16 深夜の訪問者
今作品初めての感想を頂きました。
嬉しくて何度も読み返してたりしてます(^^)
誤字脱字報告も頂きました。
いつもありがとうございます。
ホントにもう…すみません。
お手数をおかけしてます。
深夜。
アデルはなかなか寝付けずにいた。
体は疲れているのに、頭が冴えてどうしても眠れない。
目を閉じれば、つい数刻前の出来事が鮮明な情景と共に脳裏に浮かび、意識が覚醒する。
起き上がり、大きく息を吐きながら手で顔を覆う。しばらく感じていなかった胃の奥がキリキリと痛む。
ベッドの上で膝を抱えると、アデルは鬱々と自分の運命を呪った。
「誰があんな噂を……。それにあんな嘘、一体誰が…」
前者はともかく後者からは明らかな悪意を感じた。人を貶めて嘲笑う人間はどこにでもいる。特に爵位持ちには、そこに楽しみを見出し湯悦に浸る人間も多い。彼らにとって、今のアデルは格好の餌食だったんだろう。汚れた女に、嫉妬に狂う無様な女という下げ札がつけばより面白い、そう思われたのかもしれない。
家に帰れさえすれば、これまでの生活に戻れると思っていた。
しかし今、アデルは想像をはるかに超えた絶望を突きつけられている。
婚約者を失い、家族からも見捨てられ、侯爵家の令嬢としての未来も、己の尊厳も、そして唯一の居場所であるこの家からも追われようとしている。
これならまだ、未来を夢見ていたあの頃の方がマシだった。
「グレイシア様の言っていたことは、こういう意味だったのね…」
彼女の言葉の真意が、今ようやく腑に落ちた。ソワール卿の曖昧な笑みの理由も理解した。
知らなかったのはアデルただ一人……。
「はは…」
乾いた笑いが口から零れる。
夜会でのアルベルトの言葉が頭を過ぎり、再び胸に突き刺さる。
(私…そんなに悪いことしたかな? 確かに言葉は少しきつかったかも知れないけど、彼女にだって非はあったと思う…。それなのに……みんなの前であんな風に罵倒されて恥をかかされるほど私悪いことした…? 待ってたのは彼女だし、叩いてなんかいない。なんで信じてくれないの? 婚約者じゃなくても昔馴染みでしょ? …アルベルトは私が変わったって言ったけど、それならあなただって同じじゃない。昔はあんな言い方で人を傷つける人じゃなかった)
怒りと悲しみ。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「こんなことなら本当にぶっ叩いてやればよかった…」
不意に娼婦たちの口癖が口から漏れた。
自分は一生使わないだろうと思っていた言葉が無意識に口をつき、フッと鼻から息が漏れる。
同時に、アルベルトの怒りに満ちた眼差しを思い出し、アデルは膝の上に顔を埋めた。
「何が正解だったの…?」
彼女の体調を気遣い謝罪を受け入れ、何でもない事の様に笑顔を振りまけばよかったのか。
心にもない祝福を送り、自分の心に蓋をして痛みをやり過ごせばよかったのか。
なぜ自分ばかりが、こうも我慢を強いられなければならないのだろう。
考えれば考えるほど虚しくなる。
アデルの目にじんわりと涙が浮かぶ。
ズズッと鼻を啜る音だけが、大きく室内に響く。
「なんだ?泣いてんのか?」
誰もいない室内に突然男の声が響き、アデルはビクリと肩を揺らした。
暗闇の中、月明かりに照らされたカーテンが大きく膨らみ、暖かい風でふわりと動く。休む前、確かに閉めたはずの窓がなぜか今、大きく開け放たれている。
浮かんだのはあの日の情景。
幼いアデルを羽交い締めにし、攫った二人の男。無残に命を奪われたメイドたちの遺体。
アデルが戻った事を知り、再び彼らが攫いに来たのでは…一瞬そう思った。
が、そう思ったのはほんのつかの間。
聞きなれた声と砕けた口調。それはアデルが心を許し、もう一度会いたいと願っていた人物。
「…泣いてないわよ」
ズビッと鼻をすすり、膝がしらに涙をこすりつけると顔を上げた。
月明かりを背に窓枠にもたれた青年は、腕を組みニヤリと笑う。
「元気か?アデル」
本日もお読みいただきありがとうございました。
次話投稿は本日19:00頃を予定しています。
結構前から出てきてた男の名前がようやく出てきます。
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