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日本人だらけの異世界で  作者: 猫目 潤
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解決、しない

ギルドとタドンさんの愚痴も一段落し、ようやく私の聞き取りが始まった。


名前や年齢、日本の住所。これは私の記憶があるかどうかを確認するのも含めてのことらしい。


「『らのべ』の読み過ぎで異世界を警戒する日本人もいて、慎重になって記憶喪失のフリをする者もいるが、このイリーリニウムでは日本人の知識・技術を買い取る。その為の聞き取りだ。もしも『まだ信用できない』と思うならば、答えなくてもいいぞ。」


ギルド長はそう前置きしてくれたが、今のところ不審な点はない。


私 別に聖女とかではないし(多分)、万が一 国に利用されるようなことになれば、違う国に行けばいいのだ。日本に戻れるかもしれないし。

ならばまずは情報が必要だよね。つまり人脈。全部正直に話して、地道に進んでいこう。

いやまだドッキリの可能性も捨ててない。伊達にアラフォーやってないんだからね!


私はこの国に来た経緯も含めて全て話した。

私の話にギルド長とタドンさんが質問をして、タドンさんがメモをとっていくのだが、この2人、質問や話があっちこっち行ったりきたり、同じ質問をしたり、時間がくってなかなか効率が悪い。


「あの、少しよろしいですか?」


私は我慢できなくなって発言した。


「なんでも言ってくれ」


少し疲れ気味のギルド長に私は控えめに言う。


「質問事項を最初からまとめてアンケート式にしては?」


それまで隣で話を聞いているのかいないのか分からなかったアランさんが俄然乗り出してきた。


「ミサオ、その『あんけーと』とは?」


今までたくさんの日本人が来ているのならば、なぜ今まで改善されなかったか不思議なのだが、私が「専任の担当部署を作り、を前もって質問事項を書いた用紙を用意し、日本人が自分に当てはまるものにチェックをつけ、商業ギルドにも同じ書式にし、控えをとってその書類をそのまま報告書にする」という誰にでも思いつくような案を話すと、ギルド長もタドンさんもポカンとして、数秒経ってから


「おい、タドン!すぐに取りかかるぞ!」


「はい!ギルド長!」


とバタバタ部屋から出て行ってしまった。


ポカンと 取り残された私。

隣のアランさんはポケットから懐中時計を取り出し、窓の外の曇り空を確認した。


「もうこんな時間ですし、また出直しますか。」


(それはいいんだけどさ・・・)


私が懐中時計をじっと見つめているのに気が付いたのか、アランさんは


「1日を24時間にしたのも、時計を作ったのも、日本人の方ですよ。」


そう言って笑った。


というか、私まだこの世界のカレンダーとか、通貨とか、何も知らないんだよねぇ。



────────────────



街を10分ほど歩いて、またアランさんの家に戻る。

冒険者ギルドに行く時にも思ったけど、入り口は自宅と店舗の両方を兼ねていて、入ってすぐに薬品棚やカウンターのある店舗だった。

カウンターの横を通り、自宅の台所兼リビングのテーブル。

座っててくれ、というアランさんが鍋でお湯を沸かし、カモミールみたいなお茶を入れてくれた。


「こちらの世界では『どんな来客にでもお茶を出す』っていう風習がないんだよ。来訪者が酒を土産に持って行き、それを迎えた者が一緒に飲む、ってことのほうが多いかな。最近は日本人のお陰で広まってはきたんだけどね。」


いつの間にか敬語じゃなくなっているアランさん。

ギルドではお茶が出なかった理由が分かった。喉が乾いていたので「いただきます」と断ってから飲む。

陶器の湯飲みを持ったままの私に、アランさんが感心する。


「日本人は食べる、飲む、の前に必ず『いただきます』って言うよね?」


「いや、全員かは分かりませんけど、クセみたいなものですかね。

こちらの世界では 食事の前にお祈りしないんですか?」


「う~ん、宗教にもよるし、家庭にもよるかな。」


そうだ、私この国の宗教のことも知らないわ。


「私、この国の通貨とか、生きていく上で必要なことを何も知らないんですけど、どこかで教えてくれたりします?」


アランさんの目が見開く。なんで驚かれるんだろう。


「ミサオは前向きだね。普通は元の日本に帰れるかどうかを1番に気にするんじゃない?」


「いや、まぁそうなんですけど。日本の気がかりは田舎の両親くらいですし。」


兄2人はとうに家を出て、家庭を持っている。定年を過ぎた両親は、畑仕事で日々を過ごしている。免許返納はもう少し先だろうか。

アカン、ちょっと泣きそう。


なんだか生温い目でアランさんに見られている。


「そろそろ カターニャも帰って来る頃だし、夕飯の準備をするね。」


ん?カターニャとは?


「カターニャは僕の妻だよ。」


奥さんか!


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