高橋くん①
俺、高橋流星、25歳。
ブラック企業でボロボロになるまで働き、1ヶ月ぶりに帰ったアパートの玄関で倒れ、そのまま意識を失った。
で、気が付いたら異世界。
うん、ここまではよくある話。もう聞き飽きてうんざりしてる人もいるかもしれない。
ラノベ好きの俺だって食傷気味。
でも実際に異世界転生(多分)しちゃうと、やっぱり混乱する。「ステータス、オープン!!」って叫んでみたり、「火の魔法!」って厨二っぽく力を込めてみたり。
何も変化がないことにテンションだだ下がり。
そうすると 俺って死んじゃったのか?とかこれからどうしよう、って内心 右往左往。
いや、冷静になろう。まずは現状把握。ここはどうやら森の側。離れた所には街道らしきもの。
そしてその街道を歩いて来る人影が!
危険かもしれないが助けを求めたい。チートじゃなくても言葉は通じるのがデフォのはず。
どんどん近付いてくる人、どうやら俺に気付いているようだ。
(どうしよう、何て言えばいいんだろ・・・俺、怪しいよな・・・)
服装は倒れた時のスーツのまま。側にはビジネスバッグ。
俺の目の前に来たその人は、長Tシャツにチノパンみたいな服装の、ショートカットの女の子だった。
「あの・・・」
俺が言いかけた時、女の子は衝撃的なことを言った。
「あなた日本人でしょ!日本人ギルドに登録に行くわよ!!」
え?
────────────────
後から思えば、俺に声を掛けてきたショートカットの女の子、つまりヒカリの顔立ちが日本人だったことになぜ疑問を持たなかったのか、俺 結構混乱してたんだな・・・。
日本人であることを看破され、「日本人ギルド」などと聞き慣れぬ言葉を聞き、驚く俺の腕をむんずと掴み、ヒカリは早足で元来た道を引き返す。
「あっ、あの、俺!気付いたら、」
腕を捕まれたまま俺は女の子の後ろ姿に話かける。
女の子は振り返りもせずに、
「はいはい、分かってるよ~。とにかく街へ行ってから~」
なんか軽いんですけど。
「すいません!街ってどこの・・・」
ちょっと息切れしてきた。俺、運動不足だな。
「私はヒカリ。それ以外は面倒だから、それも街でね~」
面倒って、じゃあなんで連れて行くんだよ・・・
どれくらい歩いたのか、城壁みたいな壁が見えてきた。
「うわ、ヨーロッパ風だ。」
俺のひとりごとが聞こえたのか、ヒカリはフフッと笑った。
「ヨーロッパ”風”じゃなくて、これがこの世界の普通だよ~。街を囲む壁だよ~」
デスヨネ。実はまだ実感がそんなにない。
街道では誰とも擦れ違わなかったし、魔物とかもいなかった。ただひたすら原っぱを進んで来ただけ。商人の馬車とか、いないのかな?
気候は春くらい。晴れてて良かった。土砂降りの中に転生した、って話は俺は知らないけど。
「あれが入り口だよ~」
馬車と幾人かの人。街の門番というか衛兵に何やら手渡している。
人はみんな西洋の顔立ち。門番のおっちゃん厳つい。
うん、それっぽい服装。中世?なのかな。
列に並んでヒカリと俺も進む。
順番がきて、門番はヒカリを見て呆れた。
「ヒカリ、またかよ。」
ヒカリは笑いながら「そうなんだよね~ いや~ここんとこ多いわ~」と返す。
俺は会話の意味が分からないままボーッと突っ立ってた。
門番のおっちゃんは
「ま、頑張れよ!」とバシッっと俺の背を叩いた。
地味に痛いです・・・。
どうやらこれでようやく街へ入ったらしい。
そこで俺が目にしたもの。
屋台で賑わい、通りにはたくさんの人。
中世ヨーロッパ風の異世界、俺みたいな顔立ちは目立ってジロジロ見られるんじゃないかって心配するでしょ?
でもさ、でもさ、
行き交う人の半分が日本人の顔立ちなんだよーーー!!