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八代の魔王

 



 狡猾の魔王カリダスの幻想魔法は、通常のそれと大きく異なる。



 一般の使い手ならば、抵抗の弱い相手に対し、ありもしない幻を見せることで隙を作ったり、行動を制限したりするものだ。



 しかしカリダスの幻想魔法は、規模も効果も幻想に収まらない。

 作り出した幻想が対象に及ぼした行動が、現実に反映されるのである。


 例えば幻想で作り出した剣が、対象を切り裂けば、実際に同じような傷を負う。

 幻想で作り出した毒が対象に触れれば、実際に毒が回る、と言ったふうに。


 そしてその規模は、なんと大陸を覆うほどにまで巨大である。



 もちろん、制限もある。



 対象自身が想像・認知できない傷や死に方は効果を得られないし、術者であるカリダスが想像・認知できない幻想も創ることができない。


 逆にいえば、カリダスと対象の認識できる範囲内であれば、カリダスは事象をほぼコントロールできると言って良い。




 0.0秒—— 『確実に刺さる槍』が無数に宙に現れる。


 0.1秒—— 勇者が先ほど拾い、隠し持っていた小石を親指で射出。


 0.5秒—— 勇者が槍を認知。槍が勇者に向けて発射される。


 0.6秒—— 小石がカリダスの頭部を弾く。カリダスの認知が外れ、槍が消える。


 1.0秒—— 勇者の飛び後ろ回し蹴りがカリダスの上半身を砕いた。




『旦那、上だ!』



 猛禽の魔王レイパクス。

 一際大きな体を持ち、逞しい翼、鋭く硬い鉤爪を持つ。


 その勇者ほどある鉤爪が、頭上から勇者を捕まえた。




 レイパクスは予想外の重量に困惑。

 6トン—— 中堅のドラゴン並みの重さである。


 その勇者に捕まったのだ。

 持ち上げることは不可能—— ならば圧殺する。




 レイパクスがその鉤爪であらゆるものを握りつぶしてきた。

 人、鎧、岩、城、他にもたくさん。




 地球上最大の猛禽類に、オウギワシがいる。

 全長1メートル越え、翌幅は2.3メートルにも及び、体重は8キロになるものもいる。


 肝心の鉤爪で掴む力は、およそ150キロ。

 メジャーリーガーが80から100キロだと考えると、その恐ろしさがわかるだろう。




 レイパクスは、その猛禽類の王であり、魔の王である。

 全長5メートル越え、翌幅は12メートルに迫り

 、体重は猛禽類としては驚異の1トン。


 その恐れられた『魔王の鉤爪』の握力、20トン近く。




 そしてこれは、レイパクスの素の力である。




 魔力によって強化したレイパクスの握力は、50トンを超える。




 これまで潰せなかったものなど無かった。

 敵を掴むことこそが、絶対の勝利条件だった。




 それが今、勇者によって覆される。




 一般的に健康な骨の耐えられる荷重は600キロと言われている。

 科学の力を使い、人の10倍もの体重を支えてきたゴルスチに至っては、6トンである。


 加えて、彼にはそれを守る筋肉がある。

 重量挙げでは1トンを挙げる彼だが、対荷重という意味で行けばおよそ2トン。



 合計8トンもの対荷重を誇るが、これも彼の素の力。



 魔力の力を得たゴルスチは、7倍の56トンまで耐える。

 レイパクスの握力を持ってしても、潰し切れない。




 レイパクスの方が体積は大きいが、体重では勇者のたかだか6分の1。

 圧殺できない以上、引っ張り合いで勇者がまける要素など一ミリも無い。




 大きな足を逆に掴み返し、力に任せて振り回す。



 ハンマー投げ。

 遠心力を付けて投げる事に最適化された動き。


 競技であれば、男子で7キロの鉄球を投げ、世界記録であれば80メートル以上も飛ばす。



 当然ゴルスチはそれを超える、300メートル強。

 そして初速の時速は200キロをマーク。




 少々重いが、レイパクスすら勇者にとってはその延長。


 時速100キロの初速で、無縁の魔王フィニティムへ向かい、地面と並行に放り投げる。




『旦那、それは悪手—— 』



 カティオの警告は間に合わない。


 放り投げられたレイパクスの体はフィニティムの直前でピタッと止まった。




『あいつは”無縁”、物理も魔法も、あいつに近づくことはできねえ』




 レイパクスは既に、遠心力により体の筋肉がちぎれ、再生が必要。

 とはいえ、あの程度ならすぐに再生してきてもおかしくはない。


 最初に戦闘不能にしたアニマに関してもそうだった。

 既にあれから10秒ほど経過している。



 暴虐の魔王ヴィレント。


 無縁の魔王フィニティム。


 原質の魔王ルディン。




 残り3体が勇者を取り囲む。


 倒した敵が再生してくるまで、おそらく一分と無いだろう。


 ここからが本当の戦いである。




『”無縁”は俺に考えがある。右の”暴虐”と後ろの”原質”を頼む』




 信用、信頼、それをうんぬん言っている時間はない。

 勇者は指示通り、まず暴虐の魔王ヴィレントへ迫る。




『”無縁”はひとまず近付かなけりゃ大丈夫だ。”原質”はプラビアが抑える!』




 原質—— 魔法のあらゆる理を司る魔王。

 操る炎は業火のごとく、雷は天雷のごとく、冷気は氷山の如く、風は竜巻の如く。


 その魔法を抑えることができる、唯一の属性が神聖である。

 精霊の化身、プラビアであれば、数秒の時間稼ぎには。



 プラビアの神聖魔法を、感応石を媒体に発動。

 遠距離でも感応石とカティオの感知を組み合わせれば正確に魔法を発動できる。



 ルディンの練り込んだ魔力が押さえつけらる。

 神聖魔法は人類のみが使える術式。

 魔王とて簡単には突破できない。



 勇者と暴虐の魔王ヴィレント、束の間の一騎打ち。


 サイズはほぼ同等。

 違うのは、その要素。


 ヴィレントは『子の魔王』で最も古く、戦闘において最もバランスの良い魔王。

 攻撃力、防御力、速度、技術、回復力、魔力、全てが超高水準で揃う、ただ一体の魔王でもあった。



 肉弾戦—— もはや、正面から殴り合うのみである。





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