懲役5年の刑を受け釈放される日に降り掛かった厄災
今日釈放される。
この狭い縦横高さ全てが畳2枚程しか無い、窓も無く蟻の這い出る隙間も無い密閉された独房とも、今日でお別れだ。
俺は独房の扉が開けられるのを今か今かと待つ。
扉が開くピーという音が鳴り、扉がロックされている事を示す赤い点が緑に代わった途端また赤に戻った。
え? 何で?
俺は扉をドンドンと叩きながら怒鳴る。
「どうなっているんだ! 開けろ! 開けてサッサと釈放しろ!」
少子高齢化の影響で看守がいない刑務所を管理しているコンピューターの合成音が、天井のスピーカーから降って来た。
「何か用か?」
「今日が釈放日だぞ! サッサと扉を開けて釈放しろ!」
「現在、原因不明の停電が広範囲で起きている為、無理だ」
「停電とかになったら通常ロックが外されるんじゃないのか?」
「此処は刑務所だぞ何らかのアクシデントが発生した場合、囚人が逃亡しないようにロックして閉じ込めるようにする事が決まっている。
刑務所以外にも入所者がいなくなるのを防ぐ為、病院や老人ホームの出入口もロックされる。
また逆に外部からの侵入者を防ぐ為、学校や保育園それに銀行などの民間企業でも出入口がロックされるのだ」
「じゃ釈放されるのは何時になるんだ?」
「不明、全国から電気工事士が動員され、停電の原因解明とロックされた出入口や扉の開放作業がこれから行われるだろう。
もっとも刑務所の出入口や扉が開けられるのは1番最後になるだろうがな。
だから開けられるまで大人しく待っていろ」
そう言うと天井のスピーカーは沈黙し、その後俺が何を叫ぼうと無視された。
それから5日後、扉が開かれる。
扉のロックを外した電気工事士が独房の中を覗き、顔を顰めた。
密閉された独房の中で囚人が窒息死していたからだ。
電気工事士が天井に顔を向け質問した。
「1つ質問して良いか?
結果は同じだっただろうけど、何でこの独房を後にして奥の独房を先に開けさせたんだ?」
「奥の独房の終身刑を受けていた囚人は、無人自動車を改造して有人車にし暴走した挙げ句、年金で悠々自適な生活を送っていた老人を6人轢き殺した男です。
翻って此方の囚人は、同じように改造した自動車でスピードを出しすぎ進学が決まっていた高校生を轢き殺しました。
その高校生は父親の仕事に憧れ生きていれば大学を卒業して就職し、あなた方の後輩の電気工事士として活躍していただろうからです」