11.繭
サーベルを鞘に収めたオフィーリアは、足音も荒く屋敷内に戻る。
「フーゴ! 魔除けのハーブを玄関に撒いておくれ。二度とあんな邪な男が、我が屋敷に入ってこられないように!!」
「はい、お嬢様」
フーゴは慌てて姿勢を正して、頷く。
怒りの収まらないオフィーリアは、カツカツと爪先で玄関の床を鳴らしてみせた。金の髪をかき上げ、苛立たし気に唸る。
「ジェラールの奴、我が家から盗みを働き可愛いライラを傷つけておきながら、よくも顔をだせたものだ……」
勿論オフィーリアとしても、遠征地から戻り事の次第を聞いてすぐにゴード家に正式な抗議を申し入れていた。家財を盗んだこともだが、ライラに手を出そうとするなど許されることではない。
しかし未遂とはいえ男に襲われかけた、などとライラの名誉を傷つけかねない出来事でもあり大っぴらに抗議することも出来ず、この一年ゴード家からはのらりくらりと交わされていた。
ヴィルリア伯爵の妹がゴード家に嫁いだのは当然伯爵家を盛り立てる為の政略結婚だったというのに、伯爵夫妻が亡くなって以降にオフィーリアの不在時に資産を奪っていったきり。本来ならば領地経営を共に摂り行っていくべき立場だというのに、完全にゴード家はその役目を放棄していた。
伯爵代理としてオフィーリアの仕事が上手くいかないのもこの所為であり、ゴード家を強く断罪出来ないことにも繋がっていた。そのことをジェラールも心得ていて、今回のように堂々と屋敷に顔を出せたのだろう。
「やはりあの腐った性根、徹底的に叩くしかないか……」
物騒なことをつい呟く。
伯爵家の運営をゴード家が手助けしないのならば、きっぱりと決別すべきだ。領地経営などは、国から補佐を寄越してもらえるように正式に申請している。その申請が通れば伯爵家からゴード家を切り離し、資産を盗んだ罪などもきちんと清算するつもりだった。
「レオン! お前もいつまでもライラにくっつくな……」
フーゴが魔除けのハーブを取りに庭に向かい、ホールに残ったレオンを咎めようとオフィーリアは顔を向ける。
が、まだ青い顔をしているライラの白い指先がレオンの服の裾をきゅっと掴んでいるのを見て、口を噤んだ。
可愛くて可哀相なライラ。こんな時ぐらい、信頼出来る相手に思い切り縋っていいのに。
オフィーリアは、ライラとウェンディ、そして使用人一家を何があっても守ると決めている。その為ならば何を犠牲にしても構わない。
だがライラのことを、家族であり姉であり女性だからこそ守ってあげられる部分がオフィーリアにあるように、レオンだからこそ守ってあげられる部分もある。
恋の相手には、オフィーリアはなってあげられない。
それを寂しく思う気持ちもあり、既にものすごく面倒な男に思いを寄せられている妹を心配に思う気持ちと、悪友のような幼馴染を信頼する気持ちがまざりあって、ついレオンには冷たく当たってしまうのだ。
「……」
黙ったオフィーリアには目もくれず、ライラをこの上もなく大切そうに抱きしめて彼女だけを一心に見つめるレオン。
あの男の執着は少し危ういと思うけれど、気をつけて見ていないとフッと消えてしまいそうなライラにはあれぐらい重い男がちょうどいいのかもしれない。
いずれにせよ可愛い妹のライラ、彼女が幸せであることこそがオフィーリアの願いだ。
「……扉の外に荷物が落ちていたぞ、お前のだろう。拾ってから、ライラに応接室に案内してもらいなさい」
オフィーリアは一方的にそう告げて、まずウェンディを応接室でのお茶に誘う為に階段を上がった。
短いのですがオフィーリア視点でキリがいいのでココまで。その代わりに、今日は昼12時も更新します!
魔除けのハーブ、は塩撒いとけ!的なカンジです。




