表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/38

33.Stay with me

 

「レオン……?」

「遅れてごめんね」

 ごうごうと音をたてて燃え盛る炎の中、レオンは相変わらず穏やかにライラを見つめてくる。

「も、燃えちゃう……」

「構わないよ」

 ライラが座り込んだままオロオロと取り乱すと、レオンは笑って目の前に跪いた。フードまで被っている彼のローブが、魔術の炎を受けて不思議に輝く。魔術に耐性のある素材のようだ。

 ライラは首を横に振った。

「嫌よ、レオンが燃えたら……いや」

「じゃあ、制御しよう」

「できない……」

「大丈夫、一緒にやろう。ライラなら出来るよ」

 両手を温かな手の平に包まれて、ライラはそんな場合ではないのにほっと肩から力が抜ける。


「……できるかな」

「出来るよ。大丈夫。俺がいるよ」

 抱き寄せられて、ライラはたまらなくなって溜息をついた。

 魔力を放出しすぎて、思考が上手く纏まらない。もっと自分を律して、伯爵家の娘として相応しい振る舞いをしなくちゃいけないのに。

 でも元々家を出ていくつもりだったし、こんな騒ぎを起こしたのでライラ自身が罪人として捕まってしまうのかもしれない。伯爵家はどうなってしまうのだろう。やっぱりもっと早く家を出ておくべきだった。


 でも、だとしたら、最後ぐらい好きにしても、許されるだろうか?


「レオン……」

 溜息のように囁いてライラが抱きしめ返すと、いっそう強く抱きしめられる。触れた箇所から、心地よい魔力が流れこんでくるのが分かった。

「上手だよ。そのまま俺に同調して」

 レオン自身のように優しくて温かくて、力強い魔力だ。

「……お願いがあるの」

「うん、なんでも言って」

 周囲は炎で熱い筈なのに、抱きしめられた体の温かさだけが感じられる。ライラは幼子のようにぎゅっとレオンに抱き着いた。

「……そばにいて、ずっと一緒にいて。一人にしないで」

 優しく彼の腕がライラの背中を撫でおろす。頬を、また涙が伝った。

「今度こそ、必ず叶えるよ」

 レオンが力強くそう言うと、ライラはにっこりと微笑んだ。三年前に、そう言って欲しかったのだ。

 でも今、嘘でもそう言ってもらえて嬉しかった。だからもう、何も怖く無くなった。


 そして、まるでふっと音が消えたかのように唐突に、炎が消えた。


 あれほど激しく周囲で燃え盛っていたのが嘘のように炎は跡形もなく消え去り、倒壊した小屋と焦げた地面が残る。木々に燃え移る前だったのは、幸いだった。

「ライラ!!」

 すぐさまオフィーリアが掛けてきて、レオンの腕から引っ手繰るようにして抱き寄せられる。

「ああ、怖かったね可愛いライラ! 守ることの出来なかった姉様を許してくれ……!」

「……守ってくださったわ。お姉様の愛情が、私を支えてくれたもの」

 ぎゅう、とライラもオフィーリアを抱きしめ返す。

 不思議な感覚だった。炎として外に出ていた魔力が、体の内側に戻ってきて循環しているのが分かる。

 体はひどく怠いが、心はすっきりとしていた。


 いずれにせよ罪人として捕まるのならば、愛する姉に気持ちを伝えておきたい。

「お父様達が亡くなってすぐの時、あの人に乱暴されそうになってから……ずっとあの人が怖かった。でも今日はちゃんと言い返したし、負けなかったわ」

「ライラ……」

 背後でぐしゃっ、と変な音と男の呻き声が聞こえる。不思議に思ったがオフィーリアに頬を引き寄せられて、そちらを見ることは叶わなかった。

「あの時だけじゃなく、ずっと怖い思いを抱えていたんだね、可哀相に」

「……私は、こんなに凛々しいお姉様の妹だもの……怖かったけど、あの人の言いなりになんかならなかった。……お姉様、褒めてくださる?」

 ライラが首を傾げると、涙が零れた。オフィーリアはたまらなくなって、また妹を強く抱きしめる。

「勿論だとも! さすが私の妹だ、ライラはこんなにも可愛いくて優しいのに、とても勇敢だな。自慢の妹だよ」

「……嬉しいです」


 背後では、何かがぐしゃりと潰れる音が何度か聞こえたがライラが振り返ろうとする度に、オフィーリアに頬にキスをされて引き留められた。

「……最後にお姉様に会えてよかった。ウェンディにもよく伝えてください」

「最後になどさせるものか。ウェンディも、ライラの帰りを待っているよ。私達の家に帰ろう」

 そっと抱擁を解いて体を離したが、オフィーリアは行かせまいとライラの腕を放してくれない。

「でも……こんなひどいことをして、私……」


「こんなことって、どんなことだい?」

 そこに、ぐいぐいと美しい顔が覗き込んできて、ライラは短い悲鳴をあげた。すぐさまレオンが駆けつけてきて原因を引き離し、ライラは再び彼の腕に抱き込まれる。

 本来ならばレオンの抱擁は拒絶すべきなのに、体が怠い所為で抵抗する気力が出ない。それに、本音を言えばこの腕の中にずっといたかった。


「シシャ様。王都から出てこられては、困ります」

 レオンが咎めるように名を呼ぶと、銀の長い髪に緑の瞳のシシャは悪びれることなくニコニコと微笑んだ。

「大丈夫、バレる前に戻るさ。国際問題になんかしないと約束しよう」

「……それなら最初から同行してくれよ。一人で転移魔術でも使ったのか? 何でもアリだなあなたは……」

 流石のオフィーリアも呆れた様子で言い、レオンから妹を取り返そうと腕を伸ばすが阻まれる。

 周囲の騎士隊やローブを羽織ったレオンと違い、シシャだけは夜会会場で見たままの出で立ちだった。オフィーリアとレオンの攻防を無視して、シシャはライラに顔を近づけると魔力の様子を観察する。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ