共闘
勇者ゴルスチと暴虐の魔王ヴィレント。
体重—— 防具も含めゴルスチの圧勝。
身体強化—— わずかにヴィレントが上。
筋肉量—— わずかにゴルスチ。
骨格強度—— ヴィレントが種として勝る。
速度—— 防具の分、ヴィレントの圧勝。
回復力—— ヴィレントの専売特許である。
条件はほぼ互角。
種として優秀なヴィレント、種の越えた先にいるゴルスチ。
両者の一騎打ちを決める要素は—— 技術力である。
ヴィレントはそのフィジカルの圧倒的強さから、まともに格闘をした経験などない。
一方でゴルスチは、幼少からあらゆる格闘術を叩き込まれ、全てにおいて達人級。
勝敗は決まっていた。
勇者の拳がヴィレントを捉える。
ヴィレントは防御を捨てて回復力に任せ、反撃。
反撃に合わせて勇者がカウンターを取る。
力任せにヴィレントが凪いだ拳をバックステップで避け、
勇者がジャブ、ストレート、アッパーのコンビネーションを叩き込む。
浮いた体を利用してヴィレントが両の拳を合わせ、振り下ろす。
勇者がタックルでヴィレントの体制を崩し、避ける。
そのまま地面に叩きつけ、マウントを取る。
ヴィレントは暴れるが、体重差と重心移動に分がある勇者を動かせない。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
次第にヴィレントは本人の回復力が追いつかなくなり、体はグダグダにちぎれ、戦闘継続が不可能となる。
—— ここまで7秒。
『……限界だ! ”原質”を!』
カティオの指示を聞く前に、既に勇者は動き出している。
魔法を使えない原質の魔王ルディンは無防備。
この機会を逃すはずがない。
しかしここで無縁の魔王フィニティムが間に入り、勇者の進行を止める。
フィニティム本人はさほど強い体でも、戦闘能力を保有しているわけではない。
ただ、その他を寄せ付けぬ独自魔法『斥力』が、全ての接触を拒む。
『旦那、三秒だけそこで耐えてくれ!』
勇者の”力”とフィニティムの”斥力”の押し合い。
竜の突進すら拒む”斥力”、いくら6トンの勇者とて、押し切れない。
一秒。
二秒。
三秒—— 。
フィニティムを中心として彼らの頭上に現れたのは、1メートル四方はあるであろう、超重量物質『暗黒石』。
「間に合った!」
頭上にはカティオ—— 彼女をプラビアが転送陣で飛ばし、さらにカティオがアイテムボックスから暗黒石を取り出したことによるコンボ。
暗黒石の推定重量は、500トン。
それでもなお耐えるフィニティムの斥力は恐るべし。
しかし、斥力を解いた瞬間に、500トンもの質量が降り注ぐ。
もはや、彼の命運は決まったも同然である。
「旦那、”原質”を!」
既に勝負の決まったフィニティムを捨て置き、迂回してルディンへ接近。
魔法を封じられたルディンは、成す術もなく勇者の拳によって爆散した。
ずどん、とこの世のものとは思えない音で、暗黒石が落ちる。
底が見えないほど沈み込んだその場所に、フィニティムの姿は当然、見当たらなかった。
—— ここまで15秒。
まだ、魔王の誰一人として復活はしていない。
残るは、『不死王』のみ。
戦闘開始からカティオはずっと捕捉し続けているため、場所は割れている。
そしてその場所へはもう既に、エルディスが向かっていた。
不死王は四天王で最強である。
ただし、それはこの戦闘力ではなく、『子の魔王』の操作、そして対軍隊を想定した人海戦術において、であった。
不死王は自身で戦闘する術を持たない。
膨大な魔力を一人で放出し続け、加えて魔王などという高位の存在を操ったため、既に魔力はそこを尽きていた。
「終わりだ、不死の。このまま部下の恨みをぶつけることは容易いが、それでは誰も報われぬ。大人しく縄についてもらうぞ」
エルディスが不死王を、その剣で捉えた時だった。
「ひひっ……死にたくねえなあ……でも、そんな都合良いこと無えよなあ……これが力の代償か……ひひ」
不死王の顔、体、全てが砂になって崩れていく。
力の代償—— 『祖の魔王』による呪いである。
「くっ……ふざけるなっ! 死で貴様らの罪を償えるとでも思うてか!!」
「戦だぜ……死ぬも生きるも平等公正よ……ひっ—— 」
この言葉を最後に、不死王が風に消える。
矛先を失ったエルディスの剣は、力なく宙を彷徨っていた。
そしてミレス平原に残されたのは、勝者である勇者一行と、無限に広がる屍のみであった。
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