ヒトの規格には納まらない相手でも、この場所について知っている人がいるのは心強い。

 だからリリアは真っ白な光の落ちるサロンの中、円卓を挟んだ真向かいに座る、爬虫類の鼻先と肌を持つ男へ声を掛けた。

「……あの、エニグマ?」

「にゃ?」

 長身痩躯の猫背が首を傾げれば、ギザギザしたシルバーグレーの髪から、ぽろぽろと花が滑り落ちていく。

 完全に髪から離れたなら木造の床に落ちた分だけ、エニグマの頭にまた新たな花が飾られた。

 改めて観察しても不可思議な光景に瞬き一つ、意識をそちらへ奪われたリリアは、気を取り直すようにわざとらしい咳を小さくすると、姿勢を正して頭を下げた。

 纏まっていないクロムイエローの髪が、リリアの左右の視界を遮るカーテンの如く、木造の卓上に流れを作って落ちる。

「お願いします。その、宜しければわたしに、此処の事を色々教えては頂けませんか?」

「やだ」

「……そうですか」

 考える間もない即答に顔を上げたリリア。

 先刻、目の前の彼から「嫌い」だと告げられたばかりだったため、縋る事は出来ないと思い、残念だと溜息をついて席を立つ。

 椅子の背に回って静かに戻しては、サロンの光もすぐ呑み込んでしまう、橙のランプだけが点々と続く本棚の方を向いた。

 実際の時間では遥か昔、リリアの体感に置き換えてはサロンで目覚めるちょっと前、展開していた生死を分ける化け物との追いかけっこ。

 脳裏を過ぎったあの時の恐怖に喉が鳴るものの、ここに留まっても収穫は何一つ得られないのだと自身に言い聞かせる。

(それに今のわたしは分厚い本なのですから、仮に化け物に遭遇しても食べられはしないはずです)

 ぐっと握り締めた拳をリリアは胸の前に持ってきた。

 本体である魔道書(グリモア)はリリアの意思に存在を左右されるようで、彼女が望めば出現し、望まなければ姿を消すらしく、今まで円卓の上に在った分厚い本はいつの間にかなくなっており、このためリリアは振り返る事なく本棚へと足を一歩踏み出した――のだが。

「きゃうっ!」

 いきなり後ろ髪を引っ張られては仰け反り、バランスを崩した身体が後方へ倒れかけたなら、鋭い爪の感触が背中に当てられた。

 セレストブルーの大きな瞳をぱちくり、リリアが仰ぎ見た先には何故か不機嫌な顔つきのエニグマ。

 これにより髪を引っ張ったのも背中を支えた手の主も彼だと判りはしたものの、理由の判らないリリアは支えられたまま問う。

「え、エニグマ? 何を」

「りりあ、何処に行くデス?」

「ど、何処って……この場所を探索しに」

「どうして探索するデス?」

「どうしてって……此処の事を知るために」

「……にゃあ」

「?」

 こちらの問いには答えないくせに、逆に問い掛けてきたエニグマは、リリアの答えに不満そうな声を上げた。

 次いでリリアの身体を元に戻しては両腕を組み、目元を覆う布で見下ろしてきた。

 エニグマ自体を怖がる事はなくても、圧倒される大きさにリリアが一歩下がったなら、大きな口の端が小さく下に向けられた。

「確かにえにぐまはやだと言ったデス。でもりりあは諦めが早過ぎるデス。普通はもう少し食い下がるデス」

「はあ……言われてみればそうかもしれませんね。命に関わる事や自分自身の事に関しては別ですが、事他人になるとどーでも良いと言いますか、駄目なら駄目で仕様がないと言いますか、かなり投げやりになるのは確かです。元々、他力を最初から当てにしない生活を続けてきましたから」

「それはつまり……駄目元でえにぐまに頼んだ」

「いえ。そこは引き受けて下さると思ってお願いしました。エニグマの事は最初から当てにはしていましたよ?」

「にゃ……何故?」

 手を上げて否定を告げるリリアに対し、エニグマが惚けたように首を傾げる。

 いつもなら当てにしない他者からの問いを受け、リリアの方も似た様子で首を捻った。

 エニグマの質問は尤もだった。

 何せ当のリリアにも理由が判らないのだから。

 けれども考える内ふと思い出したのは、エニグマのようにリリアの行動を気にする者がいなかった、今までの事。

 共に暮らしていた女とは必要最低限の接し方しかして来なかったし、教師にしても物分りの良いリリアよりも問題児と呼ばれる子の方を優先して気に掛けていた。

 同年代の子らは、夢のない未来をひたすら目指すリリアを尻目に、将来を夢見て今在る時間を共有していた。

 当のリリアにしてみても、必要以上に誰かと関わろうと思うことすらなかった。

(こうして振り返ってみると、わたしって思っていたよりずっと……つまんない上に味気ない人間ですね)

 それでも、こんなところに放り出されて心細くならないほど、図太い神経は持ち合わせていない。

(だからでしょうか? 心細かったから、意思の疎通が出来るエニグマを頼ったのでしょうか。それともエニグマが気にしてくれたから?)

 ぽつぽつ浮かぶ仮定の結論。

 しかしどれも正しいようでいて、どれも不確かで、納得出来る理由にはならない。

 エニグマの問い掛けに応えられる答えが現れず、段々とリリアの中に生まれていく焦りと不安。

 元の世界では感じる事のなかった思いに戸惑ったなら、頭の上に大きな手の平が置かれた。

「え?――わわっ?」

 わしゃわしゃ遠慮なく髪を乱す頭上の手。

 引っ張られた身体にふらついたりリアは、その手を両手で押さえると、伝わる鱗の質感にエニグマを見上げた。

「エニ、グマ?」

「……判らないなら判らないでいいデス。そんな根詰めて答えを探す必要ないデス。答えがないよりも、泣かれる方が厄介デス」

「泣く……わたし、泣きそうな顔をしてましたか?」

 降ろした両手でぺたぺた水気のない顔に触れたなら、リリアの頭から手を離すエニグマ。

「りりあは……えにぐまをどう思っているデス?」

「へ?」

 頬に両手を当てたまま見つめた先で、また両腕を組んだエニグマがそっぽを向いた。

「えにぐまはりりあが嫌いデス」

「はあ。それは聞きましたけど」

「だから今度はりりあの番デス。りりあはえにぐまをどう思っているデス?」

「…………」

 どういう流れでそんな話に至ったのか、リリアにエニグマの考えは理解できなかったが、質問の意味は判った。

 そしてその答えは、エニグマを当てにした理由よりも簡単にリリアの口をついて出た。

「わたしはエニグマの事、嫌い、ではありません」

 言い切れば、何故かほっとした息が自身の口から零れ落ちた。

 不思議と緊張を解すそれに瞬けば、エニグマはふんっと鼻を鳴らした。

「なら、それが当てにした理由デス」

「え?」

「りりあは難しく考え過ぎてるデス。確かに世の中、複雑怪奇な事はたくさんあるデス。それでも突き詰めれば答えは案外、簡単なモノが多いデス。だからりりあがえにぐまを当てにしたのは、えにぐまが嫌いじゃなかったから、で充分」

「……はい」

 ある意味エニグマの言葉はかなりの暴論だが、今のリリアには随分と優しく響く。

 胸に手を当て、目を閉じて、小さく深呼吸したリリアは、次いでにっこりエニグマに微笑みかけると、緩く首を振った。

「いいえ。やっぱり違います。エニグマの事、嫌いではない、ではありません」

「にゃ? それでは嫌いになったのか?」

 何故だか期待に満ちた顔つきで、嬉しそうに問い掛けてくるエニグマ。

 喋り方も元に戻っていると気づかない彼へ、もう一度首を振ってみせたリリアは改めて笑い掛けた。

「いいえ。勿論嫌いではありません。寧ろその逆。好き、です」

「……にゃあ?」

 目元を覆う布が怪訝に隆起する。

 不快を表しているというよりも、いまいち意味が判らない具合のそれへ、彼女は再度言ってやった。

「知り合ってそう時間も経っていませんが、わたし、エニグマの事、結構気に入っているみたいです」

「気に入っているって……り、りりあは可笑しい! 変だ! 被虐趣味だ!」

 罪を糾弾するように、やや大袈裟に仰け反って声を荒らげるエニグマに対し、眉を寄せたリリアは困惑を前面に出して首を傾げた。

「……どうしてあなたを気に入ったぐらいで、妙な言い掛かりを付けられなければいけないのでしょうか?」

「にゃっ! えにぐまはりりあを嫌いと言っているのに、りりあはえにぐまを、き、き、気に入ったと言う!」

 びしっと目の前で指差す黒い爪。

 これをそっと手で押さえたリリアは、尖端を嫌って横に避けた。

「ええ。気に入りました。だからわたしはあなたが大好きですよ、エニグマ」

「!!」

 連呼される嫌いを打ち消すように、大を付けてリリアはエニグマを好きという。

 無論、そこにあるのは親愛の情。

 異性愛を語るにまだまだ欠点だらけの双方は、互いへの心を語り合ったところでその反応を別とした。

 リリアは一貫して平然と前を向き、エニグマは居心地が悪そうにそっぽを向いて。

 かといってそんな膠着状態も長くは続かず、視線をエニグマから本棚の暗がりへと移したリリアは、ランプの明かりだけが誘うようにぽつりぽつり灯る通路にごくりと喉を鳴らす。

 そしてそのままの表情で、エニグマへと声を掛けた。

「……エニグマ、それでは」

「やだ」

「はい?」

 先程と似た即答に一歩進んだ足をよろけさせ、セレストブルーの瞳がぱちりと瞬く。

 両腕を組み、つんと顔を逸らすエニグマを認めたなら、合点がいったとリリアが転じて笑った。

「やだ、で結構ですよ。それではエニグマ、さようなら。色々ありがとうございました。機会があったらまたお会いしましょう」

「やだ」

「…………」

 別れの言葉まで否定されるとさすがに切ない。

 それでも世話になったとエニグマの背中に深く一礼したリリアは、改めて本棚に向かって歩き始めた。






 赤茶色のチェック柄のスカートが、規則正しく木造の床を叩く茶色いブーツに合わせて翻る。

 スカートと同色のスカーフは、成長途中のカーブを描く胸の前で微かに上下し、白いブラウスの腕は靴音に併せて振り子を描く。

 長いクロムイエローの髪は、ポケットに入っていた紐を用いてしっかり結い上げたため、簡単に解れる事はないだろう。

 完璧なまでに己を律したリリアの姿は、しかし。

(えっと……このまま付いて行って良いのでしょうか?)

 前方を見つめるセレストブルーの瞳だけが、どうしたものかと迷いに揺れていた。

 理由は簡単。

 今し方、リリアに向かって「嫌い」「やだ」を連発していたエニグマが、宙に浮く不可思議な明かりを横に、彼女の前を歩いているせいだ。

 赤と黒の裾に連なる楽器をガチャガチャ慣らしながら歩くエニグマは、後ろのリリアを一瞥する事なく、確かな足取りで何処かを目指している素振り。

(うーん……嫌われている手前、付いて行くのはやはり良くありませんね)

 たとえ本棚の通路へ進んだリリアを追うようにして通り過ぎたエニグマが、そのままの速度で去らなかったとしても、たまたま彼の目的地と重なっただけの事。

 エニグマと違い、この図書館をよく知らないリリアは、だからと同じ道を歩くつもりもなく、ふらり傾ぐ動きで本棚の側面が続く通路へ折れた。

 エニグマの横をふよふよ浮かんでいた明かりがなくなった分、ぐっと暗さの増した視界。

 長身痩躯の影を失い開けた光景は、どこまでも続く橙のランプと闇とに支配されていた。

(……よしっ)

 今も残る化け物との追いかけっこの余韻に、震える手をぎゅっと握り締めたリリアは、今一度覚悟を決めると一歩を踏み出す。

 ――が。

「え、え、あら?」

 しゅるりと横を大きな影が通り抜けたかと思えば、追って前方、何故かそこにいる猫背の異形と連れの明かり。

 もしかして、とリリアは思った。

(もしかしてエニグマ……道を間違ったのでしょうか?)

 澱みない足取りだった事を振り返ると、あれだけ堂々と歩いた後の間違いは恥ずかしい。

 ここは何も言わない方が賢明と考えたリリア、再度本の背表紙が向かい合う通路へ入った。

 すると程なく、またしても後ろから現れた影がリリアの前に躍り出てくる。

(また?)

 視野を狭める細く長い背と、本を探すのに適した光。

 エニグマの向こうに広がる暗がりを見なくて済むのはありがたいが、連続で前にやって来るのはどうした事だろう。

 思いつつも三度目の正直、リリアが側面へと方向転換したなら、二度ある事は三度あるとばかりに、エニグマと明かりが横を通り過ぎて目の前に現れる。

 それでも構わず道を変更したリリア。

 そんな彼女より多く動いているエニグマは、息を切らさず沈黙を保ちつつ、やはりリリアの前へ明かりを引き連れてきた。

 曲がる、影が通る、前が狭まる、曲がる、影が通る、前が狭まる……

 延々、このサイクルを十数回繰り返したところで、本体が本であるにも関わらず疲れてきたリリアは、足を止めて本棚に背中を預けた。

 息を整えてちらり、先程まで前としていた方角を見やれば、相も変わらずエニグマと明かりはそこにおり。

(……今度は戻ってみましょうか)

 なんともなしに浮かんだ自身の提案へ、特に考えもせず乗ったリリアは、背中で本棚を押すとそのまま来た道を戻り、かけ。

「……エニグマ?」

 さすがにもう来ないだろうと思っていた人物が、懲りずに背中を見せる前方へ、思わず声を掛けてしまった。

 これを耳にしたエニグマの目元の布が、気まずそうに振り返るのを目にしたなら、リリアははっと気づいて尋ねた。

「もしかしてあなた…………………………迷ったのですか?」

「違うっ!」

 途端に勢い良く振り返ったエニグマに併せ、裾の楽器がガチャガチャけたたましい音を立てる。

 次いで怒り肩で近づいて来た彼は、気圧され怯むリリアの鼻先に黒い爪をぴっと当てると、牙のちらつく大きな口を近づけて言った。

「りりあ、りりあは此処の事を知らないだろう?」

「は、はい。知りません」

「だから(それがし)が先に行っているのに、さっきからりりあはふらふらしっ放し。ちゃんと(それがし)の後に付いて来い」

 腰に両手を当てて踏ん反り返るエニグマ。

 爪が遠退いた事で動きを取り戻したリリアは、そんな彼へ困惑を浮べてみせる。

「え? で、ですが、エニグマはやだと言ったではありませんか。わたしの事だって嫌いと」

「そうだ。(それがし)はりりあの事が嫌いだ。思惑通りにいかないりりあは大嫌いだ」

「はあ」

(それがし)がからかっても思い通りにならないりりあは気に食わない。意地悪しても気にしないりりあには腹が立つ」

「はあ」

(それがし)が一生懸命喋っているのに、そうやって気のない返事ばかりするりりあは嫌だ」

「…………」

 エニグマは一方的にリリアが嫌いだという理由を上げていく。

 これに対してリリアは徐々に何か可笑しいと気づき始めた。

 リリアを嫌うエニグマ、けれども語られる理由は嫌いよりも寧ろ……

(構って欲しい、という事でしょうか? いえでも、それってなんだか子どもっぽくありませんか?)

 口には出せない事を思いつつも、リリアはこれまでのエニグマとのやり取りを思い出す。

(……まあ、対応の仕方が大人だったかと問われれば、決して素直には頷けませんが)

 男は幾つになっても少年の心を持っている、という言葉さえ霞む、エニグマ個人の幼さの滲む心。

 それでも結論を出すにはまだ早いと、リリアは不貞腐れている様子のエニグマへ首を傾げた。

「でもエニグマ、また会いましょうと言った時、やだって言っていたじゃないですか」

「勿論言った。(それがし)はまた会うつもりがなかったからな」

 ふん、と鼻息一つ。

 では何故今こうしてここにいるのだろう、リリアがそう言葉を重ねようとしたなら、両腕を組んだエニグマが横柄に続けた。

「また会うとは、別れてからする事だ」

「それってつまり……最初から付いて来るつもりだったのですか?」

「違う。最初からリリアを案内してやるつもりだった」

「え? ですが……教えて欲しいと言った時は、やだって」

「言った。でもその前にも言った。(それがし)は人をからかうのが好きだと。なのにりりあは無視した。からかうのが好きだと言ったのに、(それがし)が言ったやだを真に受けた。諦めるのが早いと言っても、当てにしたと言ったくせに、一人で行こうとした」

(これは、つまり)

 一度は早計と見送った結論が、間を置かずに舞い戻ってきた。

 どうやら本当に、この異形の男はリリアに構って貰いたかったようだ。

 異様に判りにくい上に面倒臭い手法を用いて。

「……エニグマ」

「にゃ?」

 手を伸ばして交差するエニグマの腕に触れる。

 エニグマに不思議そうな気配が滲めば、解けた腕に併せ、リリアの右手が彼の左手を追って掴んだ。

「では改めて、お願いします。どうかわたしに、此処の事を教えては頂けませんか?」

「にゃー。やだ」

 結局変わらない返答、しかしてリリアは振り払われない手に笑い、エニグマの横に並ぶ。

「では、行きましょうか」

「……にゃあ? りりあ、りりあは(それがし)の言葉を聞いていたのか?」

 心底呆れ果てたような声が上から発せられ、見上げたリリアはにっこり微笑んだ。

「はい。でも、案内はして下さるのでしょう? ありがとうございます、エニグマ」

「……にゃあ。まあいい」

 顔の向きをリリアから前に移したエニグマは、やれやれと言う素振りで猫背を更に縮めた。

 項垂れているようにも見える仕草だが、グラスグリーンの手はリリアの右手を握り返している。

 これへもう一度柔らかく笑ったリリアは、歩き出すためエニグマと同じ前方を見やった。

 先程からエニグマに付いて回る明かりがそんな彼女の視界も、横に付いて照らしたなら、ふと思い出したようにリリアは言った。

 周囲は明るくなっても、薄暗いままの通路からは目を逸らさずに。

「そういえばエニグマ」

「にゃ?」

「言葉遣い、元に戻ってますよ」

「にゃっ!? そ、そんな事ない――デス。それ、じゃなくて、え・に・ぐ・まはっ、自分で決めた事は守っている、デス」

 指摘すれば些かぎこちない返事。

 それでも、多少偏屈でも、共に行動してくれるエニグマへ、リリアは前を向いたまま笑みを零した。







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