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13.大切な話、その布石

 

 自室で休憩中だったウェンディも呼んで、皆で応接室でお茶の時間である。


「お久しぶりでございます、レオン様」

 ティーセットを運んできたアガタが、レオンを見つけて恭しくお辞儀をすると彼も微笑んだ。

「やぁ、アガタ。あなたがこの屋敷にいてくれて、心強いよ」

「どこ目線だそれは」

「お姉様!」

 オフィーリアが脚を組んで悪態をつくので、ライラは慌てて両方を咎める。

 一人掛けのソファにオフィーリア、角を挟んで二人掛けのものにライラとウェンディが座っている。ライラの向かいにレオンは座り、にこりと微笑んだ。

 途端、どきりと胸が高鳴って、ライラは誤魔化すように妹の方に体を向ける。そのウェンディは、レオンから贈られたキャンディボックスの表面を嬉しそうに撫でてニコニコとしていて、とても可愛らしい。

「レオン兄様、ありがとう! でも私は最近、メルボンのチョコレートもお気に入りなの」

「分かった。覚えておくよ」

「もう、ウェンディ!」

 ちゃっかりしている末っ子に、ライラは顔を赤くして咎める。けれどレオンは快活に笑って請け負った。


「ライラは? 最近は何が好き? 教えて」

「えっ……」

「分厚い肉が好きと答えておきなさい」

 レオンに問われてライラが戸惑う隙に、オフィーリアが口を挟む。

「リアには聞いてないよ」

「私にも聞いて然るべきでは?」

「どうぜ美酒と妹達だろう」

 先程まで穏やかな笑顔だったのに、今のレオンは片眉を上げて皮肉げな表情をしている。オフィーリアと喋っている時の彼はとても活き活きとして見えて、ライラにとって彼らの仲の良さは如実だった。


 ウェンディは二人のやり取りには興味がないらしく、ライラに凭れて箱をぐいぐいと示してくる。

「お姉様、メルボンの箱は最近意匠が変わったのね。これも可愛いわ」

 人気の店の人気の商品だが、それゆえにさほど高価なものではない。一年前、両親が健在な頃ならばウェンディは望んだ時にその箱を手に入れることが出来たのに。

 今だって切り詰めれば買えるけれど、ウェンディは遠慮して強請っては来ないのだ。

 小さな妹に遠慮をさせてしまっていることが、ライラは心苦しかった。

「本当、可愛い箱ね」

 ウェンディの髪を梳くようにして撫でると、うっとりと目を細めて嬉しそうに微笑まれた。


 いつの間にか会話を止めたオフィーリアとレオンが揃ってこちらを見ている。

「な、何です?」

「私の妹達は、今日も実に可愛い」

「ああ、同感だ」

 客前だというのにウェンディに対して姉として寛いだ様子を見せてしまったことに、ライラは恥じらう。

「それで、そろそろ本題に入りなさい。まさか本当にただ遊びに来たわけじゃないだろうね?」

 ぱちん、とオフィーリアが扇を鳴らす。

 その言葉にレオンが居住まいを正すと、つられてライラも緊張する。そんなこちらの様子を見て、レオンはリラックス出来るようにちょっとだけ笑いかけてくれた。


「まず、遅くなったがヴィルリア伯爵夫妻のこと、お悔やみ申し上げる」

「……ああ」

「ありがとうございます」

 低く甘い、よく通る声にそう言われて、オフィーリアは鷹揚に頷き、ライラはウェンディの肩を抱き寄せて礼を言う。

 ウェンディは、その姉の腰に抱き着き返した。

「……俺が、隣国ガルジェラでギードリア外交官として在任しているのは知っているよな」

 彼は、ガルジェラ国に留学していてそちらを卒業した際にそのまま在任外交官として就職していた。このギードリア国を離れて三年にもなるのだ。

 それでも本来四年掛かる教育課程を一年で修得して卒業し、早々に外交官として採用されたというのだから相当優秀なのだろう。彼はライラの四歳年上なので、今年二十歳。

 国内ならまだしも、外国での在任外交官とは異例の抜擢だ。


 ガルジェラは十年程前に国王が病で亡くなり大きな政変が起きて、当時まだ若かった第一王子が急遽王座に就いた。ヴィルリア伯爵はその前から外交官を務めていて、政変後もガルジェラとギードリアの国交に尽力したのだ。

 レオンは身近にヴィルリア伯爵の活躍を見ていて、将来は同じように外交官になりたいと志願していた。その夢が叶った形だ。


「……律儀に、時候の便りをライラに送ってきていたからな」

 オフィーリアがそう言うと、レオンはライラに向けて微笑んで頷く。

「お手紙を、いつもありがとうございます」

「俺もライラからの返事が楽しみだったよ」

「妹に色目を使うな。話を続けろ」

 オフィーリアがぴしゃりと言う。


 いつも思うのだが、姉は何故かレオンにだけはやけに高圧的かつ厳しいのでライラはハラハラする。それを咎めるどころか、レオンは肩を竦めただけで話を戻した。

「本当は伯爵が亡くなった時にすぐ帰国したかったんだけど、職に就いたばかりでそれも叶わなくて、ずっと申請し続けていてようやく陛下の許可が下りたんだ」

 言って、レオンは上着の隠しから封書を取り出すとオフィーリアに渡した。

 レオン宛で既に開封済みの封筒から、オフィーリアは書類を取り出して広げる。


「…………我が伯爵家の、領地経営及び資産管財の公的補佐に……レオン・クォールを推挙する、とあるが?」


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