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 面倒。


 学校に行けと言った玲壮(れお)に、平日の朝から部屋着のままソファで寛いでいる怜楓(れん)が日本語とも英語とも中国語とも違う文字が表紙に書かれた分厚い本から顔を上げ告げた言葉である。


 普段の玲壮なら別に怜楓が学校をサボろうが何かを言う気はない。

 だのに今回、口出しした理由は怜楓の出席日数が残念な事にギリギリになった所為である。

 やる気は一切なく授業は基本まともに受けないのにテストの点数は毎回三桁取ってる怜楓の進級の可否は出席日数の配分が大分大きくなってる。遅刻はもう諦められたのか怜楓が裏で何かしたのか何も言われなくなった。

 兎に角、それを本人も理解している上での冒頭の言葉だ、玲壮の口からは思わずため息が漏れた。


「留年したらどうするつもりだ」

「留年しない為に色々方法があるんだよ」


 どう考えてもまともな方法じゃないな。

 その行動を止めない程玲壮は常識や人間性を欠いていない、さてもう少し説得をしようかと口を開くと面倒になったのか怜楓が本を閉じて起き上がる。


「じゃ、こいつに任せよう」


 そう言って何もないところから球体人形を取り出し、魔力を籠めると、少しずつ形が変わっていき、怜楓そっくりになった。ご丁寧に制服まで着てる。


 脳天に手を当て色々いじってるらしく、終了、という言葉と共にその人形の怜楓と同じ深緋色の目が開かれる。

 瞬きを一度二度と繰り返し立ち上がる。


「じゃ、行こっか」


 本物そっくりの表情、口調で玲壮に声を掛け玄関に向かっていく人形を視界に入れず、再びソファに寝転んで本を読む怜楓に呆れたような目を向けた後、玲壮も玄関に向かう。


 ***


 玲壮は学校をサボった怜楓の代わりに学校に放り込まれ、人通りがなくなるなり活動停止した怜楓と酷似した人形を肩に担ぎながら学校から家への帰り道を歩いていた。

 帰ったら文句を言う、そう心に決め足を動かしているとポケットに入れていたスマホが鳴る。

 画面を見ると書かれている名前は怜楓、通話ボタンを押し耳に当てると挨拶もなしに『犬拾っちゃった』という言葉が耳に入る。

 そうなのかと返すと『じゃ』と電話が切られる、帰ったら覚えてろよと家への道をショートカットするために脚に力を入れて屋根の上を直線距離で走る。


 玄関の扉を開けリビングにいるらしい怜楓に人形に放り投げる、当たる前に消えた、残念。


 玄関の扉を潜ったときに感じたもう一つの気配の元、ソファに座る紺色の髪の青年に視線を向け指さして短く「説明」とだけ口にする、犬はどこ行った。


「だから言ったじゃん、拾ったって」

「犬じゃないだろ」

「あ、確かに犬より猫に似てるよね」


 何故?

 残念な事に犬にも猫にも見えない玲壮は純粋にそんな疑問を浮かべて首を傾げた、俺がおかしいのかこれは。


 話の当事者である青年は金色の瞳に困惑の色を浮かべ戸惑った様に視線を彷徨わせている。

 外見年齢は十八歳前後の美丈夫という言葉が似合う様な青年だがそのどこか幼く感じる仕草に玲壮はちょっとほだされた、具体的に言うなら九割程、異世界の勇者は子供に弱かった。

 子供判定していいのか疑問だが。


「兎に角、詳しい説明をくれ」


 だからと無条件に受け入れる訳ではない、何かあれば怜楓は自分で解決するのだろうが八割以上の確率で玲壮も巻き込まれるのだ、暇な時ならいい暇つぶしになるから別に構わない、だが事情説明は欲しい。

 その意図で聞いた質問への回答はその青年を拾ったことと名前を怜楓は真也(しんや)と呼ぶことにしただけだ、玲壮はふざけんなと反論した。お前自分の世話もまともにできないだろ。

 文句言うべきところはそこじゃないと言う者はこの場にはいなかった、結局玲壮の常識もそんなにまともな訳じゃないのだ。


 まぁ、これ以上この問答を続けたところで意味はないだろう、その内面倒になった怜楓が真也を猫に変えかねない、それはやめた方がいいだろう。


「仕様がないな」

「わぁい」


 十人いたら二十人は振り返りそうな人形の様に整った顔にわざとらしく歓喜の色をのせて喜ぶ怜楓に玲壮はため息がこぼれる。

 転生してからよくため息ついてる気がする、俺の幸せ返せ。

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