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視界に映るのは木と土と草。
見覚えがある様な無いような場所の地面から数ミリ離れた位置に出現して、現在地を怜楓に尋ねる。
「で、ここ何処だ?」
「セイが酔いつぶれた森」
「ここに来た理由は?」
「一回現場検証みたいなのしてみたかったんだよね」
あぁ、なるほどな。玲壮は思った。
なるほど、コイツ完全に遊んでるな。
「……真也は?」
「この辺に設置しといたほうがいいのがあって」
こき使われてんな、どうでもいいが、アイツはそれでいいのだろうか。いいんだろうな。
ソレに、コイツの場合はワザとヒト使い荒くしてるのだろうし。
「……最近ミステリー読んだか?」
「シャーロックホームズシリーズ一気読みした」
マこれだけ余裕かましてるってことはもう解決までの目途は立ってるのだろうと思って、さらに質問を重ねていく。
何かよくわからん探偵ごっこだか何かを始めるためにそこら辺を見回している怜楓を指さして、玲壮は横に立っているセイに聞く。
「解決、アレに頼んでいいのか?」
「最終的には解決するデショ」
「その前に遊ぶぞアレは」
アレと示された怜楓はどっからか取り出した虫眼鏡越しに空中を眺め直ぐにそこら辺に放る、邪魔だったんだろうな、環境に悪い奴だ。
「解決だけを目的にするなら最善の選択だと思うんダ」
「マそうだろうが」
もう一度怜楓に視線を向け、犯人が分かってる犯人捜しは楽しいのか疑問になって、マどうでもいいかとその辺の木に寄りかかって無言で見つめる。
「この辺かな」
何もない空間に視線を向け怜楓はそう呟く。
何かがあるようには玲壮の目には見えないしそれ以外の誰の目から見ても何かがある訳ではないように感じるが、怜楓には何か見えてるのだろう、紅い目が細められる。
「何かあるノ?」
「軽く時空歪んでる」
「アそーゆーの見えてる感じネ」
セイが怜楓の隣に立って空中をジッ、と見つめる。
本当なら頑張れば見える筈なんだけど。ムヌ、やっぱ駄目だな、はよどうにかしよ。
そんで次からは酒を程々にしよ。
セイが何回目かは分からないが四桁いってそうな無駄になるだろう決意を改めて固めた、そもそも禁酒じゃない時点で無理だろ、とかもっともな事を言う奴はいない。
その辺りで怜楓が顔を横、木の上に向け。
瞬きを一回して、その場から消えて、木の枝から誰かを掴んで飛び降りる。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何も知らない」
「まだ何も聞いてないよ」
黒い翼と一本歯の下駄、山伏の装いに身を包んだ男──この辺りの山を縄張りにしている天狗だろう──は、天狗の面の奥の瞳で怜楓から目を逸らさずけれど目を合わせずその場を離れようとする、しっかりつかまれているのかいくら藻掻こうと離れられていない。
残念、そいつは結構力が強いっていうか、筋肉自体はないがパワーを魔力で底上げしているのだ、だから本気で拘束しようと思えば体格さえそう変わらなければ大抵の奴を片手で押さえられる。
マ無理やり底上げした結果壊れた肉体も魔力で自動的に治るから分かりずらいが結構肉体に無理させているのだ、よくやるな。
「アンタと会ったら目を合わせず視線をそらさないまま後ろに下がって全力でその場から離れろと言われているんだ」
「面白い冗談言うねソイツ」
冗談で言ったわけじゃないんだろうが、対応が間違ってるな。野生の熊か何かと間違えられてんのかね。
野生の熊から逃げる時のソレだと残念だが怜楓からは逃げられない。聞くだろう、逃げられると追いかけたくなるってヤツだ。アイツにそんな欲求はないが、生物ってそういうものでしょとか言って追いかけていくのだ。ようは熱心なごっこ遊び、よくやるな。
正直確実性は余りないが本気で逃げたいなら、間違っている方の熊と遭遇した時の対処法を玲壮はお勧めしている。
息と気配を殺して視界に映らない場所で、体制を低くする、あるいは小さく縮こまる。
要は興味を持たせなきゃいいのだ、そういう存在は怜楓にとってその辺の小石と変わらないんだから。ホラ、道に落ちてる小石が邪魔だからって全部蹴り飛ばしてはいかないだろう、つまりそういう事。
マ今回は聞かれたことを素直に返答すれば解放してくれるだろうが。
怜楓に遊ばれている姿にそろそろ放置することに良心が痛みを覚えたような気がして、ついでに真也も戻ってきた。あとセイも飽き始めたのか翼から羽根を一枚ずつ毟り始めてる。そいつ泣きそうになってんの見えてないんかね、やめてやれ。




